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低成長時代に入り、少子高齢化が進むなか、多様な人材の活用(ダイバーシティーマネジメント)が求められる日本企業。川本裕子・早稲田大学大学院教授は「意識改革には評価システムの見直しが鍵」と指摘する。経営者のみならず、働く女性も意識すべき、日本を取り巻く現状について、川本教授に聞いた。

「女性活用」は「はじめの一歩」

――日本のダイバーシティーは遅れている、とよくいわれます。具体的に日本はどういった点に課題があるのでしょうか。

「日本は低成長時代に入り少子高齢化が進んでいます。あらゆる人を生かし、組織のパフォーマンスをあげるには、どういった形のワークスタイルがいいのか、徹底して考える必要があります。これまでの日本企業は、家族義務はなしの若手から中年の日本人男性が、あらゆる時間帯にあらゆる場所であらゆる仕事を請け負う、という条件が大前提になっていました。高度経済成長期において、同質性の高い組織が一丸となって進むことが業績をあげるために一番都合がよい、と考えられていたからです。1970年代ごろまでは非常にうまく働いた、と信じられているシステムです」

「低成長時代に入り、万人にとって公正で働きやすい組織が必要になりました。しかし、24時間勤務地を問わず働く、家族義務のない人を前提にした組織に、育児や介護に携わる人や、病気や障害で時間的・地理的制約のある人を単に加える、というだけでうまくいくはずがありません」

――ダイバーシティーマネジメントによって、日本企業はどのように変わることができるでしょうか。

早稲田大学大学院教授 川本裕子氏

早稲田大学大学院教授 川本裕子氏

「正しい方向感を持って進められるなら、同質性が高いとコミュニケーションコストも低いしスピード感もあるのかもしれません。しかし、方向性に間違いがあっても(改善できずに)そのまま突き進んでしまう、という大きな危険もはらんでいます。多様な人材を抱え、様々な意見や見方のできる組織であれば、リスクに対する見方も多様になり、対応が可能になります」

GDPをもっと上げられる

「ある意味日本はとても余裕のある国だと感じます。働くことのできる女性、特に高学歴の女性が社会であまり働いていない。(女性をもっと活用すれば)国内総生産(GDP)をもっと上げることができるのに本当にもったいない。『女性活用』は多様な人材活用への『はじめの一歩』です。男性でも女性でも何歳でも働きやすい会社は、誰にとっても魅力ある会社と評価されるはずです」

――1986年に男女雇用機会均等法が施行されて30年。この間の変化はありますか。

「実感として世の中が変わりつつあると思います。これまで会議に出ると男性20人のうち女性は私1人、残りは全部男性、というケースが多かったのですが、最近は女性が2~3人になってきました。これは進歩だと思います。政府の審議会などは(一定割合で女性の登用を義務付ける)『クオータ制』をかけているので、(女性が)3割です」

「20歳代、30歳代の若い男性に『イクメン』が増えていることも大きな変化です。若い男性は『次世代を育てる』ことに参加する意欲が高くなっています。今の30歳代後半の男性から家庭科が必修だったので、男女の役割意識が薄れてきていることもあるでしょう。大学院の学生に聞いても、自分のパートナーにちゃんとキャリアを積んでもらい、自分も家事や育児に参加したい、それでこそ人生が成り立つと考える人が非常に多いです」

「一方で主に40歳代、50歳代の意思決定層はなかなか変わりません。彼らはこれまでのシステムで20年、30年と過ごしているし、奥さんが専業主婦という人が多いので、実感がわきません。育児や家事、介護を抱えた人たちにとって2分の時間がどれだけ大切なものなのか、理解できていない。例えば保育園にお迎えに行かなければならないのに、終わるはずの会議が延びたらどれだけ負担になるか、朝の30分がどれほど貴重かわからない。悪意はなくとも、実感がないので想像ができないのです」

女性のほうが長時間労働を評価されやすい

――女性はダイバーシティーマネジメントをどのように考えていけばいいでしょうか。

「これまで女性を適切に評価し、活躍させることで組織の多様性をもたらすべきだ、と申し上げてきました。ところが、女性も長く働くうちに長時間労働を是とするようになり、女性という多様性をなくしている場合があるように見えます。(女性も)男性と同じ振る舞いをしなければ昇進できないからです。その結果、女性の過剰適応のような状態になっている。山口一男シカゴ大教授は、男性は長時間働いているから昇進している、ということはないが、女性は長時間働いている人のほうが評価されている、と統計的に分析しています」

アウトプットを評価する仕組みを

――我々が意識を変えるために効果的な処方箋は何でしょうか。

「トップが組織を変えることです。なかでも一番鍵となるのが業務の評価システムです。ドイツの国防省では、男女を同等に評価できる力を昇進の条件にしています。残念ながら人間は自分の問題としてとらえないとダイバーシティーを理解する、ということにはなかなかなりません。昇進の条件にするなど、評価システムを整えることが重要です」

――評価する人の訓練も重要ではないでしょうか。

「人を評価するというのはものすごくエネルギーがいるし時間がかかります。日本は、知的職業やサービス業にも製造業的な評価システム、主に労働時間(インプット)を図る評価システムを入れています。そのほうが簡単なのです。一方で、アウトプットで評価するのはとても難しい。(評価者)一人一人が力をつけなければならない。フェアネス(公平性)も、客観的な視点を持つこともスキルで、訓練が必要です。一方で日本は職場内訓練(OJT)に代表される、現場に適合する能力を優先し、(マネジメントにおける)座学を嫌ってきました」

――具体的に評価するスキルを身につけるトレーニング法はありますか。

「米グーグルなどが取り入れている訓練が参考になります。『お父さんと息子が事故に遭いました。息子は一命をとりとめ、病院に運ばれたところ、外科医が出てきて言いました。それは自分の息子だから手術ができない』。この文章は正しいか、間違っているかどう思いますか?皆、一瞬戸惑います。その外科医が母親だと、ということがすぐに思いつかないからです。グーグルはこうした自分の偏見や先入観に気づく、という訓練に時間を割いて、社員のダイバーシティーに対する意識を高めていると聞きます。こういった訓練も、有効な方法です」

川本裕子氏(かわもと・ゆうこ)
1982年東京大学文学部卒、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。1988年英オックスフォード大学大学院経済学修士修了後、マッキンゼー東京支社に入社。2004年から早稲田大学大学院教授

(松本千恵)

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