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東京大学などアジアの有名大から新卒が続々入社するソフトウエア会社のワークスアプリケーションズ(東京・港)。IT(情報技術)各社は、有能な中途エンジニアの獲得に躍起になっているが、牧野正幸最高経営責任者(CEO)は「同業他社からの中途エンジニアはほとんど採用しない」という。その理由とは何なのか。牧野氏に人材採用や育成、独自の評価方法などについて聞いた。

日本にイノベーターが生まれない理由

――ワークスには東大(東京大学新聞によると、2015年度は23人)やインド工科大学などの優秀な人材が続々入社しています。人材活用に関して牧野さんは徹底して「考える力」にこだわっています。なぜ、そこまで問題意識を持っているのでしょうか。

「日本のソフトウエア企業には、ほとんど研究者がいません。日本は製造業が強く、研究者を多く抱えていますが、ソフトウエア企業はサービス業という位置づけなのです。一方でアメリカでは、研究者がメーンです。日本のソフト会社といえば、研究を重視しているのは一部のゲームソフトメーカーを除いて当社くらいではないでしょうか。会計ソフトなどはありますが、規模が小さく世界に広がらない。規模が小さくて簡単なソフトウエアしかないのは、開発するために多額の研究費やマーケティング費用が必要だからです。日本の場合はそういったタイプの企業が少ない」

ワークスアプリケーションズCEO 牧野正幸氏

ワークスアプリケーションズCEO 牧野正幸氏

「もっといえば日本の(ソフトウエア)エンジニアにはいわれたものをきっちりつくるタイプはいても、イノベーターがいないのです。海外のソフトウエアベンダーと比べると日本の場合は、エンジニアのイノベーターがいない。だから当社は、同業他社からの中途エンジニアをほとんど採りませんでした。最近になって、米グーグルなどの転職者もかなり増えてきましたが、それでも新卒に比べれば少ないです」

「(いわれたものをきっちりつくるタイプのエンジニアは)技術があっても、新卒と同じで『自分で考える』方法を教えなければならなくなる。いわれた仕事しかできない人にそこから教育することになれば、結局、何年もかかってしまう。そうするうちに新卒も技術のスキルがあがってくる。それなら新卒のほうがいい。あとは第二新卒の人ですね。当社にエンジニアとして入る人は30歳前の、IT経験のない人も結構います。営業やっていました、とか。普通に事務やっていた、とか。むしろそういう人に教育を施したほうがいい。だから同業他社からはほとんど採用しません」

「100年早い」その一言がNG

――日本はなぜ、そこまで「考える力」を失ったのでしょうか。

「戦後の日本企業は、海外の新しい技術を持ちこみ、とにかくキャッチアップすることを重要視しました。高度経済成長下で会社もどんどん大きくなるし、ゼロから考えていたら間に合わないし、キャッチアップの方が絶対的に効率がいい。結果として、イノベーティブな力よりもキャッチアップ力が求められてきました。この力は、高学歴の人のほうが確率的に優れています。だから、学歴主義で採用しても間違いは少なかった。学校もキャッチアップ能力を鍛えてきたのです」

「教科書的な意味だけではなく、会社に入ってからも明文化されていない、覚えなければならないルールがたくさんあるでしょう。『普通はこう書くものだよ』みたいなね。(若い人が)『私はこう思います』といったら、『100年早い』といわれてしまうことがあるでしょう。確かに、教えなければ人によっては能力にムラもでるし、いつまでたっても給料泥棒になります。しかし、自分で考えなければ人は成長しないのです。しかも、一番成長すべき20歳代、人のまねやキャッチアップで終わってしまう。それでは、世界と大きな差がついてしまいます」

「私が『自分で考えろ』と課題を与えたとき、答えの出し方は2通りのパターンがあります。『とにかく質問通り、早くきっちりやろう』というタイプと、『これはどういう意味なのか自分で徹底的に納得してから答えを出す』というタイプ。後者の人は効率が悪い。仕事は遅いですよ。結果的に前者のほうが先に評価されます。後者の人たちは時に怒られ、『まずやれよ』といわれ評価されず潰れ、腐っていってしまう。しかし、この人たちがゆっくり、確実にイノベーションを起こします。要領よくキャッチアップするだけの人は絶対にイノベーションを起こさない」

――会社の上の人たちに見る目がない、といえるのでしょうか。

「それはやむを得なかったと思います。キャッチアップ能力が高く、一定程度基礎がついた人間がやらないと企業としては生産性が上がらない。また、そうして成功してきたのですから。しかしソフトウエアの領域では、常に新しいものをゼロから生み出し、しかも世界中のイノベーターと戦わなければならないのです。ソフトの世界では、キャッチアップ型の能力だとダメです」

「我々は業務効率より人の成長を最優先としています。教えたらできるかもしれないけど、ひたすら自分で考えさせる。その結果遅かったりダメだったりしたら、できる人間がカバーするやり方です。中途入社の社員は、よく『ワークス社員は能力は高いけど、ルーチン化していないので業務の効率が異常によろしくない』といいます。しかし、ルーチン化を優先したらイノベーションが損なわれてしまいます。だから、否定はしませんが優先順位が下がるのです」

同僚10人で評価するシステム

――評価制度はどうなっているのですか。『自分で考える力』の評価はとても難しいと思いますが。

「半年に1度、『Works Way(ワークスウェイ)』と呼ぶ幾つかの項目に基づいて評価しています。聞いていることは『自分で考えて仕事ができているか』、極端に言えば基準はその一つだけです。評価者は評価される人が選びます。選ぶ人数に制限はないので人によりますが、20人を超える評価者のいる人もいます。メンバーに上司もいますが、2~3割です。7割は同僚が決めているんです。『こいつは要領がいいだけだな』『自分で考えていないな』ということは、上司よりも同僚のほうがよほど見ています。上司だって部下の数が多ければ判断できません。同僚10人で評価するほうが、上司との1対1の評価よりよほど透明性があります」

――評価する側も御社のミッションを理解できますね。

「そうです。しかし、このやり方にも欠点があります。『ワークスウェイ』に該当する基準が明確に社内に浸透していないと、人気投票になってしまうことです。だから常に違う視点で人気投票になっていないか、そして考え方が浸透しているか見ています。基本的にうまくいっているし、その評価でほぼ当たっていると思います。ほぼ不満はないですね」

牧野正幸氏(まきの・まさゆき)
建設会社などを経て1996年にワークスアプリケーションズを設立。中央教育審議会委員も務める。兵庫県出身。53歳

(松本千恵)

前回掲載「なぜ東大生はワークスアプリに集まるのか」では独自の人材採用・育成論について、次回「『私の後継者は不要』ワークス創業者のベンチャー観」ではワークスの将来像について聞きました。

「リーダーのマネジメント論」は原則火曜日に掲載します。

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