4月一新の「ガッテン!」 気楽で役立つ工夫こらす
"ながら見"のニーズ意識
1995年から放送されてきた『ためしてガッテン』が、今年4月に『ガッテン!』にリニューアルした。NHKは春の改編で平日夜のタイムテーブルを変更。同番組も放送時間が20時から30分繰り上がることになり、これを機に一新した。
制作統括の斉藤潤氏は、「きっと途中から見始めたり、"ながら見"から入る視聴者の方も増える。そのニーズに応えたい気持ちがありました」と語る。健康や食材、住まいや美容などの生活情報をただ伝えるのではなく、納得して実践に結びつけてほしいという思いで21年間制作してきた。「基本方針は全く変わりませんが、これまでは深さに注力してきたところを、広さにも目を向け、気楽に楽しんでもらえる部分を追加しています」。"トースト"をテーマにした初回では、いかにおいしく焼くかを軸にしながら、トースターの歴史や、インドネシアでにわかにトーストが流行していることなども紹介。肩肘張らずに見られる構成になっている。
堅苦しさを感じさせないために、テーマ曲に椎名林檎を起用するなど、若干の若返りも意識した。3人のゲストについては、20代の女性が1人は入るようにしているほか、試食や模型を運んだりする若い劇団員男性が出演するようになった。「生活情報を扱う性質から、20代、30代の男性俳優やタレントさんは全く出る機会がない番組なんです。彼らは人体実験などでも活躍する"隠れキャラ"ですが、カッコいいと反応してくださる方が意外といます(笑)」
制作しているのは、『NHKスペシャル』や『クローズアップ現代+』の取材先ともリンクしている科学・環境番組部であり、番組制作の蓄積と、専門家やオーソリティーにすぐに連絡ができるネットワークがあるのが強み。さらにディレクターも、食材系のほか、血液や血管系、内臓脂肪系と、それぞれに継続して追いかけている得意分野がある。「熱湯で戻すと巨大になる高野豆腐などは、あれ以上の驚きはないので1回で完結ですが、医療や健康などのテーマは、1年前の情報が古くなってしまう世界。ネタはつきません」
こだわっているのは生きた情報を提供すること。「役に立たなければ意味がない」と考えているのだそうだ。例えば、納豆が体にいいのは事実として、実際に健康になるために1日3パックという検証結果が出たとする。でも、継続して毎日食べ続けることを考えると現実的ではない。より生活のなかで実行しやすいものを伝えるために、情報は取捨選択してボツにするものもあるのだという。
番組の骨格を決めて準備をするのに2カ月、ロケが2週間、編集や収録で1カ月強等々で、1本につき約4カ月もの時間をかける。そして収録日当日が最終的な決定の場。司会の立川志の輔と、小野文恵アナウンサーを交えて、ゲストを招くまでの2時間、激論する。「この入り方では興味を持てないとか、ここを強調すべきだとか、台本を1回ひっくり返すんです。ゲストは何が展開されるのかは一切知らない。収録はある意味ライブなんですね。なかなかしんどいですが、楽しいところでもあります。ただ議論は半端じゃなくて、お見せするのはちょっとはばかられる感じですが(笑)」
リニューアル後の視聴率は約13%前後と好調で、ロケ中に「最近見てるよ」と声をかけられることもあるという。「これからも、本当に役に立つ情報にこだわり、『ガッテン!』があってよかったと思ってもらえるような番組作りを目指します」
(「日経エンタテインメント!」8月号の記事を再構成。敬称略、文・内藤悦子)
[日経MJ2016年8月12日付]
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