地方創生と健康寿命増進へ 北海道&吉本がタッグ
地元食品の輸出と訪日観光客の拡大、さらに住民の健康寿命の増進。北海道知事の高橋はるみ氏が、自らの選挙公約を実現するために選んだ手法は、異例ともいえる吉本興業との提携だった。
8月8日、北海道では珍しく気温が33度まで上がる中、札幌市内は平日にもかかわらず、異様なにぎわいを見せていた。ただでさえ観光客が多いこの時期、一段と街中が活気にあふれたのは、この日が「道民笑いの日」に制定され、各所で記念イベントが次々と開催されたためだ。
昨年4月、4選を目指した道知事選で現職の高橋氏は、道民の健康寿命増進を公約に盛り込んだ。北海道民の健康寿命は全国33位と低い。これをベスト10まで引き上げる目標を掲げた。健康寿命を延ばすのに効果があるのは笑うことだ。循環器系の医師で日本笑い学会北海道支部長でもある伊藤一輔氏は「笑うと副交感神経が優位になり、免疫系のナチュラル・キラー細胞が活性化する。笑いが健康につながるのは医学的にも証明されている」と語る。
道民を笑顔にするにはどうすればいいか。高橋知事が選んだのが、笑いのプロ集団、吉本興業との提携だった。今年3月、北海道と吉本は「北海道を盛り上げ、その魅力を国内外に発信すること」を目的とした包括連携協定を結んだ。その一環として実現したのが8月6日から8日まで開催した「みんわらプロジェクト~みんなで笑えばいいっしょ~」と称するイベントだ。高橋知事は「平成28年8月8日、8が3つ並んでハ、ハ、ハ。さあ、みんなで笑いましょう」とイベントの口火を切った。
当日は北海道出身のお笑い芸人、タカアンドトシ、とにかく明るい安村ら吉本所属の人気芸人が集結し、ライブなどを開催した。6日には元五輪選手の岡崎朋美さん、田中光さん、元プロ野球選手の石井一久さんなども来道し、札幌の小学生とともに運動会を開いて盛り上がった。
吉本が貢献するのはお笑いだけではない。高橋知事が公約で掲げた「道産食品輸出1000億円」「外国人観光客300万人」の達成も支援する。8日、札幌市内のホテルで吉本はAmazonと共同記者会見を開き、地域の魅力を伝えるオリジナル・コンテンツのAmazonでの独占配信を発表した。今年秋からAmazonプライム・ビデオで配信する「おもてなしグルメ旅」という独自番組で、その第1弾がタカアンドトシ出演の北海道編になる。以後、全国各地に対象を広げ、その土地にゆかりのある芸人が登場するシリーズ番組を順次配信していく。
この番組では日本全国の様々な名所や名産を紹介するのだが、視聴者は番組で紹介された各地の産品を視聴しながら、その場でAmazonを通じて注文、購入できる。アマゾンジャパンのプライム・ビデオ・コンテンツ事業本部長、ジェームズ・ファレル氏は「この番組は日本国内だけでなく、米国やドイツ、インドなど海外でも配信する。番組を見て日本を訪れる観光客も増えるだろう」とみている。さらにファレル氏は「いずれは海外の視聴者も番組で紹介された商品を購入できるようにしたい」と語っており、道内食品の輸出や訪日客拡大を目指す高橋知事の公約実現にも貢献できそうだ。
番組で紹介する物産品の候補になりそうなのが、吉本が全国で展開している「よしもと47シュフラン」の商品だ。47都道府県の主婦が「我がふるさとでは、ぜひこれを食べてほしい」と思うものを応募し、選定する。北海道シュフランには305商品がエントリーされ、8月6日から8日まで、地元百貨店、丸井今井の本店特設スペースで試食と投票が行われた。当日は安倍総理のものまねで人気の芸人、ビスケッティも登場し、道行く観光客や道民に試食と投票を呼びかけた。
地域経済の活性化は古くて新しい課題だが、最近は海外からの観光客が地方にも広がり、その消費力が恩恵をもたらしている。こうした流れを加速するには、ただ訪日客を待っているだけでなく、北海道のように、これまでの常識では考えられないような提携や戦略も必要になってくるだろう。
(編集委員 鈴木亮)
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