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ビジネスパーソン向けの交流サイト(SNS)を展開するウォンテッドリー(東京・港)。最高経営責任者(CEO)の仲暁子さんが「好きなことを仕事にする生き方」をテーマに対談した。第2回は、17歳で小説家としてデビューした芥川賞作家の羽田圭介さん。イベント後、仲さんと編集部が羽田さんに迫る特別インタビューをした。

ブームだったから、商学部に入った

 編集部 羽田さんは17歳で文芸賞を受賞し、デビューしました。その後、明治大学の商学部に入学します。なぜ商学部だったのでしょうか。

羽田 「完全に『ノリ』です(笑)。(明大の)付属校に通っていたので、よほど悪さをしない限り大学に進学できた。くわえて当時、商学部はブームでした。そんなくだらない理由です。金融決済システムのゼミに入ったのですが、実は少し後悔しました。文章を書くテストばかりの文学部なら、自分には楽だったろうなと。女の子も多いし」

編集部 商学部で学んだことが作家としての今に生かされていることはありますか。

羽田さん(右)と仲さん

羽田さん(右)と仲さん

羽田 「文系の大学で学べることって、本を読めば学べます。では大学で学んだことって何かと考えてみたら、理解が難しい分野を再学習するときの『助け』だと思いました。英語でストックオプション(株式購入権)について学ぶ授業があったんです。しかも毎週木曜日2限、出欠も取る。本当に地獄でした。ところが作家になってからこの授業が生きる機会があったんです。英語のサイトで経済ニュースを調べる必要に迫られたんです。『これなじみがあるな』と思う単語がありました。授業に出た単語でした」

「5年以上前に学んだ知識を学び直すことなんて、一から学ぶのとほぼ変わりないと思います。ただ、なじみがあると学習のハードルが下がる。これが非常に大事だと思いましたね。学校で学ぶ知識ってある意味ノスタルジーのようなもの。故郷に帰ってきたような感じがあります」

「小説家になってから経済のニュースを読んでいると、社会情勢につながったような感覚になることがあります。原油の価格や、米連邦準備理事会(FRB)の動き、株価の動き……。『スクラップ・アンド・ビルド』(芥川賞受賞作)はニュータウンを舞台に老人と青年の関係性を描いた、まさに小さな世界の小説です。しかし、それを書くにはもっと大きなことを知らないといけません。相対化できないからです。だから世の中で動く大きなことに興味があるし、また知らないといけないと思っています」

本を読まない人の視点を得られた

 芥川賞を取って、変わったことはありますか。

羽田 「本を読まない人の視点を持てるようになりました。賞を取ったことで、毎日ひたすら小説を読んで書く、という生活から、テレビに出たり取材対応したりする生活に変わりました。スキマ時間に小説の直しができれば御の字という状態。それまで月に何冊も本を読めたのに、忙しくて読めなくなったんです。そのときに、本を読まなくても生きていけるし、『仕事で忙しい人が本を読まないのは当たり前かもな』と思いました。それで、本を読まない人はどんな小説だったら読むのかと考えるようになりました」

編集部 今後、どんな小説を書いていきたいですか。

羽田 「忙しい人が電車のなかで読んでも集中力が続いて、かつ、読者にこびていないもの。こびたらダメだと思うんです。自分の思いを書きつつ読者の関心を惹きつけるかということを考える。今書き始めた小説は、週刊誌のように表面的には刺激のある、ある意味『ゲスな心』に訴えるものです。しかし、通しで読むとちゃんとした文学作品になっている。

文学って、大したこと書いてなくても、すごいこと書いているかもと思わせてしまう媒体なんです。逆に、表面を軽く、面白くし続けることが一番難しい。それは起承転結に縛られた紋切り型のエンターテインメント作品とも違います。最初から最後まで表面の面白さを持続させながら書いて、それでいながらテーマとして深い、何か日常のことを変えさせられる作品を目指しています」

本離れをどう考えるか

羽田さん

羽田さん

 「本離れ」が進むなかで、将来をどう考えていますか。

 羽田 「やっぱり不安だから、他の作家が断る仕事も受けて小金を稼いでいるというのはあるし、明るいと思ってはいないです。ただ、作家がみんな食えなくなるとは思えない。人口は減少傾向にありますが、読書人口はそこまで減っていないんです。買わなくなったけど、図書館での貸し出しは本の売り上げに反比例するように増えている。実際に図書館の複本の数(同じ本を2冊以上、図書館が持つこと)や貸出数は増えています」

編集部 他の作家も羽田さんと同じように将来の不安を意識しているものでしょうか。

 羽田 「僕もそこまで意識していないですけど。客観的な数字のデータが絶対的に正しいとは思いません。斜陽産業である出版業界に身を置くというのはかなり非合理的だと思いますが、そこに自分は身を置いているし、人間は結局、経済的な合理性じゃないところで動くと思います。主観的にどう思うかが一番重要だと思います」

物事にはびっくりするほど裏がない

編集部 小説家になりたい、といわれたら、なんとアドバイスしますか。

羽田 「『本を読むしかない』といいます。結構多いんですよ、『どんな本を読んでますか』と尋ねると『あまり読んでいない』という小説家志望の人。みんな『裏道がない』、いいかえれば『コネ』がないことに耐えられない。新人賞はコネで決まっている、とか入社試験も実はコネで決まっているから落とされる、という人がいます。しかし、物事にはびっくりするほど裏がない。『自分に実力がない』というシンプルすぎることを受け入れられないだけです」

「裏側がないのが地獄なんだと思います。小説を学ぶのなら、小説の学校でテクニックを学ぶより、ひたすら小説を読む、という回り道にも見える実直な道しかない、ということに向き合えてない人ばかりです。僕だって、誰にも教わらずに小説を読んで勝手に書いただけです。小説家として成功した人はほとんどがそうではないでしょうか。読んでいた人がたまたま小説学校にいって小説家になったということはあるかもしれないけど、読まないで小説家になった人ってほとんどいないはずです」

編集部 小説家になることを勧めますか。

羽田 「絶対に勧めないですね。勝手にやればいいじゃん、みたいな(笑)。やりたい人は勝手にやるし、止めてもやる。やめたほうがいいといわれてやめる人は最初からダメだろうなと思う」

(松本千恵)

「キャリアコラム」は随時掲載です。

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