ファミレス、健康志向や糖質制限に最適?!
ガスト、ジョナサンで始まった低糖質メニュー
低カロリー、アレルギー対応…ファミレスでも進む健康志向
吉野家、はなまるうどんのように、一見、健康志向とは縁がなさそうに思える外食店でも、野菜を主力にしたメニューを用意するなど健康志向が着実に進んでいる。各社が熱心に取り組む背景には、人口減や高齢化社会の進行などによって「全体のパイ」が小さくなる中で、コンビニなどをはじめとした競合が増えているという事情がある。こういった厳しい状況の中では、ミドル以上の健康意識層を意識したメニュー構成で顧客を引きとめたり、美容を気にする女性層を新たに取り込むことなどが急務なのだ。
こういった健康志向の流れは、ファミリーレストラン(ファミレス)でも数年前から着実に進んでいる。
例えば、デニーズは、2002年に食物アレルギーに配慮した子供向けメニューを発売、08年には「野菜たっぷり塩ラーメン(361キロカロリー※当時のデータ)」などの低カロリーメニューの提供を始めた。さらに12年からは、おいしく食べる健康メニューとして「美健丼」が登場。この美健丼は、定期的にメニューが改定され、現在は五種豆と五穀の混ぜご飯の上に、ローストビーフと野菜を添えた「ローストビーフの美健丼~照焼ソース&わさびマヨ」(ドリンクつき・925円)と「サーモンバーグと蓮根の美健丼~すりおろし野菜のソース」(ドリンクつき・898円)が提供されている。また、野菜の国産化も進んでおり、デニーズやロイヤルホストでは、サラダメニューに使用するフレッシュ野菜をすべて国産野菜に切り替えている。
着々と健康志向が進むファミレス業界の中で、本格的に始まっていなかったのが「低糖質(ローカーボ、ロカボ)」だ。ご存じの方も多いと思うが、最近ではコンビニやラーメン店の商品・メニューから「甘さ」が売りのスイーツまで、「こんなものまで!」と驚くほど低糖質対応が進んでいる。
待ちかねていたファミレスのロカボ対応
そもそも、多くの人にとって、糖質を制限しようとするとき、一番頭を悩ますのが「外食」のときなのではないだろうか。定食を食べれば「ごはん」が付いてくるし、「リーズナブルな価格」で気軽に空腹を満たそうとすると、丼ものなどを中心にたいてい炭水化物がメーンになる。
筆者は日々外食店などのレビュー記事を手掛けていることもあって、女性ながら「ガッツリ」食べるのは嫌いではない。むしろ大歓迎だ。とはいえ、年齢を重ねてくると、将来のことを考えて、少しは糖質を控えないと……と思うことも増えてきた。「いつも低糖質」ではなく、ガッツリ食べたいことも多いだけに、「糖質を控えたいときには抑えられる」というようにメリハリを付けられるとありがたいのだ。
ファミレスなら、パンやごはんとセットにせずに、メーンディッシュやサラダなどのサイドメニューだけ頼むという方法がある。だが、それでは後でお腹が減るし、満足感ももう一つだ。低糖質の麺などをチョイスできるといった「選択肢」があったらいいなとかねがね思っていた。しかも、世の中は空前のロカボブーム。ファミレスの中で、ロカボ本格対応の一番手となるのはどこかと心待ちにしていた。
そんな中、すかいらーくが6月から、同社のファミリーレストラン「ガスト」で低糖質メニューを販売開始した。
ファミレスこそ、健康志向や食事制限の店に最適!
ガストは今年6月に、約50種類のメニューを刷新するという過去最大級のメニュー改定を実施したが、その目玉の一つとなったのが今回の低糖質メニューだ。
具体的には、「冷やしサラダタンタン麺」(649円、通常麺は599円)と「1日分の野菜のベジ塩タンメン」(749円、通常麺は699円)の麺類2品と、「糖質控えめ・バニラアイスケーキ」(299円)と「マンゴーとマスカルポーネのバニラアイスケーキ」(399円)のデザート2品を新たに追加した。これら麺類2品は、通常麺のメニューに50円を追加すると「糖質0麺」に変更できる。デザート2品は糖質をこれまでの半分に抑えた。
「低糖質」派だと麺類やデザートはなかなか食べられない!
なぜ、ガストは今回低糖質メニューを開始したのか。そしてなぜ麺類とデザートから始めたのだろうか。すかいらーくマーケティング本部デピュティーマネージングディレクターの堤雅夫氏はこう話す。
「ガストではこれまでも、メニューにカロリーや塩分の表示をしたり、低アレルゲンメニューを用意したりしてきました。ファミリーレストランはお子様からご高齢の方まで幅広いお客様がいらっしゃいます。幅広いお客様に安心してお使いいただきたいということで健康志向を進めてきました。今回、低糖質を主軸としたメニューを発売しましたが、その背景にあるのが『最近のお客様の低糖質に対する関心の高さ』です。この動きは一時的なブームにとどまらないものになるのではないかと判断しました」
「実は、ファミリーレストランは健康志向の人や食事制限をしている人には適したレストランだと考えています。パンやご飯を付けず、グリルメニューとサラダなどの組み合わせにすれば低糖質のメニューにできます。組み合わせで低糖質な食事ができるレストランだということで、これまでも糖質を気にしている人から支持されてきました」
確かに、丼や麺類の単品メニューしかない外食チェーンは、どうしても糖質過多になるが、ご飯やパンをチョイスできるファミレスのスタイルは、糖質を制限したい人にはうってつけ。カロリーも明記されているので、ダイエットしたい人にも使いやすい。
さらに、和洋中、幅広いメニューからおかず単品でも注文できるので飽きが来ない。カジュアルな雰囲気なので、無理にアルコールをオーダーしなくても、お茶などローカロリーのソフトドリンクで夕食をしても気兼ねがない。小さな子供やお年寄りがいても、また一人でも出かけやすいファミレスは、実は健康志向の人には最適なレストランなのである。
しかし、そんな中で課題として挙がってきたのが、麺類とデザートだった。「グリル料理などは組み合わせで低糖質にできますが、麺類やデザートはなかなか食べられないという声をいただいていました。そこで、6月のメニュー刷新に当たって麺類やデザートの低糖質メニューを開始しました」(堤氏)。確かに、麺類の場合は、麺を抜くわけにはいかない。今回の糖質0麺のように、低糖質の別のものに置き換える必要がある。
糖質0麺は今回の新メニューに合わせて新開発されたもので、「こんにゃく」をベースにしながらも、「こんにゃくっぽい風味」を抑え、縮れ具合や太さは通常の麺とほぼ同じにして、通常の麺と同じようにスープが絡むように工夫した。通常の麺に比べると、歯ごたえがあるという。
この糖質0麺を使ったメニューは、とても好評に推移しているという。「プラス50円になりますが、冷やしサラダタンタン麺と1日分の野菜のベジ塩タンメンを選んだお客様の8人に1人が糖質0麺を選んでいただいています。これは当初予定の3倍以上です。糖質制限をされている方からは、『我慢しなくていいのがありがたい』という声をいただいています」(堤氏)
歯ごたえはしっかり、食感は違うがおいしい
筆者は、取材後に、実際に店舗に出かけて4品目を食べてみた。
市販されている糖質0麺は、こんにゃくが主成分だけあって、こんにゃく芋に含まれる成分の独特の生臭さが気になるものが少なくない。しかし、ガストの糖質0麺は、生臭さは感じられない。見た目も淡いクリーム色で、いわゆる中華麺に近い。口に入れたときのプリっとした歯ごたえは、こんにゃくのそれだが、決してネガティブな印象ではない。つるつるした中華麺を食べている感覚で、人によってはこっちの方が好きという人もいそうだ。中華麺のかん水の香りがない分、こちらの方がニュートラルな味わいかもしれない。
冷やしサラダタンタン麺は、トマトやレタスなどの生野菜に甘辛いひき肉がたっぷり。ごまの香り高いピリ辛味の味付けは、パンチが効いて満足感が高い。
10種類以上の野菜をたっぷりのせた塩タンメンは、大きくカットされた野菜が多く盛られている。レンコンやニンジンなどの根菜も多く、サイズが大きいのでしっかりと噛む必要があり、それだけでも満腹感が得られる。もちろん豚肉も入っているので栄養バランスもしっかり。白湯をベースにしたスープには野菜の旨みが染み出ておりとてもおいしい。
麺は冷やしサラダタンタン麺と同じものだが、加熱してあるせいか、塩タンメンの麺の方がぷりぷり感が増し、こんにゃくっぽさを感じる。冷やしタンタン麺は、食欲のないときでも、つるつるっとのどをすべる。塩タンメンはよく噛んで食べることもあって、満腹感がほしいときに最適だ。冷も温もそれぞれに特徴があり、味もいい。通常の中華麺と似ているかどうかが基準ではなく、新しい麺料理としていろんな可能性が広がると感じた。
低糖質なスイーツも、従来の商品に比べて糖質が半分になっているが、違和感はない。「アイスケーキ」という名前になっているが、食感や味わいはほぼアイスクリーム。ミルキーな風味と上品な甘さで、ミルクのムースを固めたような食感も心地いい。アイスクリームより溶けにくく、時間をかけて味わえるので満足度も高い。
◇ ◇ ◇
外食で、しかも身近にあるファミレス(ガストは7月末時点で全国1360店舗)で無理なく低糖質メニューを食べられるのは、メタボを気にする身としてはありがたい。すかいらーくグループでは同じく6月から、ジョナサン(303店舗)でも、既存メニューの酸辣湯麺の麺を糖質0麺に変更できるようにしている。今後は、同グループのバーミヤンなどの他のブランドでの展開も検討するという。
(永浜敬子=ライター)
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