介護「定期巡回」広がる?
都市部で大手が本格展開
介護が必要な高齢者の自宅での暮らしを支える「24時間対応の定期巡回・随時対応サービス」。在宅介護の切り札として4年前に始まったものの思うほどに広がらず、実施する自治体は2割強。採算を気にして二の足を踏む事業者が多いのが最大の理由。そんななか、介護大手が高齢化が急速に進む都市部で本格展開を始めた。サービスの現状と今後を探る。
介護保険法の改正で2012年に新設された同サービスは、24時間態勢で食事や排せつの介助などと、症状に応じた看護ケアを提供する。要介護度が高い高齢者が自宅でも施設並みのサービスを受けられると期待された。
しかし、事業所数や利用者数の伸びは鈍い。厚生労働省の15年10月の調査では定期巡回サービスの事業所数は全国586カ所、利用者は1万2300人。団塊の世代がすべて後期高齢者になる25年時点で利用者15万人という当初目標を達成するには歩みが遅い。
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その理由は事業の難しさ。定期的に要介護者の家を回り、緊急コールにも対応するためには、半径1キロ圏内に1つ事業所を開設する計算になるという。認知度がいまだに低く、採算が合うだけの利用者が確保できない。かといってカバー範囲を広げると「コールしても来てくれるまでに30分以上かかる」といった利用者の不満が募る。
定期巡回サービスの1事業所あたり利用者数は15年4月にようやく採算ラインぎりぎりの20人を上回ったばかり。介護サービス中堅のやさしい手(東京・目黒)は、巡回効率を高めるためサービス付き高齢者向け住宅に事業所を併設するなど知恵を絞る。
事業者の態勢が整っていない地域が多いことから、一般にケアプランを作るケアマネジャーは、積極的には利用者に定期巡回サービスの利用を勧めないという。だから認知度は向上せず、利用者が増えないため、事業者は採算を確保しにくくなる。さらに、こうした状況から「介護施設サービスや既存の在宅サービスで十分」と、導入に消極的な自治体も多い。
だが、本当に利用者はいないのだろうか。定期巡回サービスに詳しい岩名礼介三菱UFJリサーチ&コンサルティング上席主任研究員は「事業者がなんとか成功モデルを作れば需要は伸びる」とみる。ヘルパーが来るまで利用者が排せつを我慢するといった、在宅介護の問題点も減る。
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そんななか、15年2月から介護大手のSOMPOケアメッセージ(岡山市)が「在宅老人ホーム」としてサービスを始めた。「人口密度が高い大都市なら施設に代わる質の高い定期巡回型サービスが可能」(岩本隆博SOMPOケア取締役事業推進部部長)
「めいと知人の助けと24時間サービスで、毎日、食事や買い物を手伝ってもらえる」と笑顔で話すのは、東京都内で独り暮らしの加藤規久子さん(86)。利用を始めて1年2カ月。心臓病があり食事や水分量制限、血圧や体重測定などが欠かせない。ヘルパーが朝昼夕と就寝前に訪問、投薬や食事、入浴などを手伝う。1日4~5回の訪問に満足し、緊急コールの利用はまだないが「呼んだらすぐにかけつけてくれる」という安心感があり、今は自分史づくりに没頭している。
SOMPOケアメッセージが事業を展開するのは、新宿と世田谷、杉並の3区。サービス提供圏を事業所から半径1キロ圏内とし緊急コールがあった時は自転車で5分程度、遅くても10分以内で駆けつける。介護職員3人が8~10人の利用者を担当する。
利用料は要介護3の場合、介護保険の定額料金と、掃除や電球交換、犬の散歩などの生活支援サービス、食材や弁当などの調達サービスを合わせ月額約7万5000円になる。2~3年内に東京23区全域、5年以内に大阪市と名古屋市でも始める計画。
大手の参入を機に、定期巡回サービスが、急速な高齢化が始まる都市部の介護問題の解決策の一つになるかもしれない。
■在宅医療に不可欠
岩名氏は「定期巡回サービスが在宅介護の主流になる」とみる。親などを在宅介護する場合、訪問介護やデイサービスなどを組み合わせることが多い。ところが要介護度が上がるにつれ「誰もみていないときに何かあったら」など不安を感じ、結局は施設への入所を選ぶという。
「いつでも困ったらすぐ呼べる」サービスを何度も定額で利用可能なら「不安が薄れ、施設でなくても大丈夫との気持ちになる」(岩名氏)。
在宅医療を手掛ける医師も定期巡回サービスの広がりを期待する。在宅医で悠翔会理事長の佐々木淳氏は「在宅医療を広げるには、24時間態勢で生活面を支える介護サービスが欠かせない。両者が連携すれば最期まで自宅で暮らしたいとの願いをかなえられる」という。
施設の費用は月15万~20万円が相場。定期巡回などを使う在宅なら「10万円以下でやりくりも可能」(岩名氏)。
一方、同じ12年に介護保険メニューになった看護小規模多機能型居宅介護サービス。通い・泊まり・訪問(看護と介護)サービスを提供する。介護大手のセントケアがサービス拡大を打ち出しており、在宅介護を補完するもう一つのサービスとしての期待が集まる。(相川浩之)
[日本経済新聞夕刊2016年8月9日付]
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