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次世代リーダーの転職学

転職して初めて気づく「大企業病」5つの症状 ミドル世代専門転職コンサルタント 黒田真行

 

2016/8/12

 35歳以上のミドル世代が転職する場合、大企業から中堅中小企業、または創業まもないベンチャー企業へと、企業規模をまたぐ移動が多く生まれます。ただ、残念ながら入社後に「こんなはずじゃなかった」と思われるケースも多々あります。

 今回は、実際に転職活動を通じてご自身が気づいた「大企業病」の症例について共有させていただきます。いつか来るかもしれない転職という人生の重大イベントに備えて「転ばぬ先のつえ」として頭の隅に留めていただければ幸いです。

1.「職域の幅」の格差

 従業員数3万人を超えるグローバル電機メーカーに勤務されていたAさん(48歳)は、昨年、まったく異業種の中堅機械部品メーカーに、経営企画部長というポジションで転職しました。前職でも同じ経営企画の課長職として、7年間にわたってマクロ経済分析から中期経営計画の策定などまで、担当事業部の執行役員や関係部署の部長陣とひざ詰めで議論を交わし、8人の部下をまとめながら勤め上げた力量のある方でした。

 「経営企画スタッフとしての原理原則は同じだろう」と想定していたものの、転職して初めて企業規模によるギャップに直面しました。

 確かに経営の方向性を決める材料を集め、分析し、実際の事業計画に落とし込んでいくという大枠のミッションはまったく同じでした。ただ、日々の業務の粒度は、前職と比べ物にならない違いがあり、そのことが最大の衝撃だったようです。

 転職先の経営企画部門は部長といっても部下は3人で、うち2人は営業から配属されて1年という担当部長と課長(どちらも40歳前後の同世代)、残りの1人は新卒2年目という組織。前職であれば、たとえば新人がやるような基礎データ収集の業務からコピー取り、中堅クラスが担当していたアクセスを駆使した資料作成、事前ヒアリングまで、すべてを自分自身でやらなければいけないという状況でした。

 また、グローバルな大手企業には欠かせなかった業務で、ご自身の強み分野だと考えていたマクロ経済分析の経験は、まったく必要とされていないこともわかり、それが引き金となって退職を決意するに至りました。

 「入社前には、自分の経験してきた経営企画の経験やスキルが少しでも生かせるなら、営業など得意ではない業務よりは貢献できる。規模が小さな会社なので細かい仕事も自分でやるものだ、と覚悟を決めていましたが、いざ現場に入ると想像以上にギャップがありました。頭で考えてわかったつもりになっているのと、現実はやっぱり違いますね。ぜいたくかもしれませんが、もう一度、転職活動をゼロから始めます」

 Aさんの言葉には、貢献できなかったふがいなさとショックの大きさがにじんでいました。Aさんの例に限らず、これに似たケースは実際にたくさん生まれています。転職活動が長引くと焦りが出てくる場合もありますが、こういう不幸を事前に抑止するためにも、入社意思を決める前に、職場のコンディションの差異や要員数、ざっくりしたミッションではなく、たとえば朝出社してから帰宅するまでのタイムスケジュールのイメージなど、日々の業務の確認などもていねいにしておくべきかもしれません。

2.「同質性」の罠(わな)

 2点目は、風土、カルチャー、コミュニケーションに関するギャップです。

 大企業の場合、人事採用部門の標準化が進んでいるため、新卒採用の段階である程度、人材要件や志向タイプ、言語能力レベルなどの基準がそろっています。教育環境や学習してきたこと、あるいは成長意欲を含めて、その会社の大切にしている価値観を反映した一定のゾーンの範囲に収まる人材が集まる傾向にあります。

 そんな集団が、同じ事業部などで切磋琢磨(せっさたくま)し、苦労や成功体験を分かち合い、ノウハウを共有しながら長い時間一緒に過ごしていくと、当然のように価値観や能力の同質化が進みます。その結果、カルチャー・価値観やコミュニケーションの作法も一定の幅で収まり、その組織の中においては非常に効率的で、かつ結束力にもつながるというプラス作用を生み出しています。

 一方で、友人・知人・取引先など複数の経路から社長が必死で口説いて回り、異業種・異職種の人材を中途採用でかき集めてきたような中小企業の場合、そもそも最初から同質化が存在しない異質異能の集団か、逆に経営者の強烈なキャラクターが突出したトップダウン型か、という傾向が多いようです。

 大手から中小企業に転職した方々とお会いしていると、長年、同質化した高効率集団で働いてきた方が感じる、異質異能集団やトップダウン型組織でのストレスや居心地の悪さを非常によく耳にしますが、上記のような構造的な環境の落差によるものが大きいようです。

 求人票に記載された「職務」や「ポジション」「年収」「勤務時間」などの情報だけではつかみきれない罠が、こんなところに隠れています。住み慣れた世界から新しい環境に入ると、居心地の悪さを感じるのは当然ですし、どんな大企業であっても、もともと創業期は中小企業であったはずだと考えると、これは決して「良しあし」の問題ではなく、企業に成長ステージのギャップによって生じる構造課題です。事前にある程度情報収集するか、事前にギャップを想定しておくしか解決策はないのではないかと考えています。

3.「戦略レイヤー」のギャップ

 事業運営上のタームで「戦略」という戦争用語由来の言葉が頻繁に使われていますが、まさにここにもギャップがあります。

 大企業における戦略は、マクロかつ長期的な計画に基づくものが多く、まさに超大国の参謀本部が使用する「戦略」に似ています。逆に、中小企業やベンチャー企業が用いる戦略は、ニッチなセグメントや特定領域に一点突破で使われるケースが多く、小国の軍隊やゲリラ部隊が使う場合に似てくるのではないかと思います。

 大企業出身者には「それは戦略ではなく戦術なんじゃないか?」と見えることであっても、単にレイヤーが異なるだけで、中小企業にとっては堂々たる戦略として機能していることも多々あります。大手企業出身者に起こりやすいのが、このレイヤーのギャップによる悲劇です。そもそも兵力(要員数や武器=開発力、販促費や広告宣伝費)がまったく異なる組織において、従来型の戦い方や過去の成功体験にこだわってしまうと、勝てる戦いにも負けてしまうということも起こります。

 「転職直後に一気にシェアを勝ち取るために社長に直談判して、20人を採用して営業組織の拡大をしたが、あっという間に市況が変わり、部下をリストラして自分も退職することになりました。あれは大企業時代のパワーゲームのロジックを持ちだした私の失敗です」

 率直に自分の非を認められたBさん(42歳)は、大手通信機メーカーから同業の中堅企業に営業本部長として転職され、一時的に業績を急拡大したものの撤退を余儀なくされた経験を持つ方でした。ひとくちに戦略といっても、企業規模が小さいほど、戦況、兵力によって目まぐるしく変化するため、教科書通りの「理想論」や「あるべき論」が通用しない、必要とされないという現状になりやすいのだと痛感します。

 また、大企業出身者でごくまれに、“無意識のうちに”大きな予算や大人数の要員を動かす戦略が“優位”で、規模の小さな組織の戦略は“劣位”だという錯覚を持っている方がおられます。「戦略の粒度・影響度」と「戦略の質の優劣」はそもそも無関係ですし、もちろんそれで転職がうまく運ぶケースは少なく、論外のパターンです。

4.「相場情報」の乖離(かいり)

 転職市場において、企業規模の違いによる条件のギャップは、かなり大きく存在しています。ある大手ハウスメーカーで建築資材の購買部門の次長をしておられた50歳の方とお会いしたとき、「早期退職制度を利用して転職を考えているが、年収が2割から3割くらいはダウンしても仕方がないと思っています。現在の年収は約1500万円です」というお話がありました。

 ご本人からすると、確かにかなり思い切って譲歩した条件で、それによっていくらか選択肢は広がるのですが、1500万円の年収から3割ダウンの金額は1050万円。しかし中小企業観点で言えば、資材購買の責任者に年収1000万円以上の報酬を支払える会社はきわめてまれで、「取締役でも年収800万円なのにとんでもない」と言われるようなケースが非常に多いのが実情です。

大手企業出身者が限界ギリギリまで譲歩したはずの年収は、中小企業経営者にとっては想定年収の2倍に相当するというくらい相場の乖離は激しいと思っておいてよいでしょう。ただ、年収額によって変化が激しい所得税率を考えると、実際の可処分所得は、額面年収のギャップよりかなり小さくなるので、もし、今後そういう場面に直面した場合は、所得税などを差し引いた可処分所得で検討していただくのも一策だと思います。

5.「自己信頼」のゆらぎ

 最後のギャップは自己信頼のゆらぎです。

 大企業を初めて一歩出たときには、やや過剰気味に自信を持っていた方が、転職の失敗を経験した後に、逆ブレして必要以上の自信喪失に陥ることがあります。同質の価値観を持つ集団の中で、自分の市場価値の座標や仕事の進め方についての常識が安定していた時間が長かったほど、想定外のことだらけの体験が続くと混乱を招き、方位磁石に狂いが生じる可能性が高いようです。しかし、それは大企業というシールドの堅牢さやそこに滞在した時間から考えると誰にでも起こりうるリスクでもあります。

 挫折感を感じることがあったとしても、必要以上に自分を責めたり自信を喪失したりしてしまうと、意思決定の基準がぶれ、また別の失敗を招いてしまう原因になってしまうことにもなりかねません。もし企業規模の違いによるギャップを体感することになった場合には、ぜひ冷静にその乖離度合いや原因を分析し、次の前向きなチャレンジにつなげていただきたいと思います。優秀な人材が多いゆえに同世代競争も激しく、成功しても失敗しても影響度が大きいぶん、絶えず重大な責任にさらされてきたことが、大企業で働いてきた方が持っているタフさです。

 同じような体験を持つ友人・知人や、信頼できる転職エージェントなど、客観的な情報を多く集め、それを材料により満足度の高いセカンドキャリアを自ら切り開いていただきたいと考えています。

 「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は8月19日の予定です。
 連載は3人が交代で担当します。
 *黒田真行 ミドル世代専門転職コンサルタント
 *森本千賀子 エグゼクティブ専門の転職エージェント
 *波戸内啓介 リクルートエグゼクティブエージェント代表取締役社長

黒田 真行(くろだ・まさゆき)
ルーセントドアーズ株式会社代表取締役
ミドル世代の適正なマッチングをテーマに、日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営している。1965年生まれ、兵庫県出身。1989年、関西大学法学部卒業、株式会社リクルート入社。2006年から13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。13年リクルートドクターズキャリア取締役・リクルートエージェント企画グループGMを兼務した後、14年ルーセントドアーズ株式会社を設立。
35歳以上の転職支援サービス「Career Release40」
http://lucentdoors.co.jp/cr40/

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