マネー研究所

定年楽園への扉

シニアこそ起業家になれる強みがある 経済コラムニスト 大江英樹

2016/8/25

 最近は会社を定年退職した後に起業するという人が増えてきています。中小企業白書(2014年版)によれば、起業家で最も多いのが60歳以上で、その割合は32.4%となっています。かくいう私も12年に起業したシニアの端くれなのですが、私の知り合いでも定年後に独立して仕事を始めた人が少なからずいます。

 一般的には起業というのはとてもハードルが高いと思われがちです。事実、起業支援の会社の人たちが「起業なんて誰でもできるんですよ」というほど甘いものではありません。それでも私は起業は定年後の働き方において有力な選択肢だと思います。

 なぜそう考えるのかというと、一般的にサラリーマンは仕事に対しての不満はいっぱいありますが、食べていけるかどうかという不安はあまりありません。昔に比べれば、リストラや解雇というケースは増えているかもしれませんが、それでも普通に仕事をしていていきなりクビになることはあまりないでしょう。その代わりサラリーマンは嫌な仕事でも断れませんから、不満は生じます。

 一方、自営業の場合、不安はありますが不満はありません。サラリーマンとは逆で、嫌な仕事なら断ることができます。したがって突然仕事がなくなる不安はあるものの、自分がやりたくない仕事はやらずに済むので不満はないというわけです。

 それでは定年後に起業することのメリットを考えてみましょう。最大のメリットは「不安」も「不満」もないことです。多くのサラリーマンは退職後は公的年金の支給もありますし、退職金をもらっている人もいますから、仮に仕事が無くても何とか食べていくぐらいはどうにかなるからです。

 この“何とか食べていくことができる”という背景を持っていることが、まさに定年後のシニア起業のアドバンテージなのです。ビジネス経験や人脈さえあれば、すぐに結果が出なくてもたちどころに食うには困らないという条件がそろっているのです。

 私自身、会社を辞めて自分の事務所をつくった後、ほぼ半年ぐらいは全く仕事がありませんでした。「もしこのまま何も仕事が来なかったらどうしよう」という一抹の不安はありましたが、「その時は辞めればいいや」と割り切っていました。

 これが若くして起業した場合はそんなわけにはいきません。収入がなければたちまち生活できなくなってしまいます。不安はもちろん、場合によってはやりたくない仕事でも食べるためには仕方なくやらねばならず、不満も生じかねません。

 定年退職したシニアはそこまで張り切って無理をする必要はありません。何も大げさに“起業”と銘打たなくても、自分ひとりが出来る範囲内でやれることをやればいいのです。

 いわゆる“自営業”で十分なのです。人を雇ったり、借金をしたり、規模を大きくしようといったことを考えなければ、自分ひとりで自営するというのはそれほど難しいことではありません。

 肩に力を入れず、のんびり、ゆったりと少しずつ自分のやりたい仕事に挑戦してみるというのも定年楽園への一つの道ではないかと思います。

 「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は9月8日付の予定です。
大江英樹(おおえ・ひでき) 野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学会の会員で、行動ファイナンスからみた個人消費や投資行動に詳しい。著書に「定年楽園」(きんざい)など。近著は「投資賢者の心理学」(日本経済新聞出版社)。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。
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