「墜落しない」最新ドローン 自動で安全飛行
マルチコプターとも呼ばれる「ドローン」は、昨今いい意味でも悪い意味でも注目されている。よい面では、「何万円も出してヘリをチャーターしなければ不可能だった空撮が1人で手軽にできる」という点が"空飛ぶカメラ"として写真ファンに大いに歓迎された。かたや、2015年には首相官邸や長野の善光寺、兵庫の姫路城などへの墜落が相次いで報じられ、「ドローンは危ない」「素人には扱えない」とネガティブなイメージが一般層に広まった。
しかし、ドローンの技術はまさに日進月歩。最新のドローンは、墜落を防ぎ安全に飛行するための機能や装備を何重にも搭載することで、誰でも安定して飛ばせるように進化している。正しい手順を踏んで操作すれば、装置が故障しない限りはまず墜落しない。かつてのラジコンヘリを連想するような操縦の難しさもなく、ドローン任せでの操縦や着陸も可能なのだ。
そこで、ドローンで世界7割のシェアを持つといわれる中国DJIの最新モデル「Phantom 4」を実際に飛ばし、安全性や操作性を確認してみた。
安全性のための装備や機能が充実、まず墜落しない
DJIのPhantomシリーズは、誰でも安全に飛ばすための機能や装備が充実していることが評価され、世界的に高いシェアを獲得してきた。2016年3月に登場した第4世代モデル「Phantom 4」は、墜落の危険を回避したり自動で安全な飛行を確保すべく、以下のような機能を備える。
・GPSの電波を受けて常に姿勢と位置を補正するため、風の影響で機体が流されることがほぼない
・超音波センサーと2組のカメラを使ったビジョンポジショニングシステムで、GPSの電波が受信できない場所でも安定して飛行
・前方の障害物を監視するカメラを搭載し、障害物の手前で自動停止したり回避して飛行できる
・ボタン操作で離陸地点に帰還するリターン・トゥ・ホーム機能
・送信機との通信が途絶したりバッテリーの残量が少なくなると、自律飛行で離陸地点に帰還
・自動で目的地点までまっすぐ飛んだり、目的地点を周回する自律飛行機能
・画像認識で対象物を追いかける自律飛行機能
・機体が飛行禁止区域の地図を記憶し、GPS情報に基づいて飛行禁止区域ではローターが回らず飛行できない
Phantom 4は、機体の姿勢を制御するフライトコントローラーに2組のIMU(慣性計測装置)と電子コンパスを搭載し、自機の姿勢を常に安定した状態に保てる。空中で静止状態にあるときには、強い風が吹いても流されることがないのだ。もし機体と送信機の通信が途絶しても、GPS機能を利用して自動的に離陸場所に帰還するリターン・トゥ・ホーム機能を搭載。万が一制御不能になったとしても、ドローンがみずから離陸地点に戻ってきてくれる。
機体の底面には超音波センサーを搭載し、地面との距離を測定して高度を一定に維持。屋内などGPS衛星の電波が受信できない環境では、底面に備えた2つのカメラを用いた独自のビジョンポジショニングシステムにより、地面を撮影して画像認識処理を実施し、位置を補正する仕組みを備える。
機体前面に搭載した2つのカメラでは常に前方の様子を三次元で把握し、一定の距離内に障害物が接近した場合は自動的に停止する機能も備える。操縦者が前進の操作を続けたとしても決して前進しないため、何かに衝突するという心配もないのだ。
Phantom 4に搭載されたカメラは1200万画素の1/2.3型センサーに35mm判換算で20mm/f2.8の単焦点レンズを組み合わせる。動画は4096×2160ドットの4K画質で記録でき、写真は4000×3000ドットで撮影できる。カメラは3軸のジンバル(傾きや揺れを補正する装置)で支持されていて、機体の姿勢に関係なく安定した映像が撮影できるようになっている。
送信機のスティックから手を離すとその場で静止
Phantom 4は、従来のPhantomシリーズよりも安全機能が格段に充実し、ビギナーでも墜落や損傷の心配なくフライトが楽しめる。安定性の高いフライトや、きれいな映像が撮れるカメラの機能について試した。
送信機とタブレットをUSBケーブルで接続して電源を入れ、タブレットにインストールした専用アプリ「DJI GO」が起動したのちに機体の電源を入れれば準備完了だ。電源を入れる順番は送信機→機体の順で、電源を切るときには機体→送信機という順番を守る必要がある。機体の電源を先に入れると送信機に制御されない状態となり、最悪の場合は機体が勝手に動き出してしまう。これを防止するためだ。
送信機と機体の接続が確認できたら、Phantom 4では最初に「コンパスキャリブレーション」と呼ばれる作業を実施する。これは、フライトコントローラーに機体の姿勢と方位を覚え込ませるためのもので、機体の電源を切った状態で場所を大きく移動した場合に必要になる作業だ。
メーカーの担当者によると、過去にPhantomシリーズが墜落した事例の多くは、このコンパスキャリブレーションを怠ったことによるものが多いそう。作業が完了したことをアプリ上で確認したら、機体を地面に置いてGPS信号が受信できるのを待つ。GPS衛星を十数個捕捉できたら機体が自動的にその場所を記憶するので、晴れて離陸できるようになる。
周囲の安全を確認したうえで、左右のスティックを下に1~2秒保持するとローターが回転し、離陸の準備が完了する。右のスティックをゆっくりと上に上げ、ローターの回転速度を上げると離陸する。
スティックをニュートラル(中立)に戻すと、目の高さでホバリング(空中静止)した。1万~2万円程度のドローンでは、高度や位置を維持するために常にスティックを動かして調整する必要がある。だが、Phantom 4はスティックから指を離してもほぼ微動だにしない状態で空中で静止するのに驚かされる。内蔵の各種センサーやGPSの情報を駆使し、機体の姿勢や高度、位置を細かく自動で制御しているからだ。多少風が吹いたとしても、その風にあらがう形で制御を働かせ、姿勢を補正する。
ホバリングで機体の調子をチェックし、問題なく飛行できそうだと確認できたら、前後左右に進ませたり、高度を上げてみる。カメラが捉えた映像は、送信機に付けたタブレット上に表示される。普段は見ることができない高い視点の映像が簡単に撮影できるのは、ドローンの醍醐味のひとつといる。カメラと機体の間に取り付けられたジンバルのおかげで、機体が動いても風が吹いても映像はきわめて安定している。
衝突防止機能はしっかり動作、自動帰還機能も備える
Phantom 4が売りとする安全機能や撮影機能は、実際にしっかり機能するのだろうか。まず、機体前方のカメラで障害物を認識し、あらかじめ設定した距離で自動停止する機能を試した。1×2mの板を障害物に見立ててPhantom 4を前進させてみたところ、スティックを前進側に倒したままでも2m手前で急停止し、ぶつかることはなかった。うっかりよそ見をしていても建物などに衝突する心配はないだろう。
バッテリーの残量が少なくなった場合や、機体と送信機の通信が途絶した場合には、自動的に離陸地点もしくは送信機の場所まで戻ってくるリターン・トゥ・ホーム機能がある。実際、飛行中にバッテリー残量が少なくなると、操作を無視して突然上昇を始め、一定の高度まで上がると着陸地点の上まで移動を開始し、ゆっくりと下降して無事に着陸できた。この間、操縦者が操作する必要は一切なかった。
被写体を自動で撮影し続けるユニークな機能も
Phantom 4は、いったんホバリングさせれば機体が安定するため、撮影に集中できるのが魅力だ。タブレットのDJI GOアプリを使えば、解像度や露出補正、ホワイトバランス変更といった細かな設定もできる。
Phantom 4は、マニュアル操作では難しい撮影機能を充実させた点も注目できる。その1つが「ポイント・オブ・インタレスト」という機能だ。あらかじめ地図上で決めた点を中心に、常にカメラをその点に向けながら円を描いて飛行する機能だ。撮影の主題をより明確にする撮影でよく使われる手法だが、"カメラを中心に向けながら円を描く"という飛行は機体の左右移動と回転をうまく調節する必要があり、手作業での操縦はとても難しい。Phantom 4は、それを自動でこなしてくれるのだ。
もう1つ便利な撮影機能が「アクティブトラック」だ。ライブビューで任意の被写体を指定すると、その物体が動いても自動で追尾して画面に収め続けるというもの。走る人や自転車などの被写体を追うのにとても便利な機能だ。
ドローンを飛ばせる場所を有料で提供するサービスも登場
Phantom 4が持つ安全性を高める機能や便利な撮影機能によって、ドローンによる空撮が手軽かつ身近になったことが分かった。ただし、ドローンは場所や時間を気にせず飛ばすことはできない。2015年12月に改正された航空法で、重量200gを超える無人航空機の飛行方法が定められ、Phantom 4も航空法に則っての運用が求められるのだ。
大まかにいうと、飛行場などの重要施設の周辺や人口密集地での飛行、イベントなどの上空、夜間の飛行が禁じられたほか、第三者の人間や建物とは30m以上空けて飛行するなどの条件が加わった。日本をはじめ世界中の制限空域を記した地図は、DJIの「安全飛行・フライングエリアの制限」で参照できる。さらに、私有地の上空を飛行させる場合は土地所有者や管理者に許可を取る必要がある。つまり、都市部ではドローンを自由に飛ばせる場所はほぼなくなったといえる。
その状況を受け、ドローンの操縦を練習したり撮影を楽しむためのスペースを有料で提供する場所が日本全国にできている。横浜市金沢区にある「ドローンフィールド」は、DJI製品の総輸入元であるセキドが開設した首都圏初のドローン専用フライト練習場。DJIのドローンであれば会員になって料金を支払うことでフライトが楽しめるほか、専門スタッフによるアドバイスも受けられる。
最新のドローンはハイテクの塊であり、きわめて高いレベルで安全性が確保されていることが分かった。扱いづらくじゃじゃ馬的な存在だったかつてのラジコンヘリとはまったく別物だ。飛行できる場所に制約があるため、近くの公園や花火大会で気軽に飛ばす…ということができないのは正直もどかしい。だが、休日に郊外のゴルフ場に足を運んでコースを回るように、ドローンを飛ばせる場所に行って操縦や空撮を思いきり堪能する…という趣味が広まる可能性もある。
一時期「中国のアップル」ともてはやされた中国のシャオミ(Xiaomi、小米科技)が、2016年5月に500ドルを切る低価格ドローン「Mi Drone」を発表するなど、高性能ドローンの低価格化が急速に進むのは間違いないだろう。ドローンの動向に目が離せない。
(ライター 青山祐介)
[日経トレンディネット 2016年7月14日付の記事を再構成]
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