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約240億ポンド(3兆3000億円強)を投じての英半導体設計大手アーム・ホールディングス買収で、世界を驚かせたソフトバンクグループ社長の孫正義氏。28日に発表した2016年4~6月期連結決算の純利益は19%増の2541億円と足元の業績は堅調だったが、気になるのはアーム買収後の成長戦略だ。孫氏自身の時間の45%をアーム関連に使うと語るが、既存の通信キャリア事業とのシナジー効果を出すのは容易ではない。そもそもアームをうまく「操作」できるのか。

「いっぱい、いっぱいあるよ」。28日の決算会見後に筆者が「ソフトバンク本体とアームとのシナジー(相乗)効果を出す方法があるのですか」と問うと、孫氏は子供のような言い回しで笑いながらこう答えた。

ソフトバンクグループの孫正義社長(右)とソフトバンクの宮内謙社長

ソフトバンクグループの孫正義社長(右)とソフトバンクの宮内謙社長

当初、孫氏はアーム対して「カネは出しても口は出さぬ」という慎重な姿勢を示していた。しかし、同日の決算会見では「私の時間の45%はアーム関連、45%を米スプリントにあててゆく」と語った。国内の通信キャリア事業はほぼ宮内謙ソフトバンク社長に任せるという。アームの既存のビジネスモデルやマネジメントには直接、手を入れることはしないが、中長期戦略には関与していくという。

アームはスマートフォン(スマホ)のCPU(中央演算処理装置)の回路設計を手がけ、世界シェアの約9割を握る。ただ、半導体メーカーのような装置産業ではなく、有能なエンジニア集団によって構成される、人材が命のソフト会社に似た形態だ。買収後に人材が流出すれば、高成長軌道が崩れかねない。孫氏は「もっとインセンティブが上がる報酬体系に見直す考えもある」と強調。アームの技術陣に気を使う。

これまで数多くの大型買収を手がけてきた孫氏。しかし、大半は英ボーダフォン日本法人や米スプリントのような2番手、3番手企業やベンチャー企業だった。世界標準を握るコア技術を持った世界ナンバーワン企業を手に入れたのは初めて。「英国の至宝」と呼ばれ、プライドの高いアームとうまく距離感をとりながら、コントロールするのは孫氏といえども決して簡単なことではない。ソフトバンクやスプリントなど通信キャリア事業と半導体設計会社とは事業上の隔たりも大きい。短期間で両者のシナジー効果を出すのは難しそうだ。

孫氏自身、今回の買収は何手も先を読んだ結果というが、具体的なシナジー効果を出す方法には触れていない。業界関係者の中には「孫さんはアームはこのまま成長すれば、3~5年先には時価総額が何倍にも膨らむとみている。その価値をレバレッジして、アームの周辺企業の買収に乗り出すのでは」と指摘する声もある。

英アームの買収について説明するソフトバンクグループの孫社長(21日、東京都港区)

英アームの買収について説明するソフトバンクグループの孫社長(21日、東京都港区)

アームの取引先や周辺企業というのは、米クアルコムや韓国のサムスン電子、米インテルや米アップルなど。世界のIT(情報技術)の巨人にも挑むつもりなのだろうか。

今後、孫氏は自らの時間の9割を米英企業に費やす。すでに米シリコンバレーには豪邸を構えているが、筆者が「英国にも家を買いますか」と質問すると、ニヤッと笑って首を横に振った。アーム最高経営責任者(CEO)のサイモン・シガース氏のファミリーはシリコンバレーをベースにしており、「ここで月1度は直接会って中長期戦略について話し合う」ため英国に拠点を構える必要はないのだ。あくまでIT大手が集積するシリコンバレーを拠点に傘下となる米英企業を御する考えだ。

「今回、おカネをかなり使ったから当面買収はしない」と笑うが、孫氏の買収先リストにはすでに新たな標的が記載されているかもしれない。

(代慶達也)

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