コスパ高い個性派ノート 日本HP スペクトル13
戸田覚の買うか買わぬか思案中
最近は、タブレットとしてもノートパソコンとしても使える「2イン1」タイプの製品に注目が集まりがちだ。しかし、従来型のノートパソコンである「クラムシェル」タイプにも極薄の新製品が相次いで登場しており、市場で目立ち始めている。今回取り上げる日本HPの「スペクトル13」だけでなく、ASUSからも同じコンセプトのモデルが登場予定だ。
その源流は、アップルの「マックブック」にあるのはいうまでもない。拡張性を極限まで切り詰めて、代わりに極薄の本体を提供しているのだ。こうした極薄タイプのクラムシェル型は、どこまで本気で使えるのだろうか? 今回も辛口でチェックしていく。ちなみに製品名の「Spectre」(スペクトル)は、ラテン語の「見る(=specto)」が語源になっているそうだ。
ウェブページで初めてスペクトル13を見たときに、「派手なデザインだけに買う人を選ぶのではないか?」と疑問に思った。本体カラーはつや消しに近いダークグレーがベースなのだが、各部に金色のパーツがあしらわれている。製品コンセプトが「ラグジュアリー」というだけあり、その金色のパーツも、ヒンジ部分などはミラー仕上げで非常に派手だ。
実物に派手さはそれほど感じない
少しヒヤヒヤしながら試用する製品の到着を待っていたのだが、実物は意外にも悪くなかった。ウェブページの写真と違って、実物はかなりあっさりした色合いなのだ。メーカーでは「ブロンズゴールド」と呼んでいるが、個人的にはライトゴールドといった印象だ。
それでもパソコンとしてはゴージャスなデザインであることは間違いない。シルバーや全体がグレーのほうが無難で売れると思うのだが、なぜ金を採用したのだろうか。
「日本では受け入れにくいという声も聞いていますが、実物を見ていただくと良いデザインだとご理解いただけると思います。このカラーを採用したのは、世界的に販売する戦略上の結果です」(日本HP パーソナルシステムズ事業本部コンシューマービジネス本部コンシューマー製品部プロダクトマネージャーの岡崎和行さん)
完成度は高くハッとさせられるほど薄い
さて、気になる本体の完成度だが、こちらは間違いなく高く評価できる。天板とパームレスト部分がアルミで、底面はカーボンを採用している。少し前なら、超高級モバイルにのみ採用された素材だ。キーボード部分も日本語キーに合わせて切削されているので、見た目にも美しい。独自のシリンダーヒンジは構造的なこだわりを見せており、デザイン上のアクセントになっている。細部の合わせ目などをチェックしても、手抜きは一切見られず、完成度の高さはマックブックにも匹敵する。
唯一、デザイン上の欠点を挙げるとしたら、天板に樹脂のスリットが1本入っていることだろう。これは、無線LANのアンテナの電波を遮断しないためのものだが、見た目でそれがわかってしまうのが残念だ。きちんと塗装して隠すこともできるはずなので、こだわってほしかったポイントだ。
本体は最厚部でも11.2ミリで実物を見るとハッとさせられるほど薄い。重さは1.11キロと、この手のモデルとしては一般的だが、それでも十分に軽く、かばんへの収まりも上々だ。
デザインにこだわったモデルらしく、標準で専用のケースとクロスが付属するほか、別売でレザークラッチバッグと本体と同じカラーリングのマウスも用意している。トータルでそろえるとよりゴージャスに利用できるだろう。
端子類は最小限、LTEは内蔵してほしかった
よく考えられているのが、極薄のボディーの中でも、一番厚みのある本体背面に端子類を配置していることだ。本体の側面は天板とパームレストに分かれるために、端子類も付けられないくらい薄いということだろう。本体背面に端子類があることで、接続したケーブル類もごちゃつかず、見た目もすっきりとする。
ただし、端子類はUSBタイプCが3つのみと最低限にとどまる。普通の使い方をしていると物足りなくなるのは覚悟しておこう。マウスなどはできるだけブルートゥースを利用してワイヤレスで接続するようにしたい。
3つあるUSBタイプC端子は、一番端のものはACアダプターとの接続にも利用し、真ん中の2つは転送速度の速いサンダーボルト3にも対応する。通常のUSB端子との変換アダプターが付属するので、アダプターを介してUSBメモリーなども利用可能だ。
また、真ん中の2つのUSB端子は外部ディスプレーとも接続できる。4K出力に対応しており、2台のディスプレーに同時に4Kでの出力が可能。ただし、こちらは変換アダプターが付属しないので、別途購入する必要がある。外部ディスプレーへの出力は、プレゼンなどで利用する機会が多いので、ディスプレー接続用の変換アダプターも付属してほしいところだ。
どうしても納得できないのがLTEを内蔵していないことだ。持ち運びを意識した製品なのだから、ぜひ内蔵してほしかった。外出先でいちいちスマートフォンのテザリング機能を利用するのは面倒でしかたがない。
なお、日本HPのパソコンには「Bang & Olufsen」のスピーカーを搭載する製品が多く、本モデルもしかりだ。確かに音は悪くないが、極薄ボディーにしてはという注釈が付く。あくまでもホドホドなので、過大な期待は禁物だ。
液晶はタッチ操作には対応しない。クラムシェルタイプを買うユーザーにとって、タッチ操作は不要だろう。タッチパネルを搭載しない分、本体をより薄く軽く仕上げているのは、このモデルのコンセプトとも合っており評価できる。視野角や色合いも十分で、普通に使うには合格だ。
ラグジュアリーモデルなら4K液晶もあっていい
液晶の解像度はフルHD(1920×1080ドット)だが、僕個人としては十分だと思っている。そもそも、4Kなどの超高解像度にしたところで、文字が細かすぎて読めず、結局拡大して使うことになるからだ。
ただし、写真や4Kで撮影した動画を見たときの美しさは、フルHDと4Kの液晶とではかなり差が出てくるのも事実だ。
「弊社の個人向けモデルでは4K液晶を採用している製品はありません。フルHDで十分に精細ですし、また価格を考慮したバランスも考えたうえのことです」(岡崎さん)
なるほど、コストを抑えたいのは理解できる。とはいえラグジュアリーモデルとしての位置付けなら、4Kモデルも用意してユーザーが選べるようにしてもよかったのではないだろうか。
最近の携帯ノートは、液晶の縦横比が16対10や3対2のものが増えている。どんどん縦が広くなっている傾向にあるのだが、スペクトル13は16対9の横長のワイド液晶のままだ。最近は幅の広いメニューを採用するソフトが増え、液晶の縦が広いほうが使いやすいと感じる。また16対9のワイドだからなのか、液晶の位置が上すぎるような気がする。画面の下に無駄に広いフチがあるので、液晶を下方向に大きくして、縦に広げてほしいところだ。
極薄ながらキーボードは打ちやすい
この手の極薄モデルは、本体を薄く作りたいために、キーストロークが犠牲になりがちだ。マックブックのキーボードも独自の方式を採用しており、キーストロークが非常に浅い。しかし、本モデルは、キーストロークが1.3ミリ、キーピッチが18.7×18.4ミリと、それなりの数値を確保している。キーの配列にも、合格点を付けられる。一部のキーが小さくなっているのは、本体のサイズを考えれば、致し方ないところだ。
実際に打ってみても、タイプ感は悪くなく、携帯ノートとしては十分な打ち心地だ。若干気になったのは、スペースキーを押したときの感触が軽いこと。強めにキーボードを打つ人にとっては少し気になるかもしれない。
タッチパッドは、それなりのサイズが確保されているのだが、クリックボタンがパッドと一体となっているのが残念だ。ボタンがないとドラッグ操作などがとてもしづらく、使い勝手に劣ってしまう。そうしたこともあり、最近のビジネス向けモデルは、どんどん独立したクリックボタンを採用する方向に戻っているのだ。見た目の美しさは多少犠牲になっても、なんとか独立させてほしかったと思う。
CPUにコアiを搭載、性能の高さにも注目
とかくデザインに注目が集まりがちなスペクトル13だが、実は性能も目を見張るものがある。極薄のボディーながら、CPUはコアiシリーズを採用しているのだ。省電力性能に優れるモバイル用のコアmシリーズにすれば、ファンレス設計も可能になり、より薄くすることもできたはずである。しかし、あえて性能の高いコアiを採用したのは高く評価したい。そのために独自の吸排気構造を採用している。
スペックの違いで2モデルが用意されており、下位モデルがコアi5、上位モデルがコアi7を採用している。どちらもメモリーは8ギガで十分な容量。さらにチェックしておきたいのがSSDで、高速なPCIe接続タイプを採用するのだ。しかも、下位モデルでさえ256ギガ、上位モデルは512ギガを搭載する。モバイルノートの中では文句なしに高性能だ。それでいて価格は上位モデルでも税別ながら15万円台に収まっているのはコストパフォーマンスが非常に高い。実際に使ってみても、テキパキと快適に動作する。これから6~7年使い続けても、安心できるスペックだ。
ユーザーを選ぶカラーリングは、仕事によっては使うのが難しいかもしれない。金融や不動産などの職種でこのモデルを使うのは、なかなか勇気がいるだろう。逆に、アパレル系などカジュアルな印象の職種なら目立っていい。
ユーザーを選ぶデザインであることを前提として、太鼓判を押したのは、コスパの高さを考えてだ。特に上位モデルのコアi7+512ギガのSSD(PCIe)で、15万円台(税別)という価格は非常に魅力的。ちょっといいモバイルノートを買いたい人には、有力な選択肢になる。2イン1ではなく、通常のクラムシェルというのも、お薦めのポイント。仕事に使うなら、シンプルなクラムシェルこそ向いているし、コスパでも有利なのだ。
著書が130冊を超えるビジネス書作家。年間300機種以上を評価する、パソコン批評の第一人者でもある。そのキャリアは20年近くに及び、ユーザーの視点で、パソコンの良し悪しをずばり斬る。
[日経PC21 2016年9月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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