カバン・靴・ひげ ビジネスマンにカジュアル化の波
日経BPヒット総合研究所 品田英雄
エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を斬るコラム「ヒットのひみつ」。今回のテーマはビジネスマン(女性は含まない)のカジュアル化。この夏、若手ビジネスマンのカジュアル化が大きく進行している。カバン、靴、ひげと見た目を特徴づける3つのアイテムで、これまでとは異なるモノが支持されている。何が売れ、その背後になにがあるのかを紹介しよう。
「ポケモンGO」も後押しか、リュック流行の理由
IT系のビジネスマンから人気が広がったのが「ビジネスリュック」だ。これまでビジネス用のカバンといえば、手に持つタイプのものが主流で、それに続くのが肩にかけられるショルダーバッグだった。それが2015年あたりから、背負うタイプの「ビジネスリュック」がどんどん売れるようになっているという。
その背景にあるのが、自転車通勤者が増えたことだ。自転車の操作には両手が使えないといけない。リュックサック自体は昔から使われていたが、大容量を持ち歩けるからという理由で選ばれることが多かった。そのため見た目はオシャレとは言えず、「子供っぽい」「オタクっぽい」という印象を与えていた。
それが、世界的な自転車ブームの広がりで欧米でスーツに似合うリュックが開発されるようになった。カバンメーカーが開発するだけでなく、アウトドア用品メーカーもビジネスマン向けの商品を開発するようになり、選択の幅が大きく広がった。これに学生時代からリュックに慣れ親しんだ世代の支持が加わり、カジュアルな服装が許されるビジネスマンへ、さらに普通のビジネスマンに及んでいる。若いオシャレなビジネスマンが使うバッグというイメージが広がりつつある。16年夏は雑誌「DIME」がスーツメーカーと協力して理想のビジネスリュックを開発するなど、新規参入組も目立つ。
今後、この傾向に拍車をかけそうなのがスマホの影響だ。スマートフォンを使う人にとっては両手が自由になることの意味は大きい。16年7月にはゲーム「ポケモンGO」がリリースされてビジネスマンさえも夢中になっている。両手を空ける意味はさらに大きくなった。リュックの人気はさらに高まりそうだ。
運動靴がおしゃれだ。スニーカーに起きている変化
カジュアル化でさらに先を走っているのが靴だ。東日本大震災以降、歩きやすさが注目されて靴の高機能化が進み、新しいスニーカーが普及した。特に、一見ビジネスシューズと見分けがつかない「ビジネススニーカー」を、スーパーブランドからスポーツメーカーまで発売し大人気となった。
ところが、この夏はもうビジネススニーカーは売れていないのだと大手百貨店の担当者は言う。というよりもすでに店頭には置かれていないと言った方が近い。売れ筋のスニーカーは次の段階に進んでいて、一目でスニーカーとわかるタイプが売れている。特徴で言えば、1つ目が「白底」。底の部分が白く、横から見てもスニーカーとわかるもの。2つ目が「パンチング」。レザーの表面に丸や三角の穴を連続的に開けることで軽量化でき、デザイン面での新しさもあるもの。3つ目が、多くはないが売れてきたのが「ヌードカラー」。肌色のスニーカーが売れるようになっているという。
クールビズが定着し、ビジネスシーンのカジュアル化が進んでいる。初めは恐る恐る身につけていたカジュアルな装いがすっかり普通になり、革靴の延長とは無関係にスニーカーが選ばれるようになっている。
40代でも仕事用のスニーカーを買う人が増えているというし、スーツを着ていない人はスポーツ系高機能のスニーカーを選ぶことも多くなっていると聞く。足元のカジュアル化は進みこそすれ、後戻りすることはないようだ。
見た目のカジュアル化を象徴するひげの広がり
もう一つビジネスマンのカジュアル化の象徴と思えるのがひげの一般化だ。以前ならば、ビジネスマンに見られなかったひげが、目につくようになっている。理由ははっきりしないが世界的な流行であることは確かだ。
欧米では数年前からひげブームと言われ、俳優やスポーツ選手から始まり、ビジネスマンや政治家にも普通に見られるようになってきた。日本人でも大リーガーのイチローやラグビーの五郎丸歩などのアスリートから、EXILEのメンバーやオリエンタルラジオの中田敦彦などの芸能人、さらにサントリーホールディングスの佐治信忠会長など、もはや特別な存在ではなくなってきている。かつてはサラリーマンがひげを伸ばすには一大決心が必要だったが、もはやその緊張感はない。若手ビジネスマンには選択肢の一つになっていて、その勢いは収まりそうもない。=敬称略
1. 2016年の夏を境に、若手ビジネスマンのカジュアル化が進みそう。
2. その中身は、カジュアル=楽という意味ではなく、むしろパリッとしたオシャレに近い。自分らしいスタイルを追求した結果ともいえる。
3. 選ばれる商品も「カジュアルなので安い」とは限らない。お手頃とは一線を画す高級品が少なくない。
4. 一度、その気分を味わった若手ビジネスマンがその居心地の良さを手放すことはなさそう。このカジュアル化路線はしばらく続きそうだ。
日経BPヒット総合研究所 上席研究員。日経エンタテインメント!編集委員。学習院大学卒業後、ラジオ関東(現ラジオ日本)入社、音楽番組を担当する。87年日経BP社に入社。記者としてエンタテインメント産業を担当する。97年に「日経エンタテインメント!」を創刊、編集長に就任する。発行人を経て編集委員。著書に「ヒットを読む」(日経文庫)がある。
日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。
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