シンガポールで共働きが当たり前の3つの理由
こんにちは、宮うちみかです。現在、私は日本人として現地採用され、シンガポールにある日系企業でフルタイムで会社勤めをしています。私生活では四児の母です。ちなみに夫も駐在員ではなく、現地採用です。そんな私の目から、シンガポールの子どもがいる共働き世代の台所・家事事情をお伝えします。
育児は夫婦二人では無理、が大前提で制度充実
まずシンガポールでは共働き家庭が非常に多いです。アタリマエと言ってもいいくらいです。その理由として下記の理由が挙げられます。
1.兵役制度で、男性には出世のブランクがある
シンガポール人の男性は高卒~大卒の間に2年の兵役が課されています。ですので、女性に比べてキャリアを積み上げるという面において、ブランクがあります。女性のエリートは男性よりも収入が多い場合も多く、そんな彼女達が専業主婦に戻る可能性はまれです。
2.教育費が高い
シンガポール人は子どもの教育にとてもお金をかけます。公立小学校は月120ドルほどで済むものの、幼稚園は半日保育でも月10万円を下りません。私が日本で住んでいた都内の私立幼稚園保育代の相場(週に一度半日保育、その他は15時まで)が月3万円ほどだったことを考えると、びっくりするくらい高いです。
また、シンガポールでは小学校入学後も、子どもに対して潤沢にお金を注ぎ込みます。塾や家庭教師、私立の学童、ジムやバレエ、楽器などの習い事など、とても教育熱心な国です。
3.育児は夫婦では無理、が大前提の制度が充実している
シンガポールでは政府が「子育ては、夫婦二人では無理ですよね」と言わんばかりの制度があります。一つはメイド制度。フィリピン、インドネシア、ミャンマーなどから来たメイドを雇う優遇制度があり、月5万~6万円ほどで雇うことができます。
また、多くのシンガポール人は35歳になるとHDB(公団住宅)を安価で購入することができます。そして親元の近くに購入する場合は、さらに割り引きされる制度があります。これによって共働き世代は、子どもがいても祖父母世代に面倒を見てもらうことができるのです。
ですのでシンガポールでは、子どもを持った後も、共働きがしやすい環境にあるというわけですね。
さらに生活費が高い永住権保持者や外国人
ちなみに、PR(永住権保持者)や外国人には、上記の優遇制度は適用されません。まず親をシンガポールに呼ぶ、つまり祖父母世代がビザを取るのは、不可能ではありませんが、簡単ではありません。
また、PRはHDBを購入できますが、外国人は買うことができません。コンドミニアム(プール付き高級マンション)か、HDBを賃貸で借りることになりますが、夫婦2人、子ども2人の3ベッドルームで安くても30万円は下らない印象です。メイドも諸費用がもう少し高くなります。教育費も、政府からの補助が出ないため高くなります。
多くの駐在員家庭では、会社が食費以外の生活費のほとんどを出すため問題になりません。わが家のように現地採用の共働き世帯は、教育費も家賃の補助も出ないため、収入が左から右へ流れるように消えていきます……。
ですから駐在員家庭以外は、外国人でも共働き家庭は多いのです。
共働き世代の食生活事情
次に、具体的な実例を基に、共働き夫婦の食生活・台所事情を見てみようと思います。
……夕ごはんは先に帰宅したほうが作る。週末と娘のバレエのときは外食
平日の夕食は「どちらか、先に帰ったほうが作るよ」と屈託なく教えてくれました。「残業は無いんだね」との問いに、「うーん、あるときは大体持ってかえるかな」とのこと。極力残業はせず、家族で食卓を囲む。
「週末は大体外食、放課後に習い事のバレエがあるときは、その近くのフードコートで食べちゃう」のだそう。週に3回は外食ということです。若い世代は収入の関係か、メイドを雇わない夫婦も多い。
……朝に娘を祖父母宅に預けて出勤、お迎え時に夕食をもらって帰る
祖父母世代に預けるといっても、祖父母宅のメイドに預けているようなものとのこと。預け始めは「ミルクは何回飲んだ?」などと何気なく聞いていたことが、メイドのプレッシャーになっていたことが判明。今では何も言わず「ありがとう」のみ伝えているうちに、関係が改善された。
夕食は毎回メイドの作ったものを皆で食べて、娘を連れて帰宅するのが常。
……夫が先に帰って夕食作り、妻は子どもを学童と幼稚園から迎えて帰宅
妻曰く「大体夫が先に帰って夕食を作って待ってる。私は子どもをお迎えに行って帰る」とのこと。両親は身体があまり健康でなく、助けは期待せずに、学童と有給で乗り切っている。収入の関係か、子だくさんにもかかわらずメイドを雇っていない。そのため妻は頻繁に仕事を休んでいる。来月も夫の兵役があるので、休まなければならない。
「大変なときは夕食を外で買ってかえるよ」と言うので、「何を買うの?」と聞くと、「カレーやビーフン、ヌードルなど」とのこと。週末は外食する。
……毎回外食
「今は夫婦で働いて、お金がたまったらHDBを買う。そしたら赤ちゃんと一緒に住むの」と語った妻は30歳前後。現在夫婦で住んでいる賃貸HDBは、なんと"料理禁止"なのだそう。よって毎食外食。ちなみにシンガポールでは、料理を家でしないことは、それほど珍しいことではない。
……平日は家で食事、週末は外食
妻はパートタイム勤務。平日の食事はすべて妻が作る。両親は家事をしない。夫は平日は夕食を共にする時間には帰宅しない。週末は外食。
夫は奇麗好きで、平日帰宅後にエクササイズとして掃除するのが趣味。「家で料理すると、台所が汚れるし、後片付けが大変だから、そんなにずっとしなくてもいいよ」とのこと。
これがシンガポール育児の特徴だ
最後に、私から見た、シンガポールでの子育ての特徴について、まとめたいと思います。
・日本人の常識からすると、「ゆるい」印象
どの世帯も概して、びっくりするくらい「緩い」印象です。祖父母世代の家で食べること、外食することに抵抗がありません。日本で育てられた私は、平日に大変だからと外食することには、まだ抵抗があります。それは日本人的な勤勉さと真面目さが染みついているからだと思っています。
さらに、わが家の子どもたちは毎日お弁当を持っていきますが、学校には有料のお弁当サービスがあります。わが家ではこの有料サービスを利用するのは週に1回だけと決めています。子どもの食を大切に思ってのことなのですが、わざわざ自分に厳しくしている面も否めません。そんな私からすると、あまりそういうことにこだわらないシンガポール人の人々を、「楽そうで、いいなあ」と羨ましくなる面もあるのです。
・外食が圧倒的に多い背景に、ホーカーセンターあり
ホーカーセンターという、HDBの近くには必ずある屋外フードコートは、物価が高騰するシンガポールでもいまだギリギリの線で安さを守っています。例えばチキンライスや、フィッシュボール・ヌードルは安くて3ドルから食べることができます。さらにホーカーには大体テレビが天井にくっついていて、おじいさんやおばあさんが一人で来てテレビを眺めながら夕ごはんを食べたり、そうかと思えば三世代大家族がわいわいと食事をしていたりと、さながらリビング・ルームのようです。
・祖父母世代に頼っている
祖父母世代が赤ちゃんの面倒を見たり、塾や幼稚園の送り迎えをしたりしている様子は、ここシンガポールの日常風景です。日本と比較してみると、祖父母世代に頼ることが気兼ねなくできている印象を受けます。祖父母世代との確執も、ちらほら聞いたりはしますが、それでも日本のように物理的距離が離れていない分、まだ家族として機能しています。
・簡単には日本に適用できない側面も
女性のキャリア維持には最高の環境として取り沙汰される、以上のようなシンガポールの状況ですが、かといって日本には安易に適用できない文化的背景もあるように思います。
まず外食ばかりの食環境は子どもにとって最高とはいえません。さらに、メイドに子育てを任せきって、母親よりメイドに懐いているという例も聞いたことがあります。外国人労働者を受け入れる環境は今後の少子化により必須といわれているものの、まだまだ整っていないのが現状です。
各国のやり方を自国の状況に合わせてカスタマイズし、日本での子育てがもっと共働き世代に優しいものになるといいですね。以上、シンガポール共働き家庭の食事・台所事情でした。
(ライター 宮うちみか)
[日経DUAL 2016年6月23日付記事を再構成]
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