軽自動車の実燃費 カタログ値の7割に達せず
燃費が優れるうえ税金が安く、環境にも財布にも優しい「エコ」な軽自動車。そのイメージに冷や水を浴びせる事件が起きた。三菱自動車による「燃費不正」だ。発端は、同社が13年以降に発売した軽乗用車「eKワゴン」「eKスペース」と、日産自動車に供給していた「デイズ」など計4車種の実燃費が、カタログに掲載された燃費(カタログ燃費)と大きくかけ離れていたこと。供給先の日産からの指摘で発覚した不正の内容は、カタログ燃費を実際より良く見せるために、測定の根拠となるデータを偽装したというものだった。
明らかに"悪意"のある三菱の不正に対して、"善意"の不正として話題になったのがスズキだ。スズキは走行抵抗値を屋外のコースではなく屋内の試験機で実施。さらに、タイヤなどの部品の抵抗値も測定器で個別に算出し、それらを足し合わせた推計値を国交省に提出していた。同社のテストコースが風の影響を受けやすいことから、「屋外では正確な試験が困難だった」(スズキ)という。だが、ルールに反していた点では不正に変わりない。
一連の燃費不正の背景には、カタログ燃費の良さがエコカーの物差しとして強調され、この数値を自動車メーカーが血眼になって競ってきたという日本特有の事情がある。こうした傾向が顕著になってきたのは09年頃から。エコカー減税が始まり、トヨタ自動車から3代目の「プリウス」が発売され、エコカーへの支持が急拡大した時期だ。
カタログ燃費こそ正義──。そんな風潮が広がっていたものの、実燃費との間に大きな開きが生じるのが現実だ。「一般に実燃費はカタログ値の6~7割とされる」(燃費情報サイト「e燃費」を運営するイード)。これはカタログ燃費の計測時にエアコンやヘッドライトなどの電装品をオフにする他、テスト時の走行パターンが実走行とかけ離れているのが原因とされる。
エコカーほどカタログ燃費の達成率が低い傾向
こうした実態を明らかにするため、「e燃費」が集計した実燃費を基に達成率のランキングを作成した。そこから浮き彫りになったのは、ハイブリッド車や軽自動車のようなエコカーほど達成率が低いという実情。しかも、年を追うごとにカタログ燃費が良くなっていく一方で、達成率は下がるばかり。カタログ燃費は、ほとんど当てにならないと言っていい。
その一因が、実走行で発揮される性能より、「クルマの設計自体がカタログ燃費を強く意識されるようになったため」(イード)。英語学習に例えると、実践的な会話力を磨くよりも、TOEIC対策でテクニックを身に付けて成績を上げるのと似ている。いくらスコアが高くても、ビジネスシーンなどで英語が話せなければ、全く意味がない。
軽自動車4機種で燃費を実測
それでは、不正の舞台となった軽自動車の本当の実力はどうか。三菱のeKワゴンを含む4メーカーの4台で約200kmを走行し、実燃費をチェックした。走らせたのはeKワゴンに加え、スズキ「スペーシア」、ダイハツ工業「キャスト」、そしてホンダ「N-ONE」だ。いずれも過給器(ターボ)のない自然吸気エンジンを搭載したモデルだが、スズキのみ小型モーターがエンジンを補助する簡易ハイブリッド機構を備える。
走行ルートは、東京・日本橋と神奈川県の箱根を結ぶ往復約200km。旧東海道をたどる一般道から片側3車線の国道、さらに山道からバイパスまでバリエーションに富んでいる。これらを走ることで、より日常生活での利用に近い燃費を出すことを狙った。
4車種のカタログ燃費を比べると、最も良いのがスズキの32.0km/L。これにダイハツと三菱の30.0km/L、ホンダの28.4km/Lと続く。
実燃費ではどんな差がつくのか。メーター表示によると、ゴールでの首位はダイハツの19.9km/L。これに僅差の19.8km/Lでホンダが続き、スズキは19.3km/Lだった。ほぼ横並びの3車種に対し、三菱は17.6km/Lと引き離された。ただし、スズキのみ全高が10cm以上高いトールワゴンタイプで、車体が最も重い。この点を考慮すれば、かなり健闘したといえる。
三菱が最下位に沈んだ理由は、エンジンの加速性能の違いにありそうだ。というのも、最高出力と最大トルクのどちらも4車種で最も小さいため。発進時や上り坂では他より余計にアクセルを踏み込む必要があるので、おのずとガソリン消費量が増えてしまう。
この傾向は燃費の推移を見ても明らかだ。まず、最初の区間は旧東海道を通過したので細い道も多く、信号などで停止と発進を繰り返す。次の区間は箱根に向かう山道があり、上り坂が多い。加速性能が低い三菱は、他よりもアクセルを踏み込む必要が生じ、必然的に燃費が悪化した。往路の終着である箱根で測った燃費は、三菱が12.6km/Lと最下位。達成率にして約42%と、他の3車種に大きく引き離された。
メーター表示と実燃費も乖離(かいり)していた三菱
ところが、最終的に復路のバイパス走行を経て、この差が一気に縮まった。ここで気になったのは、三菱の追い上げぶりだ。各区間の燃費をメーター表示を基に算出したところ、箱根から藤沢までの第3区間に限って三菱の燃費が50km/Lを超えた。同じ区間で他の3車種が25km/L前後だったことを考えると、計算上は2倍も優れていたことになる。箱根からは下り坂が多かったとはいえ、「これほどの伸びは説明がつかない」(技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏)のが正直なところだ。
なお、参考までにゴール後の給油量を基に全行程の燃費を別途算出したところ、三菱は14.3km/L。同じ計算で他が17k~19km/L台だったのに比べて、乖離(かいり)が大きかった。
アイドリングストップの性能の差も、燃費に影響したようだ。停止時に最も長くアイドリングストップしたのは、ダイハツとスズキ。いずれも2分50秒ほどで、約1分50秒のホンダが続いた。三菱は最長でも約50秒と振るわなかった。なお、計200kmの道中で最もアイドリングストップの合計時間が長かったのは、1時間56分のスズキだった。
(日経トレンディ編集部)
[日経トレンディ2016年8月号の記事を再構成]
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