損せず最適に意思決定するには、選択肢を○個まで絞る
今月は参議院選挙がありましたね。選挙前には、各IT(情報技術)サービス会社から選挙の結果予測がたくさん出るのも恒例となりました。予測だけではなく、みんなが何をどう考えているかの指標として、ビックデータを基盤にした口コミサービスやランキングサイトも多く見かけます。買うか買わないかの意思決定を助けてくれるツールがたくさん出てくる一方で、選択肢が多すぎて困ってしまうという声も増えつつあります。今回は、最適な意思決定をするために何に気をつければよいか、過去の研究を参考に紹介していきます。
なぜ、人は未来予測や口コミサービスが好きなのか?
そもそも、なぜ私たちは未来予測や口コミが好きなのでしょうか?
それは、損をしたくないからです。
わざわざ時間を使って予測サービスや口コミサービスを見る。ときには有料のそうしたサービスまで活用し、情報収集にコストをかけるのも、「損をしたくない」という心理が働いているのです。同じ5000円を使うにしても、可能な限りおいしいレストランに行きたいし、可能な限り、自分の肌に効き目のある化粧品を買いたいものです。
しかも、「みんなが知っているのに自分だけが知らずに損をする」という事態も回避したい。
でも、選択肢が増え、意思決定サービスがあふれかえっている中では、選択や判断を前に情報収集の段階で疲れてしまっているという人も多いのではないでしょうか。
情報処理を繰り返すと脳が疲労する
今、私たちの生活は、スマホから24時間いつでも商品に関する情報を得られるようになりました。それによって、生活の質が向上したのも事実です。ただ、このように選択肢が多いことが逆に、迷いやストレスの原因にもなり、脳疲労を加速させるという研究もあるのです。
これは、米TIME誌など各誌で取り上げられて話題になったマイクロソフトの研究ですが、スマホ依存で情報収集ばかりしている人の脳は、情報処理を繰り返して疲れ切ってしまい、記憶力・情報処理能力において、なんと金魚以下(!)になっているそうです。
スマホ好きな私にとっては、耳が痛い話です……。
(ちなみに、スマホの使い過ぎで首のしわが目立つ若い女性も増えているようですね)
では、どうしたらよいのでしょうか。
選択肢を何個に絞ると人はうまく決断できるのか?
ヒントになるのが、コロンビア大学教授で社会学者のシーナ・アイエンガ―博士の社会実験です。彼女は、米国のスーパーマーケットで、26種類のジャムと、6種類のジャムを並べた場合、どちらが売れるかを計測しました。結果は、6種類の売り場のほうが、試食者の購入頻度が高くなりました。この結果から博士は、多すぎる選択肢は人間を迷わせ、困惑させるという可能性を示しました。
「でも、選択肢が少なすぎるのも納得いかない!」という人もいるかもしれません。では、人が心地よいと感じる選択肢はいくつなのでしょうか。
それは、7 ± 2 (5個~9個の範囲)でした。
シーナ・アイエンガ―博士の研究だけでなく、過去の心理学者たちの研究を見ると、7つぐらいが選択肢として心地よいと示されています。世界には7曜日、7不思議、初7日、7つの習慣……と、「7」にまつわる話が多いですよね。これは、人間の情報処理能力の数とも関係があるようです。
例えば、化粧品を選ぶにしても、口コミやランキングサイトなどを見るとブランドはたくさんあり、選択肢が多すぎて困ってしまいます。その場合は、友人からの情報を集めるにしろ、口コミを確認するにしろ、5~7人くらいの意見を聞くのが、ストレスなく選択できる範囲だというわけです。これからは、多すぎる選択肢を前に迷ったら、まずは7つに絞り込むのが有効かもしれませんね。
ビジネスの現場では、この考え方はマーケティングや商品開発をする人にとってよい指標となると思います。ウォルマートはこの研究を基にしており、1店舗あたりの商品数はコンビニより少ないそうです。
最後に私からおススメしたいのは、選択や判断に迷ったら、その道の専門家に直接会って話を聞くこと。一人で黙々と情報収集しているとき、誰かに聞くとスパッと解決、判断できたという経験ってありませんか? しかもface to faceなので「本当に有益な情報だと思ってアドバイスしてくれているのかどうか」を読み取ることもできます。スマホばかり眺めているのではなく、人とのつながりを大切にして対話を増やしていきたいですね。
[参考]
TIME誌での掲載 http://time.com/3858309/attention-spans-goldfish/
マクロエコノミスト。Good News and Companies代表。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。化粧品会社エイボン・プロダクツ社外取締役。1983年生まれ。神戸大学経済学部、一橋大学大学院(ICS)卒業。大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)では株式アナリストとして活動し、最年少女性アナリストとして株式解説者に抜擢される。2012年に独立。経済学を軸にニュース・資本市場解説をメディアや大学等で行う。若年層の経済・金融リテラシー向上をミッションに掲げる。
[nikkei WOMAN Online 2016年7月13日付記事を再構成]
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