人気ボカロプロデューサー、八王子Pがベストアルバム
人間らしさ演出 生音融合など新たな試み
2009年にニコニコ動画に投稿した、初音ミクのボーカロイド曲『エレクトリック・ラブ』が、10日間で10万回再生され、一躍有名ボカロP(プロデューサー)に。その後もクラブサウンドを意識したダンスミュージックが人気を集め、12年にメジャーデビューを果たした八王子P。今年4月に開催された「ニコニコ超会議2016」ではDJとして出演。トータルで数千人を集めたステージの一角を担うなど、ボカロ界のトップランナーだ。
そんな彼が6月、新曲4曲も収録した初のベストアルバム『Eight-THE BEST OF 八王子P―』を発売した。
2枚合わせて36曲入りと大ボリュームだが、このタイミングでの発売には今までの集大成と、新しいことに挑戦したいという2つのメッセージが込められているという。「代表曲はもちろんのこと、インディーズ時代にコミケで売っていた頃の曲まで入っています。一方で、新曲にはあえて今までやらなかったテイストを取り入れています」
実際、これまではアップテンポなダンスミュージックをベースに、人間では歌えない高いキーを使ったり、よりロボットっぽく聴かせるために無機質に声を加工したりと、ボーカロイドならではの楽曲が多かった。しかし新曲『気まぐれメルシィ』では、声にビブラートを付け、これまでは使わなかった管楽器などの生音を入れるなど、人間らしさを演出。同じく
新曲の『Step To Tomorrow』 はバラードに近いスローな曲調で、ダンサブルなのにゆったりと聴ける1曲に仕上がっている。
新しい試みの曲をあえてベストに入れたのは、現在のボカロシーンへの危機感からだという。「残念ながらボカロというだけで注目が集まる時代ではなくなっている。だから新しいものを提示していくことで、このブームを一過性で終わらせたくないと思っています」
1人で楽曲制作できることからボカロ曲を作り始めたが、もともとはダンスミュージックが好きで、きゃりーぱみゅぱみゅやCAPSULEを手がけた中田ヤスタカには大きな影響を受けたという。また今は、世界規模で流行中のEDMにも興味があるそうだ。「EDMアーティストのアビーチーは、ダンスミュージックに異色のカントリーを合わせた曲を世界中で大ヒットさせた。彼の存在が、ボカロに生音を融合させるきっかけのひとつになりました」
今後は、「HATSUNE MIKU EXPO」のような、ステージ上でホログラムの初音ミクが歌って踊るイベントが世界レベルで定着することを願いつつ、「生身の人間とのユニットにもぜひとも挑戦してみたい」と語る。次はどんな化学反応を起こしてくれるのか楽しみだ。
(「日経エンタテインメント!」7月号の記事を再構成。敬称略、文・中桐基善 写真・藤本和史)
[日経MJ2016年7月15日付]
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