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ヤコブ・ファン・エイク、笛に吹き込む空気感

ソロの愉しみ(2)

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NIKKEI STYLE

羊を放牧する少年が、手遊びにといっていいだろうか、肩から提げた袋から小さな笛をとりだし、吹いている――。

ヨーロッパにはしばしばみられる画題だが、群れをなす羊たちがいるところならどこでもこんなことがあったろう。羊ではなく、牛だったり水牛だったり、べつの生きものでもいい。笛でなく、ただ声をだしていたかもしれない。はじめは草をちぎって吹いてみる。いろいろな音がでるようになる。すこし楽器らしくなってゆく。でも、素朴さは忘れられることはない。

楽器を手にすることは、歌うのとは違う。からだの外に、自分ではない、異なったべつのモノを、扱うのだから。音はからだから直接でるのではなく、楽器という媒体をとおして、間接的に発される。からだだって自らコントロールしなくてはならないが、楽器ならなおのこと。

何百年もの歴史

 《涙のパヴァーヌ》、17世紀オランダ、盲目の鐘つきにしてリコーダー吹き、ヤコブ・ファン・エイクによるもので、曲集《笛の楽園》に収められた。元歌は当時の流行歌。ひとわたりメロディが奏でた後、だんだんにメロディを装飾し、音のうごきが複雑になってゆく。道行く人たちに聴かせていたのを、誰かが楽譜におこしたとされる。ときには誰かがリズムをとったり、伴奏をつけたりすることもあったか。

小学校では縦笛と呼ばれていたリコーダー。まさか何百年も前から吹かれていた由緒あるものとは知らず、ランドセルの脇につきさし、しばしばちゃんばらの道具になっていたものだったが。

呼吸、音の動きに

 『無伴奏リコーダー600年の旅』と、リコーダーの奏者、本村睦幸が自らのアルバムにタイトルをつけているように、中世からルネッサンス、バロックを経、すこし時代を飛び越えて20世紀まで、この「笛」は、多くのアンサンブル曲とともに、ソロでの演奏を想定されてきた。先のエイクしかり、テレマンの《十二の幻想曲》しかりだ。

シンプルな楽器の例としてリコーダーを引いたが、この楽器にかぎらない。ひじょうに広い意味で「笛」に類する楽器は、どこか、牧童の手遊び、気散じの感触を残してはいないか。「笛」は、奏するものが息を吹きこみ、つまりは自らの呼吸が音のうごきになっているさまをたどってゆく楽器だ。

そう、江戸時代の虚無僧は、修行のために、尺八を吹奏していた。呼吸をととのえ、発する音がのびてゆくのを聴くことで心身を鍛錬する、というように。手遊びや気散じとはほとんど逆の展開もありうる。

こうしたふたつのありようを想像してみると、どうだろう。『陰陽師』にでてくる笛の名手・源博雅から牛若丸こと源義経、武満徹《エア》へ、ギリシャ神話のパーンからトルコのズルナへ、ドビュッシーの《シランクス》からエリック・ドルフィーがバス・クラリネットで吹く《ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド》へとつづく「笛」のソロが、音楽=作品というだけではなく、演奏者が身をおいている場や空気とともに、異なった相貌であらわれてこないか。

1本の笛ではなく、複数の笛を持ち替えたり、同時に吹いたりする人もいる。現代の作品ではいくらもあるし、ローランド・カークのような異形のサックス・プレイヤーを想いおこすこともできる。他方、笛の集まりとして、パイプオルガンを忘れてはなるまい。あるいはアコーディオンやバンドネオンもか。これらは自分の息ではなく、大気をふいごで集めて音を発する、楽器が人のかわりに呼吸すると言っていい。中世・ルネッサンス期のテーブル・サイズのポルタティフから、教会建築と一体化している大型のオルガンへ、オルガンの代用としてのバンドネオンから野外でダンスの伴奏をするアコーディオンへ。人のからだをとおす息と、機械仕掛けの空気とは、おなじ音・音楽をだすにも、おなじひとりで奏でるにもおよそ隔たっているようにみえるが、さて。

(音楽・文芸批評家 小沼純一)

[日本経済新聞夕刊2016年7月13日付]

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