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起業という夢を家事代行サービスで実現

日経DUAL

2016/8/1

日経DUAL

 日経DUALの読者アンケートで、利用したことがあるサービスとして上位に名前が挙がった「タスカジ」。従来よりも安く家事代行をお願いできるサービスとして、共働き家庭に広がりました。今回はこの「タスカジ」を立ち上げた和田幸子さんに誕生秘話など興味深いお話をたくさん伺ってきました(聞き手は藤村美里)。

■何とかしたいという気持ちがきっかけに

―― 会社員ママとしてフルタイムで働いていると、毎日があっという間に過ぎていくと思うのですが、そんな中、新しいビジネスを起こすのはさらにパワーが必要ですよね。その原動力は何だったのでしょうか。

 そもそも、子どもが生まれるずっと前から、起業することに興味があって。何もないところから生み出す、ゼロイチでの起業が好きだと自分で分かっていたので、いつかは起業したいと思っていました。

 実は、若いころにも同級生と起業したことがありました。そのときは大成功も大失敗もしなかったのですが、あることを学んだんです。それは、「起業するには自分にとってのテーマが必要」だということ。そのマーケットが伸びるかどうかよりも、自分自身の課題にひも付いたものであること、この課題は自分じゃないと変えられないと思えるかどうか、ということがとても重要だと感じました。だから、「これだったら私が時間をかけて解決したい問題だ」というものに出合ったときに起業しようと思っていましたね。

―― まさに「これだ」と感じたのが今のタスカジというビジネスだったのですね。タスカジという家事代行サービスのプラットフォームを作ろうと思ったきっかけは、ご自身の経験ですよね。

「タスカジ」を運営するブランニュウスタイル社長、和田幸子さん(写真:鈴木愛子)

 まさに、私自身がフルタイムで働くママで「家事の担い手がいない」という問題に直面していたことがきっかけです。私は本当に家事が苦手で。何とかしたいと思いつつ「家事代行サービスを利用したいけれど高額過ぎて難しい。だから、家がぐちゃぐちゃだ」と愚痴を言いながら、周囲の人達によく相談していたんです。

 あるとき、通っている英語教室の先生にも愚痴をこぼしていたら、「日本にはプロフェッショナルなフィリピン人のハウスキーパーさんがたくさんいて、彼らは個人でサービスを提供している。日本人はあまり使っていないみたいだけれど、日本在住の外国人には有名な話だから、その人達に仕事をお願いしてみたらいいんじゃない。直接契約だから、1時間1500円くらいでお願いできるよ」と、フィリピン人のハウスキーパーさんの存在を教えてもらいました。

 へぇ、そんな方法があったんだと思って、彼らとの出会い方を聞いて、早速お願いしてみたんです。そうしたら、“世界が一変するくらい”良かった。これは周囲のママ達にも紹介したいと思いました。けれど、実際にフィリピン人のハウスキーパーさんを自力で探して契約するのは意外と難しい。すべて英語で交渉しないといけないし、募集をかけた後にたくさんの人が応募してきてくれても、誰をどんな基準で選んだらよいのか分からない。同じように家事ができずに困っている友人がいても、気軽に紹介できないハードルの高さがあると感じました。

■誰もが気軽に使える家事代行サービスのシステムを作りたい

―― そこで、誰もが簡単に利用できるタスカジのような家事代行サービスのプラットフォームを作ろうという結論に至ったと。

 家事代行サービスを求めている人は、周囲にもたくさんいました。家事の担い手がいなくて、旦那さんと家事分担のことでケンカしていたり、キャリアを諦めていたり、子どもとの時間が取れずに悩んでいたり……。そういう友人達、今まで家事代行サービスを利用したことがない人であっても、気軽にフィリピン人のハウスキーパーさんに依頼できるようにしたい。そのためには方法を簡単にしてハードルを下げないといけない、と思いました。

 そのときに私がひらめいたのは、ハウスキーパーさん達の情報をウェブ上にデータベース化して、過去に雇ったことのある人のクチコミや推薦文を掲載すること。それがあれば、初めての人でもあまり心配せずに依頼するサービスを構築できるのではと思ったんです。あくまでも直接契約で、間に業者が入らない形で。

 類似のサービスがないか、ネットで調べてみたところ、AirbnbやUberなどがヒットして、いわゆるシェアリングエコノミーというビジネスモデルが台頭してきていることは分かりました。「ネット上で知り合った人と同じ場所で過ごすということが危険じゃない」という形で実現できるサービスが、今は普通にあるのだと。

 家事代行サービスのビジネスも、このやり方でいこうというのが一瞬で決まったので、1週間後くらいには上司に話をして「会社を辞めたいと思っている」と話しました。

―― そんなにすぐ。本当にそのひらめきで、退社して起業することを決めたのですね。

 新卒で入社した大手メーカーに復帰して会社員を続けていたのですが、ちょうどキャリアの転換点だと感じていたというのもあります。大きな仕事が終わって、区切りの良いタイミングで、次は何をしようかなと思っている時期でした。それも理由の一つかもしれません。

藤村美里さん(写真:鈴木愛子)

 大学で経営学を学んでいたころから、いつか起業する場合はシステムの知識が必要となるだろうから、色々なことができる企業に入ろう、まずはエンジニアとして入社しよう、と考えていました。自分でものを作れるようになってから他の職種に行こうと思っていたのです。ただ、入ってみたら思った以上に自分はエンジニアに向いていなくて。プログラミングについては挫折しました。

 その後は、起業するためには自分でプログラミングできなくてもいいと考えて、自分で作った仕様書を元にプログラマーに思い通りのシステムを作ってもらうスキルを磨きました。新しい商品を作るときには必ず手を挙げてメンバーに入っていたので、その経験もタスカジというプラットフォームを作るときに役立っています。

 20代後半に休職して、慶應大学のビジネススクールでMBAを取得したこともよかったと感じています。まだまだ新米の経営者ですから、問題が起きたときにすぐには解決策が分からない。でも、「今起きている問題は組織の問題なのか、ビジネスモデルの問題なのか、マーケットの問題なのか、人の問題なのか、どこの問題なのか」は冷静に判断できる。それさえ分かれば、その道の専門家に解決策を聞きに行くことができます。

 もし何が問題なのかが全く見えなかったとしたら、もしかしたら問題を起こした人に対して文句を言ってしまうかもしれない。あのとき経営を体系的に学んでいてよかったと本当に思います。

■金融関係の夫は協力的。週2回の担当曜日には残業なしで帰宅

―― その慶應のビジネススクールで、ご主人と出会ったのですよね。夫婦での家事・育児の分担はどのような形を取っていますか。

 2人とも会社員だった時代、息子が保育園だったころから夫はとても協力的で、基本的には半分ずつで担当しています。今は息子も小学生になり、学童保育から歩いて帰宅するのが6時ごろ。その時間に、私と夫のどちらかは家にいるというルールになりました。

 毎週、日曜日の夜か月曜日の朝に、お互いの担当曜日を決めます。夜の会食などがある場合は事前に確認をして、グーグルカレンダーで枠を取っておきますが、それ以外は会議や打ち合わせなどの状況を見ながら相談します。

 金融関係で残業も多い職場なのですが、周囲が残業していても、夫が担当する週2~3日は定時に退社して帰ってきます。それ以外の日に残業して、バランスを取っているのだと思いますが、本当によくやってくれていると思います。

―― 息子さんが通っているのは、公立の学童保育だけですか。毎日6時に帰ってくるのでしょうか。

 いえ、週3回は民間学童に行っているので、その日は自宅まで送迎してもらいます。帰宅も夜7時過ぎと遅いです。習い事に連れていってくれたり、先生達が考える体験型のイベントがたくさんある民間学童を選びました。

 週5回毎日行くと月5万円くらいですが、それでも他の民間学童よりはリーズナブルです。男の子ということもあってとにかく豊富なアクティビティーも魅力でした。公立の学童保育にも週2日は通っています。どちらも土日にイベントがありますが、強制ではなく参加したいときだけ行けばよい形なので助かっています。

■事前に夫と相談したのは家計やリスクの話

―― 会社員を辞めて起業するママは増えていると思うのですが、収入や働く時間はサラリーマン時代とは大きく変わったのでしょうか。

タスカジのテストセンターにもなっている自宅にて。きれいに片付き、とても居心地がいい(写真:鈴木愛子)

 2013年の10月末に退社して、12月に会社を立ち上げました。起業資金は25歳のころからためていた自分の貯金でした。

 わが家は3つの銀行口座を使い分けています。それぞれ独身時代の貯金はキープしつつ、共有口座に生活費を出し合うというシステムにしていて、その共有口座で貯金をしていくために、家計簿も付けていました。

 起業資金は私の貯金ですが、起業してから会社が安定するまでは、利益が出ても投資に回すのでしばらくは無給になります。そのことは、事前に夫とも話し合いました。リスクを取った分、10年後には通常入れていた分以上のリターンを家計口座に入れるように、と言われていますね(笑)。

 起業後、間もないこともあり、忙しくはありますが、やはり会社員時代よりも時間が調整できるのは助かりますね。今年度は、息子の学校でPTA本部役員もやることになりました。うまくバランスを取っていきたいです。

■自分も働くママだからこそ、利用者の立場で改善していける

―― 和田さん自身もよくタスカジさんを利用していて、その様子をFacebookにアップしたりしていますよね。起業して3年ほどですが、起業して本当に良かったと思うのはどんなときですか。

 自分の課題から出てきているサービスなので、日常生活もすべて仕事にひも付いているんです。会社員時代はプライベートと仕事を分けて考えていたのですが、今はプライベートでやっていることも仕事でやっていることも、どちらも相乗効果があるような気がして。それが、起業して本当に良かったと思う点ですね。

 わが家をテストセンターとしても使っているので、私自身がユーザーの立場になって、その日に汚れているところとか、お願いしたいことをストレートに依頼して、お掃除してもらうことでハウスキーパーの仕事ができるかどうかのスクリーニングをしています。目が回るほど忙しくても、とても充実していて良い時間の使い方をしていると感じることが多いです。

―― サービスインしてすぐにメディアでも名前が挙がるようになっていますし、ここまで順風満帆で来ているように感じるのですが、いかがですか。

 売り上げはまだまだ大きくありませんが、世の中の課題とマッチしているという実感はあります。昔からある家事代行業者と競合しているわけではなくて、より低価格で家事代行サービスを頼みたいという人達を開拓している、家事代行サービスの裾野を広げているところだと思っています。

 タスカジはあくまでもプラットフォームで派遣ビジネスではないので、他の家事代行サービス会社とは違って何かトラブルが起きたときにも自己責任になります。あくまでも、家事代行サービスを提供している人を検索し、彼らに対するユーザーからの評価が分かるサイトなのです。価格はレビューや経験値に基づき3段階に分かれていて、ユーザーが好みのランクを選べるようになっています。

 現在、登録しているスタッフの7割が外国人で、そのほとんどがフィリピン人。残りの3割が日本人なのですが、今後は、日本の専業主婦の方々にもっと登録してほしいと思っています。好きな時間に好きなだけ働けますし、時給もよい。今まで主婦として当たり前にやってきた家事のスキルが評価され、喜んでもらえる。とても良い仕事だと思うのです。

 主婦の方と話していると、皆さん「主婦の仕事は誰でもできることだ」と思っている方が多いように感じます。小さなことに気がつくことや、家事の経験を重ねてきていること自体がとても貴重なスキルだということに気づいていません。栄養士さんで仕事を辞めてしまっている人や、整理収納アドバイザーの資格を取った人や、そういうスキルも貴重です。

 タスカジを使って、家事代行をする人、してもらう人……いずれも、日本のママ達の働き方を変えるプラットフォームにしていきたいと思っています。

(写真:鈴木愛子)
藤村美里
 TVディレクター。都立国分寺高校、早稲田大学卒業後、民放テレビ局入社。報道情報番組やドキュメンタリー番組でディレクターを務める。2008年に女児出産後、視点が180度変わり、児童虐待・保育問題・周産期医療・不妊医療などを母親の視点で取材。夫の転勤に伴い、2013年退社。海外と東京を往復しながらフリーで仕事を続ける。2008年から、働くママの異業種交流会「Workingmama party」 を主催。今年、働くママ&20代30代女子が集まる異業種交流会「Women’s Lounge」 も立ち上げた。
Workingmama party https://www.facebook.com/WorkingmamaParty
Women's Lounge http://www.ws-lounge.com/

[日経DUAL 2016年6月10日付記事を再構成]

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