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米国社債に注目 ブレグジット後の投資の方向性 SMBC信託銀行 シニアマーケットアナリスト 山口真弘

2016/7/7

「リスク管理の観点から現在は株式より債券投資が良さそう。米国の国債か社債が狙い目」

 6月23日に英国で実施された欧州連合(EU)離脱(=ブレグジット)の是非を問う国民投票では、離脱派が勝利を収めました。結果が出るまで目を離せないと言いながらも、私は残留派の勝利を想定していたため、開票結果が明らかになるにつれて「離脱したら英国はどうなるんだろう」という言い知れぬ不安が強まりました。

 市場参加者の大半も同様の心理状態であったようで、24日の金融市場は売りが売りを呼ぶ展開となりました。リスクオフの動きは週明けの27日まで続きましたが、その後は徐々に落ち着きを取り戻しています。英中銀のイングランド銀行(BOE)をはじめとする各国中央銀行は金融システムが円滑に機能するよう、必要であれば資金供給を行うと明言しており、これにより金融危機には陥らないとの安心感につながっています。

 一方で、中長期的には英国の国家としての行く末がどうなるのかわからない不安感がくすぶりそうです。EU離脱に向けた手続きは英国が欧州委員会に離脱を通告することで始まり、通告から2年で離脱となります(EU加盟国の全会一致で延長することも可能)。

 9月までに保守党の新党首が選出される予定ですが、候補者が絞り込まれる過程で、EU離脱に関してどのようなスタンスで臨むかが徐々に明らかになるでしょう。また、離脱までの間はこれまで通りEU法が適用され、英国と他国との関係性は変わらないことから、英経済に及ぶ打撃は短期的にはさほど大きくないと思われます。

 ただ、中長期的には貿易や製造業の工場、金融機関の拠点が移転することなどを通じて、景気下押し効果が徐々に大きくなると思われます。こうした悪影響は欧州他国に波及する見込みですが、米国や日本などその他の国にはさほど及ばないと考えています。

 一部では再度の国民投票が行われるとの見方もあるようですが、結果が出た多数の民意を差し置いて、少数の民意を重視するのは違和感があります。また、EU側は他の加盟国をけん制する必要があるため、早期の離脱交渉の開始を要求しています。長い時間がかかるかもしれませんが、英国は最終的にはEUを離脱せざるを得ないと思います。

■国際的なリスク要因はまだまだある

 こうした現状認識とこの先の見通しを踏まえ、どのように投資対象となる資産クラス(株式、債券など)を見ていけばよいでしょうか。

 市場では9月9日までに選出される英国保守党新党首がどのような方針で離脱交渉を進めるかが見通せるまでは、投資家はポジションを一方向に傾けることは難しいと思われ、目先のマーケットは小康状態となるでしょう。ただその先は、ブレグジットが実体経済に及ぼす悪影響が意識されるほか、英国の国民投票を受けて世界的に反体制的な動きが強まる恐れがあることから、リスクオフの動きとなりやすい地合いが続きそうです。

 年内は9月のドイツ(ベルリン地方選)や11月の米国(大統領選)など、来年にはオランダ(総選挙)、フランス(大統領選)、ドイツ(地方選・議会選)などが予定されており、市場が不安定化するきっかけはそこかしこに転がっています。

 こうした中で資産運用を考える場合、特定の資産クラス(株式・債券など)に集中して投資するのではなく、いくつかの資産クラスを組み合わせる分散投資によって資産全体のリスクをコントロールするという観点がとても大切です。現在は「大きく増やそう」というよりもポートフォリオのリスク管理を重視すべき局面にあると判断し、ハイリスクとされる株式の比重を落とし、ローリスクとされる債券の比重を高めるべきだと考えています。

■ブレグジットが米国に与える影響は大きくない

 株式に関しては全般的にこのまま下落相場に移行する可能性は低いものの、世界的に景気の先行きが見通しにくくなっていることから、株価の上昇余地はさほど大きくないとみています。米国の景気の底堅さや利上げ観測の後退が支援材料になるほか、ドル高基調が転換する兆しがみられることも好材料となりそうで、米国株は底堅く推移する見込みです。

 一方で、日米の金利差拡大観測が高まりにくいことから、円安・ドル高に向かう力はさほど強まらないでしょう。円高による日本企業の業績下振れ不安が払拭されない限り、日本株には下押し圧力がかかりやすい地合いが続く見込みです。また、ブレグジットの影響は欧州市場により色濃く出るとみており、欧州の株式やユーロ、ポンドには積極的な投資を避けた方がよさそうです。

 リスク管理の観点からは債券投資の重要性が高まると思われますが、日本やユーロ圏で積極的な金融緩和が行われているため、国債の多くがマイナスの利回りとなっています。従って、これらへの投資から得られる収益はさほど大きくないでしょう。

 そこで、社債に注目したいところです。この先の景気減速懸念を見越して、欧州の社債への投資には慎重なスタンスを保つべきでしょう。一方で、ブレグジットが米国経済に及ぼす悪影響は限定的とみられるほか、米国の金融機関の財務は改善傾向を強めていることから、米国社債への投資には強気な見方を維持しています。現在の市場環境を踏まえると、まだ比較的高い利回りの残る米国の国債や社債を軸に、ポートフォリオを組み立てることが有効だと考えています。

山口 真弘(やまぐち・まさひろ) SMBC信託銀行 マーケット部門 投資調査部長 シニアマーケットアナリスト。邦銀で個人金融業務・法人金融業務を経験し、シティバンク銀行入行。資産運用相談業務に従事。その後はSMBC信託銀行のシニアマーケットアナリストとして、グローバル・マクロ経済や株式・債券・為替など幅広い金融市場の調査・分析および投資戦略の策定を行う。現在、日経CNBCなどで経済・金融情報を発信中。日本証券アナリスト協会検定会員、CFP認定者。

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