部長なのにしゃべりすぎて課長と見られます
俳優、片桐はいり
念願の部長になりましたが、よくしゃべりすぎるためか、いまだに課長と間違われます。やっぱり上司は無口な方がよいのでしょうか。(大阪府・50代・男性)
質問者さんは責任ある立場になっても、部下や同僚に気さくに話しかける親しみやすい存在。ご自身がそうありたいと思っているし、周囲とよい関係を築けているんでしょうね。
問題は課長と間違われること。要するに時折格下のように扱われたり見られたりすることに納得がいかないんですよね。
私もテレビの撮影現場などでは若いスタッフや後輩とよくおしゃべりする方です。好きな映画の話などで盛り上がって、ため口になることもあります。とはいえ、その口調で仕事の話をされるのは、やっぱり納得がいかない。「すんませーん、今これっきゃないんで」みたいな感じでいいかげんな小道具を渡されたりしたら暴れたくなります。
同年代の人たちと更年期のあれやこれやで意気投合するよりも、自分より若い人たちと「今おもしろいもの」について語り合いたい。でも先日、ある20代の後輩に「あんた、おもしろい演技すんねー」と背中をどつかれた時には、さすがに「これはまずい」と思いましたよ(笑)。
なので、最近は気安く話しかけてもよさそうな人とだめそうな人を、なるべく事前に嗅ぎ分けるようにしています。無駄口をたたき合ってもなれ合いにならずにすみそうか、オンとオフの切り替えがきちんとできそうか。もちろん勘が頼りなので、外れることもあります。そんな時は、やっぱり目上の人間はしゃべらない方がお得なのかなあ、と気弱になったりもします。
確かに、撮影の現場でも主役や上に立つ人は無口な方が仕事がスムーズに行く気がします。主役が何かを口にすればスタッフや関係者全員がその方向に動かざるを得ない。あまりにも指示が多いと現場が混乱することもある。反対に主役がしゃべらなければ、周りのスタッフは自然と気持ちを察して動き始めます。主役の気持ちに先んじて周りが動けば、現場はスムーズに進む。スタッフ自身の成長にもなる。会社、という組織のことはよくわかりませんが、「部長」も同じかもしれないですね。
私自身も同じく揺れる立場ですが、最近もう一つ感じていることがあります。たとえ自分の半分くらいの年の若者でも、本気で楽しい会話が交わせるなら、その人は決して私のことを軽くは見ない、ということです。目下の人の話題にすり寄って、たいして興味もないのに話を合わせようとするから、ため口をきかれたり背中をどつかれたりしちゃうんでしょうね(笑)。
だから私はこのごろ現場でも、興味のない世間話の時は限りなく無口で威圧感をふりまく中堅俳優。心の底から楽しい話の時はとんでもなくおしゃべりでつっこみやすい先輩、と自在に役を使い分けています。(談)
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[日経プラスワン2016年7月23日付]
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