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「純米大吟醸」なのに、そう名乗らない日本酒のなぜ?

イマドキの日本酒最前線

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NIKKEI STYLE

日本酒のトピックスを取り上げる連載「イマドキの日本酒最前線」、第2回のテーマは「特定名称酒」です。「特定名称酒」とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、「純米酒」や「吟醸酒」のことだと言えばわかるのではないでしょうか。お酒選びの時に頼りになる「特定名称」ですが、『白熱日本酒教室』(星海社新書)などの著書がある杉村啓氏によると、最近、吟醸酒や純米大吟醸と名乗れるのにもかかわらず名乗らない日本酒が出ているそうです。なぜでしょうか。日本酒を楽しむためにも知っておきたい、新しいトレンドを紹介します。

日本酒を注文する時や購入するとき、「純米酒」や「大吟醸」という表記を頼りにしている人は少なくないだろう。

お酒の名前ではなく、「純米酒」や「吟醸酒」といった表示がついているお酒を「特定名称酒」と呼ぶ。特定名称酒は、現在、日本酒全体の30%ほどで、残りは「普通酒」と呼ばれている。この特定名称は、簡単に言うと、通常の製法よりも手間暇かけて造られていることを表している。

手間暇かけて造っているからこそ、蔵元は大吟醸や純米大吟醸といった特定名称を前面に押し出すことになる。だが、最近、この「特定名称酒」をあえて使わない日本酒が登場し始めている。

「特定名称酒」は手間暇かけていることを意味するが……

最初に、もう少し詳しく特定名称酒について説明しよう。日本酒好きでも意外に知らないという人も多いからだ。

まず特定名称酒は大きく2つのグループに分けることができることを理解してほしい。基準は「醸造アルコール」を使っているか、いないか。日本酒は米と米こうじと水で造られるが、発酵の過程でいわゆる日本酒ではないアルコールを加えてもいい。それが醸造アルコールだ。醸造アルコールを使わないお酒は「純米」とつけることができる。これを前提として、特定名称酒について説明していこう。

「特定名称は、通常の製法よりも手間暇かけて造られていることを表している」と説明した。その手間の表れの一つが「精米歩合」だ。

「精米歩合」とは玄米からお米をどれだけ削ったかの割合を示す。普段我々が食べている白米は、だいたい精米歩合90%(玄米の90%の状態になるまで外側を削っている)と説明するとわかりやすいだろうか。ちなみに「お米を削る」というとあまりいいイメージがないため、「お米を磨く」と表現する場合が多い。磨いた時に出る米粉は煎餅などに再利用されている。

日本酒を造るお米は、コシヒカリなどの食米とは異なり、酒造好適米と呼ばれるものを使うことが多い。これを精米して酒造りに用いる。なぜ精米するかというと、外側ほどたんぱく質などが含まれているから。これらは雑味のもとになるので、外側を取り除いて中心部分(心白という)だけを使う方が、雑味の少ないきれいな味わいのお酒になる。

精米歩合を70%(玄米の70%の状態。30%分を削っている)以下にすると、従来のお酒よりもかなり手間暇かけて造っているということで、醸造アルコールを使っていれば「本醸造酒」、使っていなければ「純米酒」と呼ばれる(現在は少し異なるが後述する)。精米歩合60%以下にすると、これはもう特別な造りということで「特別本醸造酒」「特別純米酒」と呼ばれる。

ここにさらに「吟醸造り」という、従来よりも低温で長期間発酵させて造るやり方が登場する。精米歩合60%以下で吟醸造りにすると、これはもうかなりスペシャルということで「吟醸酒」「純米吟醸酒」と呼ばれるのだ。

精米歩合50%以下にして吟醸造りをすると、それよりも相当すごいお酒だということで「大吟醸酒」「純米大吟醸酒」になる。現在は醸造技術の発達により、精米歩合70%より上でも醸造アルコールを使っていなければ純米酒と名乗ってもよかったり、精米歩合60%以下ではなくても特別な製法をしていれば特別本醸造酒や特別純米酒と名乗ることが認められたりする場合もある。

ここで注意したいのは、これらは製法で分けられているのであり、いわゆる味でカテゴライズされているわけではないことだ。

純米酒には純米酒の良さや味わいがあるし、大吟醸酒には大吟醸酒の良さや味わいがあり、それらは別のものだ。値段は先ほどの表で下の方ほど高くなる傾向があるが、それは原材料費がかかり(後述)、醸造期間も長くなるからだ。

特定名称酒のほうが偉いわけではない?

最近、「特定名称酒」をそのまま当てはめてもいいものか悩ましい日本酒も増えてきている。

例えば最近大人気の『獺祭』。『獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分』は精米歩合23%だ。77%を磨いているわけだが、カテゴリー的には精米歩合50%以下の「純米大吟醸酒」になる。しかし、精米歩合が10%違うだけで名称が違っていたのに、20%以上も離れているのなら、別の名称がついた方がいいのではないかと思う人もいるだろう。

他にもさまざまな点で、法制度が現在のお酒の進化のスピードに追いついていないと思わせる点は多い。

そういった特定名称酒に疑問を持ち、実際に動いている酒造が増え始めている。日本酒『仙禽(せんきん)』を造るせんきん(栃木県さくら市)もその一つ。仙禽には『純米吟醸』や『純米大吟醸』という特定名称がついていないのだ。

特定名称を使わない理由について、同社の専務取締役であり11代目蔵元の薄井一樹さんに聞くと、このような答えが返ってきた。

「特定名称は、消費者の中で日本酒のランク付け、格付けにつながっていると思います。米を磨けば高価になり、『純米大吟醸』や『大吟醸』になる。磨いた方が偉くて高価である、といったように。たしかに、磨けば磨くほど、使用原料の総数は増えますから、コストはアップしますが、それが全てではありません」

使用原料の話が少しイメージしにくいかもしれない。精米歩合90%のお米でお酒を造るときと、精米歩合45%のお米でお酒を造るときのことを考えてみよう。ある量のお酒を造るために、100キログラムの精米後のお米が必要な場合、精米歩合45%では磨いて小さくなっている分、精米歩合90%の2倍のお米を用意しなければならない。これが、総量が増えているということだ。そうなると当然、原材料費が高くなる。

ただ、酒造りの費用はお米だけではない。例えば『仙禽 ナチュール』というお酒は精米歩合90%の米を使うが、酵母無添加の生酛(きもと)造りという非常に時間のかかる製法で造っているため「酒母を造る」という工程に60日近くかかる(「生酛」とは酒母を造る製法のひとつ)。

日本酒を造るとき、一般的には純粋培養された酵母を加えて造る。そのほうが失敗も少なく、確実に発酵させることができるからだ。それをあえてやらないと、難度は高くなる。空気中のどんな酵母が入って発酵するのかわからないからだ。だが、そうして手間暇かけてできあがった日本酒は、その蔵独自の個性を発揮したお酒になる。

しかし、日数がかかるということは、それだけコストが高くなるということ。原材料費では純米大吟醸の方が上でも、日数を含めたコストを考えると『仙禽 ナチュール』の方が上回ってしまう場合もでてくる。

精米歩合の数値が低いほど値段は高くなるため、純米大吟醸酒の方が高くていいお酒と思ってしまう人も多いだろう。きちんとした説明がないと(そしてある程度の知識がないと)、精米歩合90%の『仙禽 ナチュール』のほうが手間がかかっているとは思えない。

そこでせんきんでは、名乗る条件を満たしていても、特定名称を名乗らないことにした。

「当蔵は、酵母無添加の生酛造りを用いているものを除いて、すべての商品が精米歩合50%以下です。つまり、どの特定名称をうたおうが問題ありません。それでも名乗らないのは、価格に見合ったものか、使用米とブランドで消費者が判断すればいいと考えているからです。精米歩合をうたわないことが、フェアであると考えています」

特定名称を使わなければ、消費者が「大吟醸」「純米大吟醸」といった名称に惑わされることがない。先入観に惑わされず、自分の趣味趣向で好きなお酒を選ぶことができるということだろう。また、生産者側も「純米酒は純米大吟醸よりも安い」といったイメージに関係なく、純粋にかけた手間暇と原材料費を元にお酒の値段をつけられるということでもある。

こういった試みは秋田の新政酒造も行っている。全て生酛造りで、純米造りを行っているが、どんな精米歩合でも「純米酒」としかつけていない(ただし、貴醸酒という、日本酒で日本酒を造るお酒はもとから特定名称酒にあてはまっていないため、それだけは何も記載していない)。

特定名称よりも信頼性を求めているお酒も

あえて特定名称酒の条件から外れて「普通酒」として世に出ているお酒もある。その代表的存在が『三芳菊 WILD-SIDE 等外米 無濾過(ろか)生原酒』だ。

この日本酒は、精米歩合が65%や60%といった「純米酒」を名乗るスペックを持つ米を使っている。だが、その米が「等外米」なのだ。お米には等級が定められているのだが、等外米はその等級がつけられていないお米のこと。特定名称酒を名乗るためには、酒米は等級(特上、特等、1等、2等、3等がある)がついているものでなければならないのだ。『三芳菊 WILD-SIDE 等外米 無濾過生原酒』は等級がついていない規格外のお米を使っているため、普通酒という扱いになっている(ちなみに、獺祭も等外米を使った『等外』という普通酒を出して話題になった)。

三芳菊酒造(徳島県三好市)の馬宮亮一郎さんによると「実は、このお酒用の米を頼んでいる兵庫県の栽培農家は、農家の方針で、特等などのいいお米を取り除いたあとのものは、実際には等級がとれそうなものでも等外米にしている」。品質的に問題があり等級がとれないのではなく、少しだけ未成熟なお米が混じっている(上の方の等級を取るためには、粒の大きさがそろっていることが必須)程度だという。

そうだとしても、なぜあえて等外米を選ぶのだろう。

「重視しているのは信頼です。等級がついていなくても、信頼できる、いわゆる顔の見える農家さんと取引して、そのお米で日本酒を造った方がいいと考えています」

日本酒造りの場合、米は商社などから購入している場合が多い。「どこの米を使っているかはっきりとわかるほうが、特定名称に必要な等級よりも重要」というのが馬宮さんの考えだ(もちろん品質が伴っていることが最低条件だが)。

実際に味わってみると、パイナップルやライチを思わせるような甘くて濃厚な香りを持っていて、とてもおいしい。日本食だけではなく、クリーム系のパスタや、生ハム、ケチャップ系の料理にもよく合う。洋なしやぶどうといったフルーツや、ドライフルーツとの相性も抜群だ。

自分の求める米を地元農家と協力して栽培

先に取り上げたせんきんは、三芳菊酒造のやり方を一歩進め、「ドメーヌ化」という試みを行っている。ドメーヌとはもともとワイン業界の言葉で、自らブドウ畑を所有して(畑の賃借も含む)、栽培、醸造、瓶詰めを一貫して行う生産者のことを指す。

せんきんでは2011年から、自分たちが求める米を地元農家と協力して栽培している。同じ水脈上で育ったお米と水で造ることで、日本酒に「テロワール」が生まれるというわけだ。テロワールもワイン業界の言葉で、その土地や環境の事を指す。地元のものだけを使うことによって、地元ならではの風味が日本酒にも育まれ、他にはない、個性的なお酒になる。

さらにドメーヌ化には「地元のお米を安定して必要なだけ手に入れられる」「食米よりも単価の高い酒造好適米を地元農家に造ってもらうことで、農家のモチベーションを上げ、地域産業の活性化につながる」というメリットもある。日本酒の品質と、農業全体のことを考えた上での「ドメーヌ化」というわけだ。

「大吟醸」「純米大吟醸」ではなく自分の舌で選ぶ

特定名称は確かにわかりやすく、お酒選びの参考になる。特に日本酒を味わい始めたときには、とりあえずラベルに大きく書かれている「大吟醸酒」とか「純米大吟醸酒」を頼りにすることが多いだろう。だが、あくまでこれは製法によってのカテゴライズで、味わいの指針ではないということは頭に入れておきたい。

もともと特定名称という制度が定められたのは、特に手間暇をかけた品質のいい日本酒を増やすためだ。だからこそ、精米歩合70%以下ではなくても品質のいいお酒が生み出されるようになったことで、純米酒は精米歩合70%を超えていても名乗れるようになるなど、改善もされてきた。ただ、日本酒の多様化が進んできた今、時代に合わなくなってきている部分も出てきているのではないだろうか。

ただし、それなら新しい用語を増やせばいいかというと、それも難しい。ラベルに記載される内容が複雑になるからだ。

今は個性的な日本酒が次々と生み出されている。今回紹介したような特定名称に関係なく人気を博しているものもある。「大吟醸」「純米大吟醸」にとらわれすぎず、ぜひ知らないお酒でも積極的に自分の舌で味わってみてほしい。そうすることで、今まで気づかなかった好みのお酒と出会えるかもしれない。

(日本酒ライター 杉村啓)

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