変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

旧海軍のタンク底油の集油作業(徳山)

旧海軍のタンク底油の集油作業(徳山)

「馘首(かくしゅ)してはならぬ」――。終戦の日から1カ月たった9月15日、出光佐三は東京の本社に在京の店員(社員)を集め、こう訓示した。

解雇なし、定年なしは出光創業以来の経営方針だが、会社の主軸だった中国など海外の事業基盤は、敗戦とともに吹き飛んでいた。そこから800人もの従業員が引き揚げてくる。「この土壇場にどうやって食いつなぐのか」。幹部一同はいぶかり「大量解雇はやむを得ません」と反論。が、佐三は激怒した。

「君たち、店員を何と思っておるのか。店員と会社は一つだ。家計が苦しいからと家族を追い出すようなことができるか。事業は飛び借金は残ったが、会社を支えるのは人だ。これが唯一の資本であり今後の事業を作る。人を大切にせずして何をしようというのか」

人間尊重、大家族主義の経営者、佐三の真骨頂がここにある。労働組合も出勤簿もない、信頼と人の和によって進める経営。グローバル化、リストラの名のもと、安易に人員整理を進めがちな昨今とは対極にある。

国内での石油事業復帰が同業者の妨害で実現しない中、佐三は雇用確保のため懸命に新事業を開拓する。農業、漁業、印刷、しょうゆや食酢の製造。ラジオの修理、販売も展開した。

極めつきが旧海軍のタンク底に残る石油回収だ。戦後、放置してあったタンクは雨と泥をかぶり、ガス爆発の危険を伴う汚れ仕事。担い手のない作業だが、佐三は「だれかがやらねばならない仕事」と引き受ける。

全国8カ所での作業は1年数カ月を要したが、難作業の完遂は社員に自信を与え、自助の精神を植え付けた。以後、困難に直面した時「タンク底に帰れ」が出光社員の合言葉になる。

自主独立は佐三の持論でもある。「金や権力、組織の奴隷になるな。学歴や学問、主義の奴隷になるな。自立して国家と国民、人類の幸福のために尽くせ」

事業を通して人格の陶冶、修練を図ることを目指した求道者。その足跡が、今の産業界に与える示唆は大きい。

1999年7月11日付日本経済新聞朝刊掲載の「20世紀日本の経済人 奔流編(28)」を再掲した2014年2月10日の日経Bizアカデミーの記事を再構成したものです。

関連記事:反骨の精神 統制と闘う /  出光創業者「海賊とよばれた男」の履歴書を読む

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック