「静かな演劇」、貧困と向き合う 平田オリザさん
ロボット演劇、オペラ、青春小説、社会評論、コミュニケーション教育とマルチに活躍するが、本領は劇作家。原作によらない新作劇としては8年ぶりの「ニッポン・サポート・センター」(23日から、東京・吉祥寺シアター)で、温めてきた貧困問題という題材に挑む。
「貧困の話は、通りいっぺんに割り切れない話が多い。虐待にしろ就労支援にしろ、どこに問題があるかわからないから困る。右往左往する相談現場のおかしさを演劇的な笑いにしたいんです」
「東京ノート」や「ソウル市民」で、ゆがんだ大状況を生きる日本人を細密画のように描いてきた。さりげないセリフを織りあげる「静かな演劇」の原点に帰る新作は日本の衰退を直視する連作のひとつか。自らのまなざしを敬愛するチェーホフになぞらえるのは「没落する人間をいとおしく見つめた」先達だから。
そんな創作姿勢はオペラにも。ドイツの名門ハンブルク州立歌劇場で2カ月にわたり滞在制作(作・演出)した「海、静かな海」(細川俊夫作曲)は原発事故後の福島の日常を切り取った。沈黙や間を多用する、本人いわく「静かなオペラ」は今年1月初演。「動くな、止まれ」という演出の指示に歌手たちは戸惑ったが、ロボット演劇などをフランス人と上演してきた経験が生きたという。異色のオペラは世界ツアーを予定している。
新書がよく売れる。この話題に対しては「日本が幸福じゃないからかな」と返す。近刊「下り坂をそろそろと下る」では、経済成長の幻想を脱するよう説き、小豆島や兵庫県豊岡市の文化振興に光をあてた。演劇にも通じるその心はさしずめ「低成長を抱きしめて」というところか。(ひらた・おりざ=劇作家、演出家)
[日本経済新聞夕刊2016年6月20日付]
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