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私的年金、将来の支給額目減りに備え 公的年金を補完

2016/6/26

 筧ゼミでは「知って得する社会保険制度」の議論が続いています。本日のテーマは年金制度。少子高齢化と国の財政悪化を背景に見直しが相次いでいます。老後の生活設計に関心が強い屋久仁達夫さんが引き続き発表します。

筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 岡根知恵(おかね・ちえ、38=中)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。 屋久仁達夫(やくに・たつお、54)大手製造業の技術職。定年を控え年金・介護など老後資金に関心。

  厚生年金の加入基準が10月に変わるという話を前回聞きましたね。今回は詳しくお願いします。

 屋久仁 現在は会社員や公務員などのほかパート労働者でも勤務時間が週30時間以上といった基準を満たす人が対象ですが、これが「従業員501人以上の企業で働く場合は週20時間以上、年収106万円以上」などになります。厚生労働省は新たに約25万人が対象になるとみています。パート主婦を中心に大きな影響がありそうです。

 岡根 パート先でもその話題で持ちきりです。厚生年金に入ると保険料が発生すると聞きました。

 屋久仁 会社員や公務員の配偶者で主婦の人は現在、年収130万円未満なら自分で年金と健康保険などの社会保険料を払わなくてすみます。例えば週20時間勤務で年収120万円の人は対象外ですが、新基準では負担が発生します。みずほ総合研究所の堀江奈保子上席主任研究員の試算では厚生年金保険料と健康保険料が合計で年約16万円になる見通しです。

  でも将来受け取る年金は増えますよね?

 屋久仁 堀江さんの試算では同じ条件で厚生年金に20年加入すると、年金は年約12万円増えます。これでも負担の方が大きいわけですが、実際は昇給によって年金は増える可能性があるし、女性の約2人に1人は90歳程度まで生きます。毎年の年金増で負担分を取り戻すことが期待できます。長生きを前提にしなくても、年収をもっと増やせば手取りの増加が社会保険料の負担増を上回ります。社会保険労務士の井戸美枝さんは「年収160万円程度が大まかな目安になりそう」と話していました。

 岡根 妻が厚生年金に加入するのはなぜ大切なのでしょうか。

 屋久仁 公的年金が将来、実質的に目減りする可能性があるからです。年金の給付水準が現役世代の所得のどれくらいかを示す所得代替率は2014年度で62.7%ですが、厚労省の財政検証では40年代に50%程度に下がる見通しです。これは夫の厚生年金と夫婦の基礎年金を合計したケースですから、妻も厚生年金があれば老後の支えになるというわけです。

  でも所得代替率50%程度というのは、経済が高成長を続ける楽観シナリオが前提ですよ。低迷する場合は40%を下回る可能性もあります。

 屋久仁 そこで重要なのが私的年金の役割です。個人が掛け金を積み立てて運用し、老後資金をつくる個人型確定拠出年金(DC)の対象者が来年1月から拡大します。勤務先に企業年金がある会社員、専業主婦、公務員も入れるようになり、これは現役世代のほぼすべての人が対象です。現在の加入率は約0.6%と低いですが、法改正をきっかけに普及することが期待されています。

  どんなメリットがあるか調べていますか。

 屋久仁 大きいのは節税効果です。掛け金全額が所得税や住民税の対象から控除されます。例えば課税所得600万円の30歳会社員が月2万円を積み立てると、所得税は単純計算で年4万8000円少なくなります。運用益も非課税ですし、原則60歳から受け取るときも退職所得控除か公的年金等控除があります。

 岡根 自分で運用するということですが、何が注意点でしょうか。

 屋久仁 金融機関によってコストや金融商品の品ぞろえが違うので、よく確認する必要があります。管理手数料が安く、一般的に信託報酬の低い指数連動型で国内外の株式や債券に幅広く投資する投信を用意している金融機関が選択肢になりそうです。

  DCには個人型のほかに企業型もありますね。

 屋久仁 企業型DCは一般的に企業が掛け金を出して、運用は加入者がする制度です。将来の年金額は運用成果次第で変わります。導入社は約2万社で加入者は550万人弱と順調に増えています。ただし運用利回りが低いのが課題でしょう。格付投資情報センターの調べでは、加入者の通算利回りは16年3月末時点で「年率0%以上1%未満」が40.8%と最も多くを占めました。

 岡根 なぜですか。

 屋久仁 企業型DCは会社側がいくつか金融商品を用意し、加入者が選ぶ仕組みです。でも自分で商品を選ばない人が少なくありません。そうした人の掛け金を自動的に運用する「デフォルト商品」を元本確保型にしている企業が目立つことも低利回りの一因とみられます。専門家の多くはデフォルト商品をバランス型投信などにする必要があるとの見方をしています。

  最後に、公的年金は全体では目減りする見込みですが、厚生年金への加入や運用以外で加入者が上積みする方法があることを知っておきましょう。例えば受給開始年齢の繰り下げです。受け取り始める年齢を5年繰り下げると受給開始後の受取額は年42%増えます。自営業なら付加年金を利用する手もあります。国民年金の保険料を毎月400円多く払えば、払った月数に200円を掛けた金額が年金に上乗せされます。

■定年後働く人にも影響
 みずほ総合研究所上席主任研究員 堀江奈保子さん
 厚生年金・健康保険の適用拡大は、60歳で定年を迎えた後も働き続ける高齢者世帯にもプラスの影響を及ぼします。定年後も働き続ける人の多くは、勤務先だった会社に再雇用という形で勤めています。東京都など都市部では比較的時給が高いため、短時間労働であっても、週20時間以上、年収106万円以上などの条件をクリアする人が多く出そうです。
 妻が専業主婦なら、60歳になるまで引き続き国民年金の第3号被保険者、健康保険の被扶養者となり、妻の保険料負担がありません。夫婦とも勤務先の健康保険に加入できるのもメリットです。例えば1カ月の医療費が高額になった場合に通常負担する限度額をさらに軽減するなど独自の給付(付加給付)のある健保組合であれば、国民健康保険に加入するより世帯としてプラスが多いと見込まれます。(聞き手は川鍋直彦)

[日本経済新聞朝刊2016年6月18日付]

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