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水難から子どもを守る 慌てず「ういてまて」

2016/6/20 日本経済新聞 夕刊

背浮きの訓練をする小学生(東京海洋大学の田村准教授提供)

 各地で海開きの声を聞く季節になった。夏休みになれば多くの子どもが海や川へ水遊びに出かける。ただ水辺でのレジャーは、重大な水難事故につながりかねないだけに、注意すべき点も多い。事前の準備といざという時の対処法を専門家に聞いた。

 今月、富山県で貯水池で溺れた子どもを救けようとした老夫婦が亡くなった。警察庁によると、7、8月の2カ月で水難事故件数の4割を占める。

 「水辺に来る一人ひとりが自分の命を守れるようになってほしい」。NPO法人日本ライフセービング協会(東京・港)の佐藤洋二郎さんは話す。ライフセーバーの資格を認定する同協会は、水辺の事故を防ぐための講習会を開いている。昨年は小学校など42団体、約4千人が受講した。

 佐藤さんが強調するのが、ライフジャケットの着用の大事さだ。水難に遭ったときに着ていれば救命の見込みが高まる。スポーツ用品店などで1000円台から購入できる。「泳ぎに少しでも自信がない場合には必ず着てほしい」

 河川財団(東京・中央)の子どもの水辺サポートセンターで特命研究員を務める吉野英夫さんは「ライフジャケットや水に浮くロープなど、やはり事前の準備が重要」と話す。子どもだけで川に行かない、大人も含めて最低でも4人以上で行くべきだという。

 情報の把握も欠かせない。晴れた中流で遊んでいても、上流で雨が降り始めたら急な増水で流されてしまう。天気予報や国土交通省の「川の防災情報」を確認するとよい。同センターは、全国の河川で水難事故が多発する箇所をまとめたウェブサイト「全国の水難事故マップ」を公開している。事前に確認しておけば危険を回避しやすい。

 では、もし海や川で流されそうになったらどうすべきか。日本ライフセービング協会の佐藤さんは「溺れる以前に危険と感じたら助けを求める。ライフジャケットや十分に浮くものがあって、顔を水面から出して浮く余裕があれば、片手を振って助けを呼んでほしい」と助言する。

 特に海水浴場は、離岸流が原因の水難事故が多い。離岸流とは岸から沖合に向かう高速な潮の流れのこと。巻き込まれるとパニックで溺れたり、戻ろうと泳ぎ疲れたりして亡くなる場合もある。色が濁っている、浮遊物が沖に流されているなどの基準で場所を見分けられる。「横に流され始めたら離岸流の前兆。もし沖合に流されたら岸に向かってまっすぐ泳がず、真横や斜めに向かって早めに流れから抜けよう」

◇    ◇

 ではライフジャケットを着ておらず、着衣や水着で溺れたらどうすべきか。東京海洋大の田村祐司准教授はラッコのように背浮きの状態を保ち救助を待つ「ういてまて(浮いて待て)」を勧める。消防に通報してから到着まで平均約8分半かかるとされる。その時間を浮いて待てれば助かる見込みは高まる。東日本大震災で避難所に大津波が浸入したが、ういてまてを実践した小学生が救助された例もある。

 人の体は空気を吸い込んだ状態でも、海水では5%、真水では2%程度しか水面より上には出ない。「手を上げて助けを呼ぼうとすると溺れる。呼吸のためにあおむけになり、鼻と口を水面上に出して背浮きを保とう」

 あごとおなかを突き上げ、背筋を伸ばして体を反らして息いっぱいに吸うのが基本。靴底にクッション性のある靴を履いていれば、腕と足を広げて浮きやすい姿勢にする。履いていなければ重心を頭の方に近づけるため、腕を真っすぐ伸ばすと浮くという。

 では、周囲はどう対処すべきか。我が子を助けにいった親が、子どもに覆いかぶさられて死亡した事例もある。佐藤さんは「まずは落ち着いて助けを呼び、水に入らずに救助する方法を試す。直接の救助は専門家に任せてほしい」と話す。ロープや棒を差し伸べても届かなければ、つかまって浮けるものを投げる。身近なものでは2リットルのペットボトルやクーラーボックス、ランドセルやサッカーボールなども浮く。

 田村さんの所属する水難学会(新潟県長岡市)は、小学校などで「ういてまて」講習を実施し、普及に努めている。田村さんは「子どもが浮く技術を知っていれば、泳力の十分でない親が直接助けに行って起きる二次被害を防げる」と語る。(小柳優太)

〔日本経済新聞夕刊2016年6月20日付〕

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