母親より若く見てもらえません
俳優、片桐はいり
20代なのに20代と見てもらえないのは、確かに居心地の悪いものですよね。私も似た経験があるのでよくわかります。
私はそのころ、舞台では少年少女の役をしているのに、テレビドラマではなぜか来るのは母親と同じくらいのおばさんばかり。顔が大きいので態度まででかく見えたのでしょうか。20歳も年上の大女優さんたちを相手に嫁いびりしたり、旦那さんを争い取っ組み合ったり。当時の40代ぐらいの女優さんときたら、映画の黄金時代を支えた大先輩たちですからね。それはそれは居心地の悪い、おそろしい思いをたくさんしました(笑)。
でも、こうも考えられます。いろいろな年代の人間を演じられるということは、役の幅が広がるし、仕事の量も増えるわけです。で、ご提案ですが、質問者さんもちょっといたずらな気持ちでいろいろな年代を演じてみてはいかがでしょう。例えば、「会計は別ですか」と尋ねられたら、お母様の友人のように「私が払います」と答えてみる。娘だと示したいなら「お母さん、どうする」。ちょっと楽しくありませんか。黙って傷つくよりいたずらで返す。
それに居心地の悪さはいっときです。40代半ばのころ、ある俳優さんに「アナタ、今ちょうどいいでしょう」と言われたことがありました。京都の撮影所の大スター、それはたくさんの女性と○○な方です。その方は私が若いころに老け役ばかりしていたことをご存知でした。そして「これからどんどんちょうどよくなりますよ」と最高の殺し文句を残して去って行かれたのです。
なるほど! 人にはそれぞれ「ちょうどいい」時期がある。見た目と中身がぴったりくるとき、いや、たぶん本人が「今ちょうどいい」と感じたときなんでしょうね。当時の私は確かにそうでした。何よりも年齢について考える時、若いとか老けている以外に、「ちょうどいい」という言葉があることに衝撃を受けました。だってこの言葉、自分がそう思えば誰にもケチのつけようがないんですから。
質問者さんの「ちょうどいい」はいつでしょうね。楽しみですね! 若く見られるお母様にも聞いてみたらどうですか。「お母さん、湯加減いかが」みたいな感じで……。若いときにそう感じる人もいれば、じっくり生きてから気づく人もいる。質問者さんも、その時が来たら他人の言い分なんて気にならなくなりますよ。私は、ほんとそんな感じ。誰がなんと言おうと、ものすご~くちょうどいいですよ。(談)
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[日経プラスワン2016年6月25日付]
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