増える自転車通勤、意外に重要なのは「サングラス」
自転車通勤をする人が増えているが、自転車通勤をする時にはどんな服装をしたらいいのか。マナーや安全面を踏まえた"自転車通勤の身だしなみ"について、ブリヂストンサイクル直営店、RATIO&Cの伊丹大店長と、ブリヂストンサイクル広報担当の竹内理さんに話を聞いた。
自転車通勤するビジネスパーソンの裾野が拡大
約5~6年前、スポーツに特化したピストバイク(シングルギアでブレーキがない自転車)が流行し、「裏原宿」を中心としたストリートカルチャーの中で、速く走るためだけでなく、ファッションアイテムとして自転車をカスタマイズする動きが広がった。ピストバイクそのものはノーブレーキピストが問題となって以降下火になっていったが、自転車は自由にカスタマイズできるものだという認識が深まった。それが現在では、通勤用自転車としてのクロスバイクやロードバイク、シティバイクのカスタマイズにも広がっている。
昨秋オープンしたRATIO&C(レシオ・アンドシー)は、「BRIDGESTONE NEOCOT」というシティバイクだけを取り扱うブリヂストンサイクルの直営ショップだ。訪れる人の多くは、スペックの高いスポーツ自転車を求めるというよりも、自分のライフスタイルに合わせてカスタマイズ可能な自転車を求めているという。
レシオ・アンドシーの伊丹大店長は「自転車で通勤するビジネスパーソンの裾野が広がっているのを感じます。購入を希望する方の中には、これまでママチャリと呼ばれるような街乗り自転車に乗ってきた方もいれば、ロードバイクなどのスポーツ自転車に乗っていた方もおられます。どちらのタイプの方も、BRIDGESTONE NEOCOTがシティバイクとして、必要十分な機能は持っていると理解したうえで、自分の通勤のスタイルをどう見せたいかで、カスタマイズを希望されることが多いですね」と話す。
例えばハンドル。BRIDGESTONE NEOCOTは4種類から選べるようになっていて、ジャケットを着る機会が多い人には、前傾姿勢が楽になるプロムナードハンドルを勧めている。また、今までママチャリユーザーだった人には、真っすぐなハンドルの両端グリップ部が斜めに少し上がったようなライザーバーハンドルが、ママチャリ感覚の姿勢を保てるため人気だという。ハンドルを変えると、見た目や上半身の姿勢だけでなく、お尻への負担も変わるので、サドルも変更するという。具体的には前傾姿勢がメインならお尻への負担は減るので、サドルは小さくてもいいが、直立姿勢に近くなるライザーバーを選んだら少し大きめのサドルにする。
こうした通勤自転車のカスタマイズは、同店だけでなく、今後ますます広がっていきそうだと伊丹店長は話す。
自転車通勤のマナー、身だしなみで気を付けること
自転車通勤者が増えたことで、そのマナーにも注目が集まっている。例えば、広く推奨されている「自転車安全利用五則」では自転車は車道が原則、歩道は例外と2007年から明示されてきたが、2015年6月1日の道路交通法改正により、罰金や自転車運転者講習制度の対象にもなる危険行為の一つに挙げられるようになった。
■自転車は、車道が原則、歩道は例外
■車道は左側を通行
■歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行
ただし、歩道通行できるのは、
(1)道路標識等で通行することができるとされている場合
(2)自転車の運転者が高齢者や児童、幼児等の場合
(3)車道又は交通の状況からみてやむを得ないと認められる場合
ところがこれが裏目に出ているケースがあるようで、ブリヂストンサイクル広報担当の竹内修さんは、街中では「危ないな、と思う運転をしている人も見かけます」という。
例えば、幹線道路を自転車で走行している人の中には、車道と歩道を行ったり来たりする人がいるという。バスとバス、車と車の間を自由気ままに抜けていくと、思わぬ事故につながりかねないのだ。「ノーブレーキピスト以降、自転車自体に問題がある人はほとんど見かけなくなりました。ただ、ソフト面(マナー面)で課題はあると思っています」(竹内さん)
自転車専用道路が確保されていない、確保されていても路上駐車で利用できないことが多々あることも、こうした無理な運転につながってはいるのは事実だが、危険行為は命に関わる事故の元。安全運転を心がけつつ、あとは、適切な"身だしなみ"で安全を確保してほしいという。
まず、スポーツ自転車だと時速25~30kmは簡単に出るので、ヘルメットは着用したい。義務ではないが(13歳未満の子どもは努力義務)、「ヘルメットはクルマでいうところのシートベルトと同じと考えていただければ」(竹内さん)。ヘルメット選びで肝心なのはサイズで、「自分の頭に合ったものを選ぶことが大前提。ヘルメットによっては鉢が狭いものがあり、大きめサイズのものを選んで締め付けて使うということになりかねません」(竹内さん)。自分の頭の形に合ったフィット感のいいものを選ぶことが、安全面では重要なようだ。
他にも気になるというのがバッグ。「トートバッグを肩から下げて自転車に乗っている人も多く見かけますが、バランスを崩したりしやすく危険です」(竹内さん)。オシャレなヘッドホン、イヤホンなどを付けて走る人も多く見かける。ヘッドホン、イヤホンを付けての走行が禁止かどうかの対応は都道府県によって異なるが(東京都は禁止)、「聞こえていればOKだろうということで、片耳だけヘッドホンやイヤホンを付けて走行する人を見かけます。ただ片耳でも音楽などを聴いていると、後ろからの気配が感じられず、危険性が高まります」(伊丹さん)。
適切な身だしなみで、正しい場所を走り、きちんと止まる……などといったことは、道交法を守る以前に命にかかわる部分になるので、しっかり頭に入れておきたい。
ハンドルバーのタイプ、サドルのサイズなどで着るものも変わる?
ところで、服装そのものはどうしたらいいだろう?
ビジネスパーソンの場合、通勤に自転車を使うからといって、サイクルジャージというわけにはいかないのが普通だろう。いちいち着替えるのも大変だ。
最低限、注意しておかなければならないのは「ズボンのすそがひらひらしているのはとても危険です。スボンクリップや裾止めバンドをぜひ使いましょう。またトートバッグだけでなく、カバンは要注意。前傾姿勢でズルズルと斜めがけになってきてしまうような、リュックでもメッセンジャーバッグでもない普通のビジネスバッグも危ないんです。前輪に絡まりそうになったり、バランスを崩すこともあります。どうしても普通のビジネスバッグを使いたい場合は、フロントにバスケットを付けるとか、リアキャリアを使うなどの方法で、肩から掛けないようにしていただければ」(竹内さん)。一番いいのは、ビジネスでも使える自転車用バッグを利用することだ。出しているブランドは限られているものの、製品は徐々に増えている。
また靴はソールがゴムでないものだと濡れたときに滑って危険。ペダルをグッと踏み込んだときに横滑りしてしまう。「スポーツ自転車はペダル部分に凹凸がありますが、それが革靴の底を傷めてしまうので、自転車対応の靴を利用していただくか、ペダルをゴム製にするといいでしょう」(竹内さん)
自転車通勤を想定したタイプのスーツやジャケット、シャツ、パンツなども出てきている。
サングラスは"虫対策"にも、安全面で必須アイテム
忘れがちなのがアイウエアだ。サングラスの目的は夏の紫外線対策だけと思いがちだが、実は大事なのが虫対策。「これからの季節は特に、小さな虫が増えてきます。虫が目に入るととても危険です。また、小石が飛んできて当たるといったアクシデントにも対応できます」(竹内さん)。サングラスは強い日差しを防ぐのにも効果的なのでおすすめだ。帰宅が日没後になる人は、夕方以降も使える遮光率かどうかを確認するといいだろう。
その他「グローブは夏でもしておいたほうがいいですね。グリップ力が上がり安定性が上がりますし、転んだときのケガ軽減にもつながります」(竹内さん)。
なお、これからの季節は、雨も気になるところだ。「ロードバイクなどタイヤが細い自転車は雨の日は極力乗らないようにした方がいいでしょう。スリップしやすく危険です」(竹内さん)。どうしても乗らなければならないというときには、レインコート、レインポンチョなどで対策し、片手で傘をさすなどの危険行為をしないようにしたい。
最後に、自転車通勤をするうえで身だしなみからできる安全対策9カ条をまとめてもらった。
1. 頭を守るヘルメットは必ず着用
2. パンツは裾が巻き込まれないようにする
3. シャツは走行を妨げないものを選ぶ。裁断・縫製に動きやすくなるような工夫があるとラク
4. バッグはリュックになるタイプやメッセンジャータイプなど、身体に密着するタイプを選ぶ。もしくはバスケットやリアキャリアを自転車に装着
5. 靴は靴底がゴム製のタイプが良い。もしくはペダルをゴム製にして滑らないようにする
6. サングラスは必須。虫対策、陽射し対策に活用
7. 夏でもグローブを使用。グリップ力が上がり走りやすくなる。また転倒時のケガ軽減につながる
8. 雨の日はなるべく自転車に乗らない。自転車に乗るときはレインコート、レインポンチョなどを利用し、手をふさがないように
9. イヤホン、ヘッドホンは片耳でも気配が感じにくくなるのでやめておく
(ライター 山田真弓)
[日経トレンディネット 2016年5月24日付の記事を再構成]
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