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間近で見る“殺人球技”車いすラグビーの迫力 映画「マッドマックス」並みの激突

2016/6/13

車いすラグビー日本代表は格上の米国代表を破った(千葉市の千葉ポートアリーナ)

 2020年の東京五輪・パラリンピックを一足先に体感するには、障害者スポーツの魅力を知るのが近道だ。ハンディキャップに応じた優しい競技と考えがちだが、激しい体当たりが許されて、五輪とは異なる独特の迫力を持つ競技も出てきた。東京パラリンピック22競技のうち人気ナンバーワンとも目される車いす(ウィルチェアー)ラグビー。「マーダーボール(殺人球技)」とも呼ばれる激しい試合を観戦した。

 5月下旬、千葉市の千葉ポートアリーナで、国際大会「2016ジャパンパラウィルチェアーラグビー競技大会」が開かれた。参加したのは世界ベスト5のうち1位のカナダを除く日米英豪の4カ国。この日は世界ランキング3位の日本が同2位の米国と対戦した。

 ウオーミングアップ中から、車いすを巧みに操り、バスケットボールと同じ広さのコートの中をキビキビと動き回る。ラグビーでのトライはボールをインゴールの地面に付けて得点となるが、車いすではコーンの間のゴールラインを車いすで通過すれば「ゴール」となる。トライ後のキックによる加点などのルールはない。

 相手の動きを止めるために体当たりする「タックル」は迫力満点。人が人を組み止めるのではなく、車いす同士のぶつかり合いだからだ。「ゴン」という鈍い金属音が場内に響く。日常生活の中なら「衝突事故」と呼ばれるような激突が当たり前のように繰り返される。後方からタックルする米国側の反則で、日本の選手がバランスを失って転倒する場面もあった。

 会場の中は意外に冷房が強めに効いている。だが、それには理由があった。頚椎(けいつい)損傷によって首の神経に障害を持つ選手も多く、体温調節の機能が失われ汗をかくことができないため、室温上昇に気を使っているという。選手の身体能力の高さやスピード感あふれるゲーム展開に心を奪われていると、この競技が身体に障害を抱えた人たちによるスポーツだということを、つい忘れてしまう。

巧みな車いすさばきで米国代表を翻弄する日本のエース池崎大輔選手(38、左)

 8分1ピリオドの試合は日本が主導権を握ったまま最終第4ピリオドへ。この局面で米国側が猛攻撃を見せた。攻めているはずの日本がパスをカットされてボールを奪われ、一気にゴールを奪われる場面も。それでも日本は持ちこたえ、見事にランキング上位の米国を52―48で破った。「よしっ」。世界2位撃破の瞬間に思わず拳を握った。

 大会を主催した日本障がい者スポーツ協会(日障協)は車いすラグビーのようなパラスポーツのファンづくりに熱心で、この日も試合会場では、ルールを解説した小冊子を配布したほか、実況アナウンスも導入。いずれも観戦の初心者に競技の魅力を体感してもらい、リピーターになってもらう狙いからだ。

 前方へのパスもOKで、楕円球は使用せず、バレーボールサイズの専用球を使う。コート内にいる4人は障害の重い選手(ローポインター)と軽い選手(ハイポインター)で編成する必要がある。こうした基本ルールを押さえておけば、試合の楽しみ方もレベルアップするはずだ。

 会場内での実況アナウンスも初心者の強い味方だ。観客席の中央部にアナウンサーと解説者が陣取り、実況の解説で場内を盛り上げていた。「10秒に1度ドリブルするのがルールです」といった初歩的なルールの説明もあるため、予備知識ゼロでも十分に試合を楽しめる。

 実況を担当した柴崎啓志アナウンサーは「放送とは違い、会場にいるファンとの一体感を大切にしている。ここぞという場面では、声のトーンをハイテンションにして盛り上げる」と話す。

 日障協は今回の大会で会場にビデオカメラを設置し、試合の動画配信サービスも実施した。試合と試合の合間にコートを使って、観戦客が映画「マッドマックス」の車両のようにごつい競技用車いすに試乗できる体験会も開いた。頑丈な外観の割に、小回りがきく仕様になっている。解説者を務めた峰島靖氏が講師役に回る。現役選手として活躍する一方で、大会を支える側もサポート。「初めて試合を見る人に易しくルールや作戦を説明するように心掛け、楽しかったという人を増やしたい」とファンサービスに徹していた。

 ただ、4年先の東京パラリンピックに向けては課題もありそうだ。4日間の大会で観客総数は2120人で、昨年よりも約6%増えたものの、会場に空席も目立った。古参のファンに言わせれば「これでも2~3年に比べ、驚くほど増えた」そうだが、コートから伝わる熱気を考えれば、観客席は寂しい。

 日障協には26社のオフィシャルパートナー企業があり豊富な人材を抱える大企業も多い。その気になれば、各社が社員を動員して会場を満席にすることはできるかもしれない。だが、そんなことをしなくても、ファンを増やせる潜在力が車いすラグビーにはあると感じる。試合の駆け引きをする戦術などに詳しくなれば、観戦を一段と楽しめるから、固定客の層も厚くなっていくだろう。

 車いすラグビーが公式競技になったシドニー大会から16年が過ぎているが、人気の面では、まだ黎明(れいめい)期。遠慮はいらない。今なら観戦客の大半が初心者だ。4年後、満員の競技会場に足を運ぶ。「かつては客席がガラガラだった時代もあったけどね」と、したり顔で懐かしんでみる。そんな日を想像しながら、“殺人球技”の会場を後にした。

(山根昭)

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