マネー研究所

使わなきゃ損! 個人型DC iDeCo

個人型DC、知られざるメリットと残された課題 編集委員 田村正之

2016/6/9

 個人型確定拠出年金(DC)の改正法案が5月24日に成立した。現在の加入対象は企業年金のない会社員や自営業者など約4100万人だが、来年からは企業年金のある会社員や公務員、主婦など約2600万人が新たに対象となる。これまで利用が低調なことから「隠れた投資優遇税制」といわれた個人型DCが、大きく広がる契機になる可能性がある。法改正のメリットと今後の課題を見渡した。

■主婦にも知られざるメリット

 「主婦はあまりメリットがないのでは」。来年から加入の対象になる主婦についてはこんな見方も多い。個人型DCの最大の長所は掛け金の所得控除に伴う所得税や住民税の節税。主婦のなかでも所得がない人は掛け金拠出による節税効果は確かにない。

 しかしほとんど認識されていないのが、一時金で受給したときに退職所得控除が使えるというメリットだ。

 退職所得控除は年金などを一時金でもらう際に、拠出した期間につき20年までは年40万円、その後は年70万円のペースで非課税枠が大きくなっていく仕組み。30年間個人型DCを掛ければ、元本と運用益の合計で1500万円まで非課税で運用できる。この仕組みは個人型DCの加入者全体に共通だが、主婦にも当然適用されることはあまり認識されていない。

 もちろんパートなどで所得がある主婦は、受給時の非課税枠とは別に、拠出時にも税率や掛け金に応じた節税効果を享受できる。これらが知られていけば意外に主婦の利用も広がるかもしれない。

 公務員についてはもともと「公務員は所得が高いし税優遇にも敏感。営業をかければかなり広がるのでは」と意欲を示す金融機関も多い。

 企業年金がある会社員はどうか。確定給付年金(DB)しかない会社に勤めているなら、自分で自由に加入を選択できる。しかし企業型DCがある会社の場合は、会社が従来の企業型DCの年上限額を引き下げる規約変更をした場合だけ、個人型DCへの加入が可能。どれだけの企業が実行するかはやや不透明だ。

 とはいえ、公務員を中心とした新たな加入者が見込めるほか、法改正がメディアなどで報じられて個人型DCの有利さがよく知られていけば、現在でも加入可能なのにもかかわらずほとんど利用していない、企業年金のない会社員(会社員の約6割)や自営業者も加入を検討し始めるだろう。

 現在の個人型DCの加入者は26万人(3月末)と対象者のわずか0.6%にすぎないが、制度導入(2001年)後15年を経てようやく普及期に入る可能性がある。

■中小企業は事業主による上乗せも可能に

 来年1月からの加入対象者の拡大だけでなく、ほかにも時間を追って様々な改正が実行されていく。

 一つは18年からの掛け金の年単位化。これが実施されると、月々は余裕がなくてもボーナス時に多くの金額をかけられるようになり利便性が増す。

 「交付日(16年6月3日)から2年以内」とされているのが中小企業対策だ。従業員100人以下の場合、個人型DCに加入する従業員の拠出に追加して事業主がマッチング拠出できるようにする。拠出分は税制上有利な損金とすることができる。

エム・エー・ティーの松本賢治代表

 「そうなったらぜひ検討したい」と話すのは大阪市のコンピューターソフトウエア開発会社、エム・エー・ティーの松本賢治代表(46)。従業員は24人だ。

 「仕事に没頭してくれている社員が多くうれしい半面、老後資金などのこともきちんと考えてほしいと思っていた」。取引先のりそな銀行から個人型DCの制度を聞いたのが昨年秋。自分自身も10月から拠出を始めるととともに、従業員にもりそな銀行から制度を説明してもらった。今では約半数が個人型DCに加入した。

 「個人型DCはすごくいい制度。もっと早く知りたかった。できれば金額を上乗せしてあげたい」と考えている。今は従業員の多くの運用は預貯金中心。「いずれは投資信託なども使い、投資を知るきっかけにもしてほしい」

 松本代表は経営者仲間に会うと「いい制度ですよ」と紹介することにしている。その中の数人は実際に個人型DCを始めたという。

■年齢引き上げや金額拡大、残る課題

 今後、厚生労働省の企業年金部会などで実現の有無を含めて検討されるのが年齢引き上げや金額の拡大、中途引き出しの緩和などだ。現在は60歳以上は加入できない。しかし今や、60代前半の就業率は半数以上に達する。

 野村亜紀子・野村資本市場研究所主任研究員は「どんどん高齢化が進み、なるべく長く働いてもらわなければならない時代。せめて公的年金の受給開始時期である65歳までは加入できるようにすべきではないか」と話している。

 ちなみに個人型DCと類似した仕組みである米国の個人退職勘定(IRA)では70.5歳まで加入が可能だ。

 金額の拡大も重要だ。特に来年から新たに対象になる「DBと企業型DCがある会社」の従業員や公務員の掛け金は年14.4万円にすぎない。税負担の軽減効果は限定的なうえ手数料負担も割高になる。現在の加入可能者も含めて全体的な引き上げが望まれる。

 また現在は60歳までほぼ引き出せない仕組みであるのを若干緩和するかどうかも検討課題。米国のIRAは引き出しは原則59.5歳からだが、その前でも10%のペナルティーを払えば引き出せる。ただしあくまで老後の備えであるので、引き出せないままの方がよいという考え方もある。

 懸念は特別法人税の復活だ。個人型DCに限らず企業年金の積立金全般に対して本来課される税で、税率は1.17%。1999年度からは課税が停止されたままだ。

 企業年金全般にもかかわるだけに復活はないとの見方が大半だが、「喉に刺さった小骨」のように小さな懸念材料であり続けている。DC改正法可決の際の国会の付帯決議で「廃止について検討を行う」とされていて、早期の廃止決定が望まれる。

老後貧乏にならないためのお金の法則

著者 : 田村 正之
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)


マネー研究所新着記事