変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

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 リーダーとして成長する第一歩は、「自覚」すること――。日本GE(2016年4月から、三井住友ファイナンス&リース傘下)の安渕聖司社長最高経営責任者(CEO)は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)グループ入りしてからいくつかの「洗礼」を受けたという。研修や座学など、「機会の提供」だけでは成り立たない。与えられたチャンスをもとにみずから成長したいと人が動く、「気づき」を与えるしくみ作りとは何か。企業ができること、自分でできることを安渕氏が語る。

リーダーは簡単に育たない

研修をやってもうまくリーダー意識は育たない――。座学など、教科書のような一方的な教育は、社員からすれば「やらされ研修」と感じると思います。これではうまくいくはずがありません。リーダーはそんなに簡単に育つものではありません。自分に何ができて、何が足りないのか、一番大切なことは「自覚」を持つこと。自分の課題がわかれば、「もっと成長したい。この研修やプロジェクトに関わりたい」と自然に感じるからです。

私は、GEに入って、強烈な体験をしました。GEでは組織の長になって3カ月から6カ月たつと、「アシミレーション(assimilation=融和、同化)」という場を設定します。簡単にいうと、部下たちが上司抜きの場で新しい上司にしてほしいことを3時間ほど語り合う場です。

「安渕さんについて知っていること」「知りたいこと」「自分たちについて知ってほしいこと」「変えてほしいこと・変えてほしくないこと」など、4つから5つの項目について、第三者である人事部のファシリテーション(支援・促進)のもと徹底的に話し合います。マネージャーは、最初に顔を出したら、「よろしくお願いします」と席を外さなければなりません。

「用意ができました」と声をかけられ部屋に戻ると、ホワイトボードに、人事担当者の字で項目ごとに書き出されています。「コミュニケーションはメールがいいですか、電話がいいですか」「週末にメールしてもいいですか」「本当に好きなお酒はなんですか」など、普段なかなか聞けないことも書いてありました。

「会議で悪い話になると突然キレないで」

日本GE社長兼CEOの安渕聖司氏

日本GE社長兼CEOの安渕聖司氏

私が一番覚えているのは、「変えてほしいこと」に書かれた、「会議の最中に、悪い話になると突然キレるのはやめてほしい」というコメントでした。正直、自覚していなかったのです。また、「興味のない話になった瞬間、ほかのことを始めないでほしい」とも書かれていました。これも意識していませんでした。

ここに書かれたことは、人事評価にはつながりません。また、誰のコメントなのかわからないよう、匿名性を守るのもアシミレーションのルールです。部下が上司に改善点を指摘することは勇気がいります。しかし、アシミレーションをすれば、上司にあげづらい「変えて欲しいこと」を話しやすい環境ができます。上司は、「気づかなかったことをいってくれて、ありがとう」とまず感謝する度量が必要です。

社員にとっては、上司からの「評価」は「自覚」につながります。日本の評価システムでよくないのは、その評価やフィードバックを「すぐ言わない」こと。普段コミュニケーションを取っていないのに、半年や四半期に1度だけの「人事評価」のときだけ突然、評価者になられても、部下もピンとこないし、納得もできません。評価する目的は「育てる」ことなのです。

チームリーダーが部下に半年前のことを指して「あなたはここの部分ができていなかった」と言っても、部下はそもそも何のことかも分からず、しかも、「何でいまさら」と不満がたまります。気づいたらすぐに言う。その上で、どうすれば仕事がうまくいくかを考えなければ上司の仕事を果たしたことになりません。「A君の仕事ができないのは、自分の責任」と思わなければ、リーダーとはいえませんし、自分の仕事に責任感のない人とみなされてしまいます。

外部との接点は、仕事に振り返る

もう1つ、自覚するのに有益なことは、「外部との接点」です。私は、GEにきた10年前からボランティア活動に参加するようになり、今では外部にも活動は広がっています。GEグループには「GEボランティア」という組織があり、各グループのリーダーがスポンサーとして金銭的にも、人のサポートもします。経理担当の最高財務責任者(CFO)もいて、ボランティアのリーダーが組織を運営します。

ボランティアほどフラットな組織はありません。ある意味、究極の実力主義です。個人として何ができるか、スキルのあるかが重要で、会社の役職は関係ありません。普段の仕事ではあまり目立たない人が、ボランティアの活動では子供に非常に好かれたり、絵が上手でスキルが輝いたりする。先日、ホームレスの支援活動をするNPO法人ホームドアに参加し、町を夜回りしお弁当を配ったりしたのですが、やはり長年経験しているボランティアの人たちのようにはいきませんでした。「アシミレーション」と同じく、自分の不足する能力を自覚できた経験でした。

「将来役に立つ」ことがわかれば苦労しない

20歳代、30歳代で働く人たちにやってほしいこと。それは外とつながることです。

私は就職活動をしていた1978年、学生同士で「会社にいるだけのサラリーマンにはなりたくない」と生意気なことを話して、2カ月に1度、勉強会をしていました。当時は20世紀のど真ん中だったので、「21世紀会」という名前にしたのですが、今でも勉強会は続いています。みんな年を重ねましたが、第二、第三の人生を歩みだす人もいて今でも2カ月に1回、会合を開き、情報交換をしています。

ボランティアもそうですが、会社に引きこもらず、自分のやりたいことで勉強会を作ってみてください。違う業種や職種の人とのネットワークや、外で得た力は、仕事に戻ってきます。「仕事で毎日忙しい」と思うかもしれませんが、自分を外に置いて、「自覚」する仕組みをつってほしいと思います。異文化に触れ、外に旅行へ行くことも自分への投資の1つです。

違う言い方をすれば、どうやって好奇心を持ち続けるか。忙しくなりすぎると「役に立つか、役に立たないか」の基準で切り分けて、役に立つことだけ学ぶようになっていきます。しかし、本当に10年後に役立つものがわかるのでしょうか。わかれば苦労しないのです。「役に立たない」ではなく、歴史から今を学んだり、テクノロジーの動向をずっと見ていったりすることが、いずれ仕事につながってくる可能性が高い。

それを上手にできるのは、やはり20歳代です。20歳代のときに作った仲間のなかで自分の立ち居地を常に確かめること。会社に入ってしまうと、その会社のなかで優秀かそうでないかという基準でしか、自分のことがわからなくなってしまいます。自社とは違う、ほかの会社の価値を知れば、当たり前を疑うことができる。「自分を知るセルフアウェアネス(Self-awareness=自覚、自己認識)」の機会と環境づくりが自分を成長させ、リーダーシップを育てると思います。

安渕聖司氏(やすぶち・せいじ)
1979年、早大政経卒、三菱商事入社。90年、ハーバード大学ビジネススクールMBA(経営学修士)修了。99年、米投資ファンド、リップルウッドの日本法人立ち上げに参画。2001年、UBS証券会社入社。06年、GEコマーシャル・ファイナンス入社、アジア地域事業開発担当副社長。07年、GEコマーシャル・ファイナンス・ジャパン社長兼CEO。09年、GEキャピタル社長兼CEO。16年より現職。

(松本千恵)

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