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長期運用、コストで成績に差 信託報酬と税に注意

2016/6/11

 きょうの筧ゼミは「長期投資で資産作り」の4回目。運用商品を選ぶとき初心者が見落としがちなコストについて投資信託を中心に取り上げます。岡根知恵さんが引き続き発表します。主婦だけにコストの節約には敏感なようです。
筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 宗羽士郎(そうば・しろう、23=中)大学院1年生。中堅証券「宗羽証券」創業家の一人息子。IT好き。 岡根知恵(おかね・ちえ、38)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。

  岡根さんは普段の生活でも節約に熱心なの?

 岡根 はい、去年から夫のおこづかいを減らして貯蓄を増やしました。

 宗羽 結婚への夢がなくなりますね……。ところで投資信託にはどんなコストがあるんですか?

 岡根 買うときに一度だけかかる販売手数料と、持っている期間中、運用資産額の一定比率を毎日引かれる信託報酬などです。販売会社や運用会社に払います。長期保有では信託報酬の影響が大きくなります。

 宗羽 信託報酬はどれくらいですか?

 岡根 投信のタイプで異なります。プロが売買する銘柄やタイミングを選んで市場平均を上回る運用成績を目指すアクティブ型は高めです。調査に費用がかかることなどが理由です。日本株投信は年1.5%程度ですが、世界株なら年2%前後の例があります。一方、様々な株価指数に連動することを目指すインデックス型は年0.5%未満のものが増えています。

 宗羽 年に1~2%しか違わないなら、どちらを選んでもいいのでは?

 岡根 ところが長期では大きな差になります。先進国の株価指数に連動する投信が1969年末からあったとして、当時に100万円投資した場合を試算しました。仮にコストが年0%で今年4月末まで保有したとすると、資産額は1920万円に増えています。年0.5%なら1520万円、年2%なら760万円とコストが大きくなるほど資産は目減りします。

  この3つは運用成績が同じで、コストだけが異なるケースね。でもアクティブ型はプロが運用するので、コスト差を補うだけの成績を上げるという期待があるわね。

 岡根 QUICK資産運用研究所のデータを使って、実際にアクティブ型とインデックス型を比べてみました。マイナス金利の導入で人気が高まっている世界の不動産投資信託(REIT)に投資する投信を例にします。アクティブ型は日興アセットマネジメントの「ラサール・グローバルREITファンド(毎月分配型)」。資産残高が国内最大級で、信託報酬は年約1.6%です。基準価格の騰落率は課税前分配金再投資ベースでみると、今年3月までの5年間でプラス99%でした。

 宗羽 好成績ですね。

 岡根 でも同じ世界リートが対象のインデックス型投信で、三井住友トラスト・アセットマネジメントの「SMTグローバルREITインデックス・オープン」は騰落率がプラス109%でした。信託報酬は年約0.6%です。

 宗羽 コスト差の挽回は難しいということですね。

 岡根 この傾向は多くの資産で共通です。純資産が3月末で30億円以上で、10年以上の運用実績がある日本株投信(中小型株や特定業種への特化型は除く)をQUICK資産運用研究所のデータで分析しました。インデックス型の過去10年の騰落率は平均0%で、アクティブ型でこれを上回るのは全体の34%にすぎません。JPモルガン・アセット・マネジメントの「JPMザ・ジャパン」は94%上昇した一方、同じ期間で63%下落したファンドもあります。アクティブ型は成績の差が激しいようです。

 宗羽 成績の良かった投信を選べばいいのでは?

  必ずしもそうとは言えません。例えば長期間運用している投信が多い米国では、過去10年間好成績だった投信が次の10年では振るわないという例が多くあります。好成績の投信を事前に見抜くのは簡単ではありません。

 宗羽 でもアクティブ型も捨てがたいです。

 岡根 そうした人には年金基金など多くの機関投資家が採用している「コア(中核)・サテライト(衛星)戦略」が参考になるかもしれません。運用資産の中心は低コストのインデックス型投信を使って世界に幅広く投資し、なるべく堅実に増やしていく。一方、期待できそうなアクティブ投信があれば資産の一部で投資し、成績全体の引き上げを狙うという考え方です。

 宗羽 なるほど。

  最後にもう一つ私から。長期運用では税金というコストをどう減らすかも大切です。運用益が非課税になる少額投資非課税制度(NISA)や掛け金が所得控除になる個人型確定拠出年金(DC)という税制優遇の仕組みが日本でも整ってきました。NISAの非課税枠は今年から年120万円に増え、個人型DCは先の通常国会で、主婦や公務員なども来年から原則加入できるようになる改正法が成立しました。

 岡根 非課税の恩恵はどれくらい期待できますか?

  例えば年間所得500万円で税率30%の会社員が個人型DCを利用するとします。掛け金として上限の年27万6000円を拠出すると、節税額は年8万2800円。運用期間が20年なら合計で約166万円も節税でき、それだけ資産を大きく増やせることになります。自分の資産配分を決めるときはまず税優遇の枠を優先し、資金に余裕があれば通常の課税口座という順番にするといいですね。

■投信、低コスト化加速
 インデックス投資アドバイザー カン・チュンドさん
 指数に連動する低コスト投信は非上場のインデックス型投信と上場投資信託(ETF)に分かれます。信託報酬は一般的にインデックス投信が年0.5%程度、ETFは年0.1~0.2%程度が多いですが、インデックス投信でETF並みの商品が増えています。例えばDIAMアセットマネジメントの「たわらノーロード」シリーズ、ニッセイアセットマネジメントの「購入・換金手数料なし」シリーズの海外株などは年0.2%台です。ETFは自動積み立てが原則できません。少しのコスト差なら、長期投資でインデックス投信を選ぶ判断もあります。
 最近はアクティブ型でも低コストの投信が出てきました。大和住銀投信投資顧問の「ひとくふう日本株式ファンド」は年0.2%台です。資産配分を考えるときの選択肢が広がっているといえます。(聞き手は編集委員 田村正之)

[日本経済新聞朝刊2016年6月4日付]

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