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ソニーストア、顧客をファンに変える拠点に

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日経トレンディネット

ソニーは2016年4月1日、福岡・天神に直営店「ソニーストア福岡天神」をオープンした。2004年に大阪・梅田に出店したのを皮切りに、2009年に東京・銀座、2010年に名古屋・栄と出店を進め、この福岡・天神が4店舗目。札幌への出店も検討しており、現在物件を探しているところだという。

ソニーにとって、ソニーストアは、ソニー製品の情報を発信したり、購入後の満足度を高めるための拠点だ。ソニーの取材をする中で、製品開発の担当者からも「消費者が製品に触れる機会は大切。使い勝手や満足度を左右する機能は実物を見てもらわないと伝わりにくい」という声が複数聞かれた。その最前線となるのが、ソニーストアなのだろう。

ソニーマーケティングの河野弘社長は、「ソニーファンを増やすことが我々の仕事。そのためには、製品の本質価値に加えて、顧客体験価値の最大化を図る必要がある」と語る。ソニーマーケティングは、テレビ、オーディオ、カメラ、ビデオなどソニーのコンシューマAV製品の販売、マーケティングを行う企業。2016年4月からは、日本における販売、マーケティング機能に加えて、全世界の販売、マーケティングに関する本部機能を統合。販売オペレーションを一本化した。

"ブランド失墜"から復活の兆し

ソニーは、数年前まで、かつてのブランド力を失いかけていた。それは、ソニーが闇雲にシェアを追った時期とも重なった。ソニーらしい製品が消え、価格競争に巻き込まれ、その結果、ソニー製品がたたき売られた。

海外では、アップルの「iPod」の登場以降、全世界で高いシェアを誇っていた「ウォークマン」が低迷。液晶テレビでは、サムスンやLG電子などの韓国勢との価格競争に明け暮れた末に敗れた。さらに、リーマンショックの影響がのしかかり、海外の販売会社は、慢性的な赤字体質となっていた。

国内市場でも同様だ。2011年7月の地デジへの完全移行に伴い発生したデジタルテレビの特需においては、機能よりも価格が優先された。付加価値を前面に打ち出す、ソニーらしい戦い方はできなかった。ソニーによると、2010年度には4兆3000億円にも達した国内コンシューマAV/IT市場は、2012年度以降は約2兆円と、半分の規模に縮小した。そのなかで、付加価値を訴えきれないソニーは、自らのポジションを確立できないままでいた。

だが、ここにきてソニーは、その存在感を着実に回復しつつある。例えば、欧州。ソニーによると、ソニーマーケティングの玉川勝会長が率いたソニーヨーロッパは、3年間で、液晶テレビのシェアを4%から12%に、コンパクトデジカメは14%から24%に、デジタル一眼カメラでは24%から33%に拡大させた。

日本においても同様だ。4Kテレビで市場をリードする一方、40型以上の液晶テレビでは市場シェアが24.5%で2位、ミラーレス一眼カメラでは24.8%のシェアで2位と、いずれも4人に1人がソニー製品を選択。そして、携帯オーディオでは53.0%のシェアを獲得して首位を獲得している(いずも、2015年1~12月、BCN調べ)。

国内外ともに、成功の要因となっているのは、販売施策の軸を高付加価値製品へとシフトさせたことだ。河野社長は、「テレビ市場を例にあげれば、技術が進化しても単価下落が激しく、結果として業界全体が成長しないということを繰り返してきた。数で業界全体を伸ばすシナリオは描きにくい。いまこそ大切なのは、使って楽しくなるような顧客体験価値を提供すること。ソニーならではの新たな価値の提案が必要だ」と語り、国内においては、ソニーならではの提案ができる「4K」「α」「ハイレゾ」の3つの製品に絞り込んだ徹底訴求を展開してきた。

ソニーの液晶テレビ「ブラビア」は、Android(アンドロイド)搭載モデルへとシフト。HuluやNetflixなどを通じた新たなテレビ視聴を提案している。クックパッドとの連携では、フルHD画質のレシピ動画を見られるAndroidTV対応レシピアプリを提供し、テレビならではのアプリの活用方法を提案した。現在、4Kブラビアのネット接続率は約70%に達しており、「新たな顧客体験価値を提供することで、テレビを再定義している」という。技術面からの訴求にとどまらない、新たなテレビの視聴提案が鍵だ。

また、デジタルカメラ「α」では、ソニーが持つイメージセンサーの強みを生かし、高感度、高解像度、そして読み出し速度の速さを活かし、暗所での鮮明な撮影や、決定的瞬間を捉えた映像など、これまでのカメラでは撮影できなかったような画像を楽しむことができることを訴えた。

さらに、ハイレゾオーディオでは、ウォークマンを軸に、スマホで音楽を聴いたことがない若年層や、音楽を長年楽しむ余裕がなかった中高年層に対して、ハイレゾならではの高音質を訴求してみせた。

このように、ソニー製品だからこそ訴求できる付加価値にフォーカスした明確なメッセージが、ソニーのシェア回復につながってきたといえる。

売って終わりではブランドは築けない

製品が持つ本質価値の訴求に加え、ソニーマーケティングが重視しているのが、前述のソニーストアなどを核とした「カスタマーマーケティング」だ。

河野社長は、「これまでは売ってしまったら終わりという意識がどこかにあった。だが、お客様の目線で活動を考えた場合、購入時だけが重要ではない。購入前には、商品に関する様々な情報を得たり、製品に触れたりできる場を求めている。また、購入後にも、買ってよかった、使ってよかったと思っていただけなくては、顧客価値が最大化できない。購入前、購入時、購入後のすべてにわたって、満足度を高めるための活動が必要になる」とする。これが、ソニーマーケティングが取り組む「カスタマーマーケティング」の基本的な言える 考え方だ。

具体的には、会員サービス「MySony」を通じて新製品情報を提供したり、ソニーストアで発売前製品の先行展示をしたりしている。MySonyの登録ユーザーに対しては、メールや電話を通じて3カ月以内に3回コンタクトを取り、「こうした機能があるのを知っていますか」「いま、こんな楽しみ方が人気です」といった情報を提供して、購入した製品の使いこなしや製品の楽しさの発見につなげている。ソニーストアでは、随時セミナーを開催。αなら、「子どもをかわいく撮影する方法」「桜をきれいに撮る方法」といったテーマで、スマートフォンでは実現できない、デジタル一眼ならではの撮影方法を伝授している。

これらはいずれも購入後の満足度を高めてもらうための施策だ。「新規のお客様も大切だが、既存のお客様を大切にする姿勢がなかったら、新規のお客様が増えても、購入後の満足度が上がらず、また離れていく。パイは決して広がらない」(河野社長)。既存顧客の満足度を高めることで、ソニーファンを増やし、追加購入や買い替え時にもソニー製品を選んでもらうというサイクルを作ることが、ソニーの存在感を高めることにつながると考えている。

実際、ソニーストアで「α」のセミナーを受講した人が、交換レンズやアクセサリーを追加購入したり、サブカメラとしてコンパクトデジカメの「RX」シリーズを購入するといった例は多い。また、ソニーストアを出店すると、そのエリアにおけるソニー製品のシェアが伸びるという結果も出ている。地域にある他店のソニー製品の売り上げも伸びるということだ。地域の販売店との共同販促キャンペーンを実施したり、ソニー製品に触れる場が増えることで、エリアにおける認知度が高まったり、満足度が向上するといったことにつながっているからだ。河野社長が「ソニーが構造改革を進めるなかでも、ソニーストアの閉店だけは行わなかった」というのも、ソニーストアが、カスタマーマーケティングの実現には不可欠な拠点であると認識しているからだ。

ソニーならではの製品の価値を訴求するために、ソニーマーケティングが取り組む顧客体験価値の最大化。それがソニーファンの拡大に寄与しはじめ、ソニー復活の足がかりとなっているようだ。

(ライター 大河原克行)

[日経トレンディネット 2016年5月11日付の記事を再構成]

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