パン作りへのこだわりが詰まった総菜コッペ

専門店が続々とオープンし、流行の兆しを見せているコッペパン。どんな具材でも挟むことができるため、その種類はお店によって多種多様だ。前回の「揚げ物コッペパン」に続き取り上げるのは、揚げ物以外の総菜が挟まれた「総菜コッペパン」。パンの研究所「パンラボ」主宰、「日本全国パンの聖地を旅する パン欲」（世界文化社）などパンに関する著書を多く執筆するパンライター・池田浩明さんに総菜コッペパンのおすすめをうかがったところ、おいしい総菜パンにはある欠かせない条件があるという。

「総菜パンは挟まれている具材の多彩さについ目がいきます。ですが、総菜パンを味わうのであれば、具材だけでなくパン自体がおいしいことが重要なポイントです」（池田さん）

パン自体のおいしさが重要なのはどんなパンにおいてもいえることだ。しかし、揚げ物コッペパンに揚げ物という明確な主役があったのに対し、総菜コッペパンは具材の足し引きが自在。パンのおいしさがその味をより左右するともいえそうだ。

では、そんなパン自体のおいしさを堪能できる総菜コッペパンをみていこう。

「このパンに挟まってさえいれば、どんなメニューでもおいしく感じられるパン。際だった特徴があるわけではないですが、すごくやわらかくて雑味がなく、毎日食べても飽きがこないようなコッペパンです」

池田さんがそう語るのは、京都・四条大宮の商店街にある「まるき製パン所」だ。意外かもしれないが、京都は都道府県別パンの消費量が日本一（2014年総務省「家計調査」より）。同店は近所に住む学生やサラリーマン、子どもの頃から通っているというお年寄りなど地域の人に支えられ、昭和22年の創業から来年で70周年を迎える老舗だ。

ハムロールはやさしい塩味のハムとたっぷりのキャベツに、マヨネーズで味をつけただけのコッペパン。池田さんによれば、「このシンプルな味付けが、一番コッペパンのおいしさを引き出してくれる」という。

「パンの味は一度も変えていません。難しいこだわりもなく、おいしければそれでいいという気持ちでいつものパンを作り続けています」（まるき製パン所主人・木元広司さん）

変わらぬ製法と自然体でのぞむ姿勢が、地域の人に長く愛される秘けつのようだ。

昔ながらの製法を受け継いでいるパン屋は横須賀にもある。京浜急行電鉄の県立大学駅前にある「中井パン店」は、横須賀名物のB級グルメ「ポテチパン」の元祖だ。ポテチパンとは、ポテトチップスとキャベツを「パーカーハウス」という種類のパンに挟んだ商品のこと。この商品がメディアに取り上げられたことで一躍有名になったが、昭和の面影を残すショーケースの中には、このポテチパンの他にも焼きそば、ごぼうサラダ、ハムカツなど、様々な具材を挟んだコッペパンが数多く並んでいる。中でも、池田さんが「日本人の口に一番なじんだ味」と言うのが、ちくわの磯辺揚げを挟んだ「ちくわパン」だ。

食べてみると、ちくわとコッペパンのふかふかとした食感のあとに、下に敷かれたレタスのしゃきしゃきした歯ざわりが楽しめる。上には細かく刻んだ紅ショウガが載っており、食べ進める上でのちょうど良いアクセントになっていた。

「ここのお店はパンの発酵を機械ではなく、お湯を張って温度と湿度を管理するという方法をとっています。電気のなかった時代はどこもこうした方法でパンを発酵させていたのですが、機械の発達した近年、この方法を用いているお店は非常に珍しい。天然記念物並みの技術だと思います。この昔ながらの製法で作られたコッペパンの素朴さが、ちくわと絶妙にマッチする。やっぱり昔ながらの製法で作られたパンはひと味違うと思わされるコッペパンです」（池田さん）

最後は、東京の丸の内にある「みんなのぱんや」の「ポテトサラダサンド」だ。

「みんなのぱんやはフランスパンで有名なベーカリー、VIRONが経営しているパン屋。VIRONがハード系の堅いパンなのに対し、みんなのぱんやではコッペパンやサンドイッチ、あんパンなど、昔ながらの日本のパン屋の味を再現しています」（池田さん）

お店は地下街にあり、細長い店舗スペースにはたくさんの総菜パンが並ぶ。ポテトサラダサンドはレジ横の冷蔵ケース、一番上の棚に陳列されていた。たっぷり詰められたポテトサラダに、半分に折られた丸いハムが2枚。彩りも鮮やかで、会計中に目にとまったら思わず手を伸ばしてしまいそうだ。

こんがりと焼けた表面の皮が香ばしい。そのコッペパンは、昭和30年代のパンをイメージして作られている。しかし、単なる懐古主義では決してない。

「コッペパンのように昔から親しまれているパンを、最新の機械や改良を重ねた素材で作ったらどうなるか？　そこにこだわりを持って取り組むことで、必ずおいしいものができると考えながら作っています」（みんなのパン屋・荘司直人さん）

ポテトサラダのじゃがいもはその時期にもっとも旬の地域のものを使用。ニンジン、タマネギ、キュウリが混ぜ込まれているが水気はよく切られており、ところどころジャガイモの食感も残る。ハムもジューシーで、二つ折りになっているので食べ応えがあった。

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今回紹介したお店は老舗が2軒と、老舗の味を再現しようとするお店が1軒。池田さんによれば、老舗にはパンがおいしいお店が多いという。

「老舗といってもハードルの高いお店ではなく、日常に密着した町のパン屋のようなところです。地域の人から長く愛されていることが、何よりの理由でしょう」（池田さん）

彩り豊かな具材に意識が向いてしまいがちだった総菜パン。今度は、コッペパンそのものの味にも注目してみてはいかがだろうか。

次回は、女性や子どもにも人気のデザートコッペパンを紹介する。

（ライター　小沼理=かみゆ）