働く女性の健康、どう守る
企業、サポート急ぐ
婦人科系の疾患の経済的損失は年間6兆円超――。NPO法人日本医療政策機構(東京・千代田)が「働く女性の健康増進調査」で推計した。乳がんや子宮内膜症など婦人科系の病気を抱えながら働く女性にかかる国全体の医療費負担と、仕事の効率低下で生じる生産性損失を合計した。雇用保険の積立金に匹敵する規模で、社会的損失は大きい。更年期にさしかかる女性管理職には特に配慮が必要になる。
調査は2015年11月、20~60代の正規雇用の女性2091人(平均年齢は42.1歳)を対象に実施。このうち有病者596人から、1人当たりの通院費や薬代、仕事の効率低下や休業による損失を算出。これに労働力調査による女性の就業人口(2474万人)と月経前症候群などの有病率(17.1%)をかけて、損失総額を推計した。
同調査で定期的に婦人科を受診しているか聞いたところ、20%にとどまった。受診しない理由は「健康なので行く必要がない」「仕事や家庭が忙しい」などが上位。全体の27%は婦人科検診へ行ったことがなかった。厚生労働省が初めて企業の健康保険組合(1238の組合が回答)を通じて実施したがん検診の実態調査でも、受診率は肺がんで72%と高い一方、婦人科系の乳がんと子宮頸がんは30%台にとどまった。
日本医療政策機構の小山田万里子シニアマネージャーは「国が婦人科がん検診を定期健康診断に含めたり、女性の体の特性や疾病予防法などを男女が学ぶ機会を設けたりする必要がある」と指摘する。
がんチェックは定期健診で 日常の不調、個別面談
女性の健康管理を手厚く支援する企業も出始めている。ワコールホールディングスは乳がんと子宮がん検診を定期健診でセット受診できる環境を整えるほか、マンモグラフィー(乳房エックス線撮影検査)装置を備えた検診車両を保有しバス検診を実施。乳がん受診率は8割、子宮がんは6割を超える。ポーラ・オルビスグループは昨年から20代に日常のケアの個別指導を始めたほか、「女性の健康推進員」がおり、卵巣がんの発見にもつながる子宮超音波検査を導入した。国や企業が成長戦略、経営戦略と位置づけ女性の能力に頼り、活躍を期待するなら、健康で長く働ける環境整備が急務。先行企業に学ぶことは多い。
気になる!
記者の目
心身の男女差、理解して
社員が活動量計を持ち、本社各フロアに設置された体組成計と血圧計でデータヘルス管理を行うフジクラ。健康経営推進室の浅野健一郎副室長は「骨量やうつ症状など、男性と女性とでは同じ年代でも特徴が異なる」と違いを指摘する。
男性ホルモンは緩やかに減少しゼロになることはないのに対し、女性ホルモン(エストロゲン)は20、30代をピークに減少を始め、50歳前後で急減しほぼゼロになる。ケアが必要なこともある。
日本生命保険は14日、本社勤務の女性や管理職の男女約50人を対象に、NPO法人女性の健康とメノポーズ協会(東京・新宿)によるセミナーを開く。後日、同協会の検定試験も実施する予定。合格者は「女性の健康推進員」の認定を受ける。
体質検査のヘルスケアシステムズ(名古屋市)滝本陽介社長も推進員の一人。「女性社員から相談を受けたとき答え方を間違えたくない」という。女性の能力を最大限に生かすためにも、男性も正しい知識を持つことが求められている。
(畑中麻里)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。