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グレッグさん夫妻を英語で案内する近藤佳宏さん(中)(東京都港区の増上寺)

グレッグさん夫妻を英語で案内する近藤佳宏さん(中)(東京都港区の増上寺)

訪日外国人が増えるなか、彼らを観光案内するボランティアガイドをめざすシニアが増えている。英会話教室や語学講座などで学ぶ中高年の姿も目立つ。国際交流への貢献と第二の人生の生きがいづくりという一石二鳥の狙いがある。2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、シニアのガイド熱はますます高まりそうだ。

 「ハイ・グレッグ。ナイス・トゥ・ミーツ・ユー」。東京都内のホテルで15日、近藤佳宏さん(64)がオーストラリアから来日したグレッグさん夫妻に声を掛けた。近藤さんは、東京都内や近郊で外国人を無償でガイドするNPO法人「TOKYO FREE GUIDE」(TFG)のメンバー。本部を通じてグレッグさんからメールで依頼があり、ロビーで落ち合った。

向かったのが東京・芝公園の増上寺。寺の由来や歴史を英語で解説した。次に浅草で三社祭を見物した後、両国国技館や銀座の歌舞伎座にも連れていき、日本の伝統文化を紹介した。グレッグさん(52)は「日本を深く理解できて良かった」と感激していた。

60歳で退職した近藤さんが興味を覚えたのが国際交流。外国を訪れた際、現地の人に親切にされたことに感激しガイドを目指すようになった。

独学で勉強した英語に磨きをかけるため、定年後に大手英会話学校、イーオン(東京・新宿)の教室に通い始めた。同校がTFGと提携して昨年開いた「ボランティア通訳ガイド養成講座」も受講。修了後、TFGの試験に合格し、昨夏から活動を始めた。

月1回、欧州やアジアなどからの訪日客を案内する。その都度、メールで要望を聞きプランを練る。日本の文化や歴史を学ぶ機会も増えた。「下調べやコース設定も楽しい。帰国後、お礼のメールや写真が届くと、それまでの苦労が吹き飛ぶ」と近藤さん。

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TFGで活動する人は400人弱。うち60歳以上のシニアは2割強だ。川本佐奈恵理事長は「数は40~50代の女性が多いが、60歳以上の男性は他の世代より活動に熱心で頻度も高い」と評価する。

イーオンによると、ボランティア通訳ガイド養成講座の人気は非常に高い。昨年、東京本社で定員50人の講座を3回開いたが、募集するとすぐに埋まる状態。今年開催する4回分を昨夏に一括募集したところ、1カ月もしないうちに全講座が満員になった。「こんなに早く埋まるとは思わなかった」と担当者は驚く。受講者の3割は60歳以上だ。

定年後に備えて受講する人もいる。異文化に触れることに興味がある会社員の寺沢寧史さん(56)は、海外に行かなくても訪日外国人と接すれば国内で国際交流できると思い、TFGのガイドを目指す。「私が60歳になる頃に東京五輪が開かれる。今から経験を積み、退職後に思う存分活動したい」と話す。

TFGは英検準1級程度の高い語学力が必要だが、英検2級程度でもなれる東京都の観光ボランティアも人気だ。都内の観光ルートや都庁などを案内するガイドと、新宿駅や上野駅周辺で道案内する「街なか観光案内」がある。五輪開催が決まるまでは500人程度だったが、決定後は毎年千人近い応募があり現在、2000人が登録する。このうち60歳以上が35%を占める。

金子とう三さん(76)と堀義昭さん(68)は街なか観光案内として月1、2回、上野駅周辺で活動する。上野公園で地図を見る外国人に積極的に声を掛け、目的地の行き方や見どころを英語で説明する。

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元航空機関士の金子さんと元商社マンの堀さんは現役時代から英語を使う機会が多く、定年後もラジオ講座などで英語を習得。その成果を生かそうと観光案内になった。「少なくとも東京五輪まではガイドを続け、できるだけ多くの外国人をもてなしたい」と2人は口をそろえる。

シニアのガイド熱について、NHKラジオの英会話講師を務めた清泉女子大の大杉正明教授は「英語を学ぶシニアは多いが、テニスの壁打ちと同じで実際に外国人と話さないと本物の語学力は身につかない。外国人を案内することは脳の刺激になり、生き生きとした老後を送るのにも役立つ」と歓迎する。今後、訪日外国人の増加が見込まれるなか、シニアの活躍の場がさらに広がるのは間違いない。

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年間4000万人受け入れ目指す

訪日外国人は年々、増加している。中国や台湾・韓国などの東アジア地域が3分の2を占めるが、欧米からの観光客も増えている。

日本政府観光局が発表した4月の訪日外国人数は208万人強と単月で過去最高になった。年間では2015年が1974万人弱と2000万人目前まで迫り、10年に比べ約2.3倍に増えた。政府は20年までに2000万人という目標を掲げていたが、4000万人に上方修正した。

五輪を控える東京都は観光ボランティアとは別に、街中で困っている外国人がいたら積極的に声を掛けて助ける「外国人おもてなし語学ボランティア」育成講座を15年7月から開いている。英語を習得する語学講座とコミュニケーション術などを学ぶおもてなし講座があり、15年度で3100人が修了した。このうち60歳以上が3割を占める。都は19年度までに3万5千人に増やす計画だ。

(高橋敬治)

[日本経済新聞夕刊2016年5月30日付]

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