増える家庭向けパクチー商品 人気の背景に名称変更も
近年、急速に存在感を増している香辛料パクチー。その独特の強い匂いのため、好き嫌いがはっきり分かれるが、これまではどちらかといえば「お店で楽しむ」という印象が強かった。しかし、最近、家庭に向けたパクチー関連商品が増えている。中には店頭に並ぶたびに飛ぶように売れ、品切れになる商品もあるという。
タイやシンガポールのチキンライス、ベトナムのフォー、タイのトムヤムクンなど、エスニック料理のレストランや屋台で提供される料理のアクセントとして、強烈な存在感を示す「パクチー」。パクチーは根と種を利用する地中海沿岸原産のスパイス&ハーブだが、独特の強い匂いを持つため、熱烈な「パクチーが好き派」とパクチーを全く受け付けない「嫌い派」がくっきりと分かれる。店舗によっては、希望すれば料理からパクチーを抜いて提供する対応も行われている。
そんな強烈なパクチーを使った商品が、家庭向けの商品にも広がっている。パクチーを使ったトムヤムクンのヌードルなどはこれまでにもあったが、商品名そのものに「パクチー」を冠した商品が増えているのだ。2016年春に家庭向けパクチー商品を発売したメーカー3社に、開発の経緯や人気の秘密を取材した。
エスビー食品は春夏の一押し商品に
家庭向けから業務用まで幅広くスパイスやハーブを取り扱っているエスビー食品は2016年、パクチー入りの商品のプロモーションを強化している。
2016年5月現在、同社が販売しているパクチー商品は、パクチーを加工したソースやスパイスとして使うフレッシュ・乾燥・冷凍のパクチーなど、業務用と家庭用を合わせると17種類(夏季限定商品を含む)。3月に開催されたアジア最大級の食品・飲料専門展示会「FOODEX JAPAN 2016」の会場でもパクチーの緑色に染まったブースを設置し、パクチーの業務用・家庭用商品をこの春夏の一推し商品として展開した。
エスビー食品によると、パクチーの栽培地域はタイやベトナムなどの東南アジア、中国、ポルトガル・スペイン、アメリカ大陸と生産地は世界中に広がっている。生命力が強くて育てやすいハーブで、英語名は「coriander(コリアンダー)」。完熟した種子の部分は「コリアンダーシード」と呼ばれ、日本ではカレー粉の原料として使われてきた。
「葉の部分は中華料理では『香菜(シャンツァイ)』、タイやベトナムでは『パクチー』と呼ばれ、多用されるハーブです。料理のトッピングやいため物のソースとして用いられ、日本でもエスニック料理の広がりとともに人気が高まっています。パクチーは世界各国の料理に使われるポピュラーかつマルチに使えるハーブのため、エスビ一食品の約30種類あるフレッシュハーブの中でも、出荷量がバジルに次ぐ2位となっています」(エスビー食品)
2016年度のエスビー食品の新商品には、パスタのソースやサラダにつけて食べられる「クリーミーパクチーソース」(家庭用110g 業務用270g)や、サニーレタスとサラダ油と混ぜるだけでパクチーとナンプラーの香りが漂うエスニックサラダが作れる「S&Bシーズニングパクチーサラダ」など、単なるスパイスにとどまらず主役級の料理が簡単に作れる商品が並ぶ。
「日本ではこれまでパクチーはハーブやスパイスとして使うのが主流でしたが、ペーストやソースなどの食べ方のバリエーションが広がると、まだまだ需要が伸びていくと考えています」(エスビー食品)、
カルディのパクチーポテトチップスは完売続出
キャメル珈琲(東京・世田谷)が運営するコーヒー豆と輸入食品を取り扱う小売店「カルディコーヒーファーム」がパクチー商品の取り扱いを始めたのは2013年5月。まず「オリジナル パクチー(フリーズドライ)」を店頭に並べた。16年春の時点で、パクチーを商品名に入れた商品は、自社開発のオリジナル商品4点を加えて、11商品。パクチーを使ったポテトチップスから、パクチーをたっぷり使ったドレッシングまで、そのラインアップは多彩だ。
「発売当初より人気でしたが、とくに14年6月に発売した『ゴン・ラムベトナム パクチーラーメン』から、一気に人気が高まりました」(キャメル珈琲広報・販促企画室 末武愛弓さん)。時期的には、ネットや口コミで話題になり始めた15年1~2月ごろから急激に伸びたように感じているという。
「それまでもパクチー好きな方はたくさんいらっしゃったと思いますが、店頭にパクチー関連商品があまりなかった。昨年来、家でも気軽に楽しめるパクチー関連商品の発売が続き、人気が一気に高まったのではないでしょうか」
カルディの商品では、5種類のスパイスをベースにベトナム産のパクチーリーフを使った「オリジナル パクチーポテトチップス」(15年11月下旬発売)が1番人気で、入荷してもすぐに完売してしまう。夏までに、さらにオリジナルのパクチー商品を増やしていく予定だという。
一気に4商品発売でマニアのパクチー欲を満たす味源
食品製造卸の味源(香川県まんのう町)も、2016年3月30日に「ドライパクチー」「激辛パクチースープ」「パクチースープ」「パクチーチップス」の4種5商品を発売した。
パクチーブームにのっての商品化かと思いきや、味源の行徳真理さんによるときっかけとなったのは味源で働く中国出身の社員だったという。日本のスーパーマーケットでパクチーを見つけ、故郷を懐かしく思い、その味わいを日本人にも楽しんでほしいと思ったそうだ。
同社が発売した「パクチーチップス」は、パクチーを天ぷらのように揚げたもの。さらにパクチーのシーズニングをかけ、パクチーの風味を強調し、くせになる味に仕上げている。
「パクチー」という新ネーミングで人気拡大
ここ数年、急速に存在感を増してきたパクチーだが、日本市場における歴史は意外に古い。エスビー食品が商品にパクチーを導入したのは今から24年前の1992年。フレッシュハーブを袋入りにした「香菜」が最初だった。
ただ、当時はパクチーという名前はなく、「シャンツァイ」という中国のハーブという位置づけ。「パクチー」を前面に打ち出したのは20年後の2012年3月から。最近のパクチー人気にはこの「名称変更」も関係しているようだ。
「香菜については、卸市場ではシャンツァイが呼称として定着しておりましたが、巷でのタイやベトナムなどのアジアン料理の人気が高まり、『生の香菜=パクチー』という認知が一般の方に浸透していきました。11年に実施したメールマガジン読者に対する簡易調査でも、香菜の呼称としてパクチーを選ぶ人が5割を超える結果がでたこともあり、12年3月より『香菜(パクチー)』と併記する品名に変更しました。この頃よりシャンツァイとパクチーの呼称を併用するようになりました」(エスビー食品)
エスビー食品のフレッシュハーブ関連商品を見ると、1992年から2008年に発売した商品では「香菜」、2008年以降は「香菜(パクチー)」と表記している。2015年以降に発売した業務用・家庭用商品には「パクチー」とだけ表記したものが登場する。その結果、新しいスパイスのように感じる人も多かったのだろう。
「アジア料理人気の高まりや、くせのある味といった個性の強さなど、パクチー人気にはいくつかの理由があると思いますが、その一つに『パクチー』という言葉の、聞こえの新しさもあるのではないでしょうか」(エスビー食品)
これまでエスニック料理の飲食店を中心に広がってきたパクチー人気。好き嫌いが分かれる料理だけに、家庭でどれだけ普及するか気になるところだが、エスビー食品は手軽に使える商品が増えることで、食卓でも使われる機会が増える可能性は高いと見ている。
「パクチーの活用メニューは多岐にわたり、カレーや鍋物、サラダなど家庭の定番料理でもさまざまに利用しやすいのが特徴です。女性や若年世代に人気が高いこともあり、家庭で新しい食べ方を楽しむ機運はますます増えていくと考えています」
(ライター 北本祐子)
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