今の選択が未来を変える 作家・吉田修一さん
都会の男女の関係を描いた芥川賞受賞作「パーク・ライフ」、逃亡する殺人犯を主人公とする犯罪小説「悪人」、大学生の1年をつづった青春小説「横道世之介」など幅広いジャンルを手がける47歳の作家。人間関係の機微を巧みな構成を表現する作風は一貫しており、多くの作品が映像化されている。
3月刊行の長編「橋を渡る」(文芸春秋)は現実に起きた出来事を盛り込む一方で、最終章は近未来の日本を舞台にするなど挑戦心を感じさせる。「4部構成にしたいと思い、まず一つの街を描き、次に東京、日本、世界と空間を大きくしていこうと。戦後70年の1年前に週刊誌での連載を始めたので、70年前があるなら70年後もあるはずと考えた」
第1章「春」で都内の一戸建てに住む会社員「明良」は部下との会話で韓国のフェリー事故を話題にし、第2章「夏」で都議会議員の妻「篤子」はセクハラやじ問題に不安を抱き、第3章「秋」で結婚間近のテレビ局のディレクター「謙一郎」は香港の学生デモを取材する。
「ニュースについて書きたかったのではなく、それに対する反応を通じてどういう人物なのかを示したかった。どの作品でも考えるのは場所、人物、ストーリーの順番。この人物について知りたいという興味で書き進める」と明かす。
第4章「そして、冬」で示される2085年の日本は相当怖い。それは人々が多くの「橋を渡った」結果なのか。「現在の日本を批判したいわけではない。でも今の選択が未来を変えると思う」
「小説は書く方も読む方も一人だからこそ伝わるものがある」と言い、執筆時に感じる「不安や寂しさ」を大切にしている。(よしだ・しゅういち=作家)
[日本経済新聞夕刊2016年5月23日付]
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