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作業者として何らかのシフトに組み込まれている時には、休憩時間やイレギュラーな事態が発生した場合を除いて、体の動きを止めることはできません。決められた時間内に決められた量の成果(アウトプット)を出さなければいけないから当然です。

しかし、もし今まで以上の成果を同じ時間内に出すことを突然要求されたら皆さんはどうするでしょうか?

おそらく、シフトに組み込まれていない時間を使って、どうしたらできるか考えるはずです。

また、担当している仕事が定型的ではなく、オーダーメード的に発生する仕事や開発・設計などの場合には、仕事の進め方自体を自分で決めなければいけませんから、まずその段取りを考えるための時間が絶対的に必要となります。

このように、「行動」には単に身体を動かすだけでなく、考えるために動きを止めるという行為も含まれ、「動く」行動の質を上げるための基礎的な位置づけとなります。

「止まる」という行動ができないと、成果は向上しない

私は社会人としてスタートしたての頃、先輩から「頭を使うより、まず体で覚えろ!」そればかり言われていました。

そのため、「なぜそうしなければいけないんだろう?」という疑問を晴らせないまま、ただ言われたとおりのことをミスしないように進めていた記憶があります。そこで、あるときから毎日夕方30分間だけ質問時間を設けてもらえるようにお願いしました。

そのおかげで、その日に感じた疑問をその日のうちに解決することができるようになっただけでなく、それまで気づかなかった仕事の全体像や、会社全体の仕事の流れを理解できるようになったのです。

「止まる習慣作り」、それは、リーダーが若いメンバーに教えなければいけない重要な事柄なのです。むしろ、いかに動くかを教える前に教えなければいけません。

そのためには、最初のうちはリーダーから声をかけ動きを止めさせる必要があります。

私の知っているある社長は、毎日午前10時から11時までを「クリエイティブタイム」として全社員に考える時間をルール化して設定させていますが、その時間を作ってからはむしろ残業が減ったと仰ってました。

・リーダーと若いメンバーのミニミーティングを毎日30分~60分行う
 (主に、メンバーの疑問解消、理解促進のための場になる)
・毎日30分~60分の時間を設定する意識が定着したら、その時間で明日以降の仕事の段取りなどをひとりで熟考させる

このようにして若いメンバーに「考える」ために「動きを止める」習慣をつけさせます。

チーム全体としても「考える」ために「動きを止める」習慣は必要です。それには、チームミーティングを週と月の単位で行うことが大事です。(案外定期ミーティングをやっていない会社も多いのは残念なことです)

・週に一度の60分チームミーティング
 <目的>進行中の仕事に関する問題点の抽出
     問題の解決方針決め
・月に一度の120分チームミーティング
 <目的>改善や改革のための課題の抽出
     課題の解決方針決め

(チームミーティングで解決策まで言及していないのは、多くの場合具体的解決策はチーム全体ではなく、その中の選出メンバーで行われることが多いからです)

若いメンバーが「動く」ときのテーマは質よりも量

次に、「動くときには、どのような視点を持つべきか」、ということを考えてみましょう。若手メンバーの初期教育で重要なのは、仕上げる仕事量に対する意識です。

いずれ、仕事を覚え、任されるようになってくると「時間」が大きな圧力となって迫ってきます。締め切りだけでなく、競合との時間的競争があったり、時間内ではさばけないほどの業務がのしかかってきたりするのです。

リーダーであるあなたなら実感していると思いますが、責任が重くなればなるほど、本来の業務以外の業務、例えば会社への報告書類の作成などの付随業務も増え、ますます時間との闘いが激しくなるのです。

将来必ず訪れるその状態の前に、若手のメンバーには、時間的な制約の中で一体自分はどれだけのことをこなせるのか、そのポテンシャルを実感させる必要があります。例えば、普通の人が30分でできる仕事を、新人が60分かけてやったとします。このような場合はほとんど「新人だからしょうがない」「慣れたらもっと速くできるようになるだろう」と見過ごしますが、それは大いなる問題なのです。

先のような対応をしていると、新人は30分で仕上げなければいけないという責任感を感じませんし、どうすれば30分でできるようになるんだろうという探究心も起きません。

覚えたてという特別条件はあるにしても、「この仕事は30分でやる仕事」として業務を指示しなければいけません。1日に指示する仕事量は、あくまでも通常みんながこなせる仕事量にするべきなのです。もちろん、その日のうちには仕上がりませんからあふれます。

例えば、半分しかできなかったとしたら、次の日にその残った仕事を半日でしあげるように指示するのです。

つまり、アローワンスを持つとしたら、1つの仕事単位や1日単位ではなく、翌日を予備日として2日単位で設定するのです。

あくまでも指示は「通常やれる量」と「やれる時間」で行うことがポイントなのです。この指示の仕方により、新人は残りを半日でやらなければいけない仕事として強く認識します。

この標準時間の考え方を身体に染み込ませるためには、標準時間ではまだ行えない時が大きなチャンスなのです。

そうしなければ、その後も必ず不慣れな仕事に関しての「時間観念」が希薄になりますし、時間をコントロールするのではなく、時間という制約条件に振り回されることになるのです。

新人のうちにまず覚えさせることは、質よりも量に対する意識です。

止まって考えるときのための材料を集める

「止まる」という行動は、考えるための行動です。考える内容の質をより良くするためには、考えるための材料ができるだけ多くなければいけません。

そのために、日々「動いている」時に感じたことを貯蓄しておくほうが良いのです。多くの「気づき」は現場で実際に動いていると同時に起こっています。例えば、お客さんと商談している最中に、今使っているパンフレットの使いにくさに気づくとか、相手の口調から相手のウォンツを感じ取ったりすることです。実は、多くの人が一瞬一瞬いろいろなことを感じ取り気づいているのですが、その瞬間に記録しないために忘れてしまっているケースが多いのです。または、他の気づきで上書きされていることが多いのです。

これは、極めてもったいないことです。

私が指導している会社では、次のようなスケジュールフォーマットを使ってもらうことが多いです。これは私が実際に使っているもので、1日単位で作られていますが、みなさんは使いやすいもの例えば週単位のものでも構いません。

ポイントは常に、予定行動の横に、それを行っているときに感じた「気づき」を記載できるようにしておくことで、打ち合わせの途中にちょこっとメモするのです。

その積み重ねが、止まって考えるときに多くのヒントとなって活かされるのです。

「気づき」は筋トレと同じです。毎日意識して行い続けることで意義が生まれるのです。

「T」という項目がありますが、これはその仕事にかかった時間を書くところで、自分がどの仕事にどれだけ時間をかけているか認識するために役立つものです。新人にはお勧めです。

◇   ◇   ◇

井上健一郎(いのうえ・けんいちろう)
井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/

[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年10月9日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]

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