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ポピンズは連絡帳をネット化した(東京都新宿区のポピンズナーサリースクール四ツ谷)

ポピンズは連絡帳をネット化した(東京都新宿区のポピンズナーサリースクール四ツ谷)

待機児童を解消しようと、各地で保育施設の整備が続いている。そのために欠かせないのが、保育を担う人材の確保だ。政府は給与面の改善を進めているが、それだけでは十分ではない。より働きやすく、働きがいのある職場にするにはどうしたらいいか。現場ではさまざまな工夫が続いている。

穏やかな5月の昼下がり。認可保育所、ポピンズナーサリースクール四ツ谷(東京都新宿区)では、子どもたちがすやすやと昼寝をしていた。その傍らで保育士が向かっているのはタブレット端末だ。

おやつや昼食の様子、体温などの健康状態、どんな遊びをしたか……。事細かに入力していく。音はほとんどせず、子どもたちの眠りを妨げることはない。昼寝の後も必要に応じて、内容を追加する。

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ポピンズ(東京都渋谷区)は2015年10月から、全国の保育園に順次、新しい情報システムを導入している。保護者との間でやりとりする連絡帳を、紙からインターネットに切り替えられるようにした。「慣れてくれば職員も入力が速くなり、その分、子どもたちと向き合う時間を増やすことができる」と同社は狙いを話す。

メリットはそれだけではない。保護者は登園前に、ネットで連絡帳を入力する。「家庭での様子を受け入れ前に知っておくことができ、保護者とより深いやりとりができる」と保育士の中沢弥生さん(38)。紙の連絡帳の控えをファイルにとじ込む、といった事務作業も軽減された。

2歳児クラスの保護者(46)は「直筆でないとどこまで温かいやりとりができるか心配だったが、丁寧に詳しく書いてもらい、安心できた」と話す。

ポピンズのシステムは、保育の利用状況や職員のシフトなどの情報を管理している。16年度はさらに範囲を広げ業務を効率化する。

保育の人材をどう確保するか。待機児童の解消のための、大きなカギだ。都市部を中心に、保育士不足が原因で受け入れ枠を減らすケースも出てきており、対策は急務だ。

そのために必要なのは、給与面の見直しだけではない。東京都が14年にまとめた調査では、保育士として働いている人の2割が退職を考えていた。理由のトップは「給料が安い」(65%)だが、「仕事量が多い」(52%)がそれに続いた。「職場の人間関係」や「適性への不安」をあげる人も2割を超えた。幅広い対策がいる。

兵庫、大阪、東京などで20を超える認可保育所、認定こども園を運営する社会福祉法人夢工房(兵庫県芦屋市)は、メンター制に力を入れている。新人の採用、とりわけ地方からの採用も増えるなか、1年目の不安を少しでも軽減するためだ。だれをメンターにするかは、園ではなく新人自らが決めることができる。

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メンター制度に助けられたという野村さん(左)

メンター制度に助けられたという野村さん(左)

東京都目黒区の認可保育所、夢花保育園で働く野村遥さん(23)は1年目の15年度、副主任の小林麻美さん(27)にメンターを依頼した。共に自転車が趣味だったことがきっかけだ。

「プライベートのことや、こんなことを聞いてもいいのかな、というちょっとしたことまで相談にのってもらえた」と野村さん。小林さんは「自分も昔、同じようなことに悩んでいた。それを思い出すことができ、他の職員に対してもきめ細かく声をかけられるようになった」という。

同法人では保育の質向上に向け、仕事の傍ら学会での発表をする「幹部候補生」の制度も始めた。

首都圏で認可保育所、認定こども園12園を運営する社会福祉法人あすみ福祉会(埼玉県入間市)は今年度、2つの試みを打ち出した。一つは保護者とスマートフォンなどでやりとりできるサービスの利用。もう一つはコミュニケーション活性化と保育士の社会的地位向上を目指す「名刺」の導入だ。

保育の世界では名刺は一般的ではないという。肩書は人によりそれぞれ。千葉県の保育所で主任を務める福本勝憲さん(39)は「Edu-care Creator」を名乗る。「保育には教育と養護の2つの要素がある。それをアピールしたい」

横浜市の園で4月に働き始めた野上晴香さん(22)は、園長から「Promising Star」という名刺を受け取った。期待の星、という意味だ。「名刺があると、保護者の方と話すきっかけにもなる」という。

ともすれば、保育の仕事は、厳しい仕事というイメージばかりが広がりがちだ。だが子どもたちの成長を支える大事な仕事でもある。働き手の意欲を後押し、負担を軽減する工夫が、一層求められている。

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処遇改善も急ぐ

政府は2013年度から17年度末までの間に、保育の受け皿を50万人分増やし、待機児童をゼロにする方針を掲げている。そのためには新たに9万人の保育士を確保する必要がある。

保育士不足の大きな要因の一つが、処遇の低さだ。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(15年)によると、民間の保育士の毎月の給与は約22万円。勤続年数などが異なるため単純な比較は難しいが、全産業平均より約11万円低くなっている。

政府は「ニッポン一億総活躍プラン」のなかに、2%の処遇改善を盛り込んだ。経験を積んだベテランの保育士にはさらなる上積みを目指す。処遇改善は大事だが財源には限りがある。処遇の改善と働きやすい環境整備は、いわば車の両輪だ。両方をバランスよく後押しする必要がある。

(編集委員 辻本浩子)

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