マネー研究所

転ばぬ先の不動産学

エージェント制元年 新時代に入る不動産取引 不動産コンサルタント 田中歩

2016/5/25

 不動産仲介における「囲い込み」という業界慣行をご存じでしょうか。「囲い込み」とは売却の依頼を受けた不動産業者が自分で買い主を見つけ、売り主と買い主の双方から仲介手数料を獲得するまで、他の不動産業者にその売り物件を紹介しない行為のことです。

 宅地建物取引業法上、不動産業者が売り主から売却の依頼を独占的に受ける場合、専任媒介契約または専属専任媒介契約を売り主と締結する必要があります。この場合、不動産業者だけが利用できる物件検索サイト(レインズ)にその売り物件情報を登録し、情報をオープンにしなければなりません。

 レインズとは不動産業者が自由に物件を検索し、買い主に物件を紹介することでスムーズな流通を促すことを目的としたWEB上のデータベースです。

 しかし、独占的に売却の依頼を受けた不動産業者Aは、他の不動産業者Bが連れてきた買い主と取引するより、自分で見つけてきた買い主と取引したほうが獲得できる仲介手数料が多くなります(図A)。

 そこで不動産業者Aは、不動産業者Bに対して売り物件を意図的に紹介しないという行為を行うことがあります。売り主の売却希望金額で購入したいという買い主が現れたとしても、紹介さえしてもらえないのです(図B)。

 この「囲い込み」を防止するために、今年1月からレインズに新たな機能として「ステータス管理」が加わりました。専任媒介・専属専任媒介契約を締結した不動産業者は、依頼を受けた売り物件の状況を適正に表示しなければならなくなったのです。

 ステータスは「公開中」「書面による購入申し込みあり」「売り主事情により一時紹介停止中」の3種類。「公開中」の場合は、売却の依頼を受けた不動産業者は他の不動産業者に対して紹介を拒むことはできないというルールが定められています。

東日本不動産流通機構(レインズ)のホームページ

 さらに、専任媒介契約などで独占的に売却を依頼された不動産業者は売り主に対して「登録証明書」を交付しなければなりません。この「登録証明書」にはレインズにアクセスできるIDとパスワードが記載されており、ステータスが適正に表示されているか、さらに自分の物件がどのように登録されているか、売り主が自ら確認できるようになっています。

 このルール改定は中古住宅流通の適正化に向けた取り組みとしては大きな一歩でしたが、残念ながらまだまだ「囲い込み」が横行しているというのが実情です。

 いまでも、ステータスが「公開中」となっているにもかかわらず「商談中です」と言われることが少なからずあります。同じ物件について数日後に再確認すると、依然として「公開中」になっているものの、再び「商談中」と言われてしまいます。「公開中になっているのにおかしい」と指摘しても、「すぐに変更しておきます」と言われる始末。そんなことがしばしばあるのです。

 せっかくルール改定があったのに、「囲い込み」は思ったほど減っていないというのが筆者の感覚です。なぜ、このような状況になってしまうのでしょうか。理由は大きく2つあると考えています。

 ひとつは、罰則規定がないことです。米国では「囲い込み」は罰金が科せられ、度重なれば免許没収というペナルティーがあります。

 もう一つは、こうした新たなルールが消費者である売り主にきちんと伝わっておらず、囲い込みを行おうとする不動産業者に対するけん制機能が十分に働いていない点が挙げられます。

 もし、専属専任媒介や専任媒介契約で不動産の売却を依頼していらっしゃるならば、ぜひレインズにアクセスし、ステータス表示、登録内容や物件資料について定期的に確認しましょう。

 とはいえ、ステータスを「公開中」にしながら他の不動産業者に「商談中」と返答している場合は、売り主にも確認のしようがありません。疑念がある場合には不動産業者を装って自分が依頼している物件について問い合わせ、「囲い込み」をしていないかどうかチェックしてもいいかもしれません。

 ところで、今回のルール改定は中古住宅流通を阻害する問題の一つであった「囲い込み」を防止することがその目的です。買い主に好きな不動産業者を選ぶ権利を与え、スムーズかつ安心、納得できる取引環境をつくろうという目的もあるでしょう。

 米国の不動産流通の仕組みは、売り主がエージェントと呼ばれる不動産担当者を自由に選べるだけでなく、買い主もエージェントを自由に選べるようになっています。この仕組みによってどれだけ価値ある仕事を提供できるかが消費者から問われることになり、非常に高いレベルの仕事をしているといいます。

 今回のルール改定がきっかけとなり、売り主も買い主も自分の好みのエージェントを選べるようになれば、不動産業者やその下で働く従業員はもっと自己研さんに励まなければならないですし、結果として日本の中古住宅流通はおのずと活性化してくるでしょう。

 消費者から選ばれるエージェントは高いコミュニケーション能力・交渉力と倫理観、不動産法務・税務・建物などに関する高度なノウハウ、数多くの実績などが必要だと思われます。現時点においてもそういったエージェントたり得る担当者が大手、中小問わず少なからずいらっしゃると思います。ちなみに、筆者が考えるエージェントとしての最低ラインは以下の点になります。

<売り主側エージェント>

(1)今売るべき時かどうかを売り主や売り主の家族目線でアドバイスできる

(2)依頼を受けんがために必要以上に高い価格査定を行わない

(3)よりよく売却するための戦略・戦術をアドバイスできる

(4)税金に関する一定のアドバイスができる

(5)固有の売買契約リスクを見出し、取引の安全性を高めることができる

<買い主側エージェント>

(1)本当に買うべきかどうか買い主や買い主の家族目線でアドバイスできる

(2)ライフプランの観点から安全な住宅ローンのアドバイスができる

(3)現地調査や地理院地図などから立地や建物に関するリスク等を把握できる

(4)ホームインスペクション(住宅診断)に関して一定のノウハウがある

(5)固有の売買契約リスクを見出し、取引の安全性を高めることができる

 今後、売買取引を考えている場合には上記を参考に、自らエージェントを選んでいただければと思います。そして、不動産業界に身を置く私たちも、より一層気を引き締め、高い価値を提供できるよう努力しなければならないでしょう。

田中歩(たなか・あゆみ) 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション付き住宅売買コンサルティング仲介など、ユーザー目線のサービスを提供。2014年11月から「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」執行役員として、総合不動産コンサルティング事業の企画運営を担う。

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