第1回 ストレスのタネ「報告」を改善、デキる部下・上司を目指す
PIXTA
ビジネスパーソンの基本といわれる「報・連・相(報告・連絡・相談)」で上司と部下の間に対立があるのをご存知でしょうか。
上司は部下に対し「もっと、きちんと報連相をしてほしい」と不満に思っており、部下は「十分やっている。報連相なんて言われたくない」と考えています。報連相をめぐる対立は、案外深刻なものです。
この報連相の中で、いま職場で最も問題になっているのが、報告です。上司が部下に報告を求めるという圧力が、強まっているのです。
背景には、パソコンと携帯の存在があります。以前の職場では、上司が部下の動きをつかむのは、さほど難しくありませんでした。目の前にいる部下が電話で話しているのを聞いていれば、案件の進捗、顧客との関係、社内各部署との折衝の様子などがおよそ分かったからです。
でも、いまは違います。社内外とのやりとりの大半はメールになりました。部下は、パソコンに向かって、淡々と仕事をしています。誰とどういうコミュニケーションをとっていて、どういう状況になっているのか、見えてきません。また、ときどきかかってくる電話も、部下の携帯に直接入ってしまいます。電話の取り次ぎのシーンがなくなり、相手が誰か分からなくなりました。
このように、部下の仕事がブラックボックス化し、マネジメントのために必要な状況把握がまったくできなっています。そうなると、上司の頼みの綱は、部下が報告をしてくれること。こうして、報告要求の圧力が高まったわけです。
とはいえ、部下にとって報告というアクションは、手間のかかる付帯業務と感じるもの。報告を求める上司、手間を回避したい部下の間の溝をどうすれば埋められるのか、それぞれの言い分をテーブルに乗せて考えてみます。
部下の報告には、困っています。こちらが聞くまで報告をしてこないのです。特に途中経過はまったく知らせてくれません。仕方がないので、報告を求めると渋々話します。
しかし、これが要領を得ません。話が長いし、何を言いたいのかよく分からないのです。特にクレームやトラブルなどマイナス要素の入った報告は、言い訳ばかりです。それに、悪い報告が遅いのが不満です。なぜ、もっと早く言ってくれなかったのか、と思うことがよくあります。そんな状況ですから、部門運営は大変ですよ。
【部下に求めること】
*聞かれる前に報告する
*途中経過も報告する
*要点をまとめて話す
*悪い報告は早くする
報連相という言葉は聞きたくないですね。ただでさえ忙しいのに、そこにいちいち報告をしろと言われると、ムカッとします。器の大きい上司なら、任せてくれて、細かい報告など求めないはずです。
それに、せっかく報告しても上司は、面倒そうに聞いて、挙句の果てには「何が言いたいかわからない」と責めるのですから、しなくなるのも当然ですよ。特に、クレームの報告は、上司が不機嫌な顔をするのでしたくありません。
だいたい、上司は「報告するのが当然」という姿勢で求めるばかりで、なにもフォローをしてくれません。報告してもいいことがないのです。
それから、僕たちにもきちんと報告してほしいですね。仕事を依頼してもその後どうなったのか、こちらが聞くまで知らせてくれません。
【上司に求めること】
*報連相がなっていないと言わないでほしい
*もっと任せて見守ってほしい
*報告したらきちんと聞いてほしい
*報告の仕方にまでダメ出しをしないでほしい
*悪い報告でも不機嫌にならないでほしい
*状況がわかったらフォローをしてほしい
*部下にもきちんと報告してほしい
報告をめぐる上司と部下の対立は深刻な様子です。お互いのためによくありませんので、私から上司、部下の方々にそれぞれ提案します。
報告を「部下の義務」と考えて要求しても、状況は改善しません。部下がよい報告をするよう仕向ける工夫をしましょう。ポイントは次の3つです。
*よく聞くこと
*ほうびを出すこと
*具体的に方法を指導すること
最初に挙げた「よく聞くこと」というのは、内容に関わらずそうしましょう。悪い報告であっても丁寧に聞いてください。部下の報告の大半は1分で終わります。1分間は急かさずにじっくり耳を傾けましょう。
報告のほうびは、「ありがとう」「サンキュー」というねぎらいの言葉です。また、状況に応じた支援、フォローもほうびになります。
そして、指導は具体的にします。「いまの話で、問題はいくつあった?」「そうだよな。次からは『3つの問題がある、ひとつめは』というように言ってくれないか」といった具合に。単に「要点をまとめて」というような言い方では改善しません。
なお、途中経過を知りたいのなら仕事を発注するときに「今週末に1回状況を知らせてほしい」と先に依頼しておくとよいでしょう。最後に、部下への報告も忘れずに、手本を示すつもりでやってください。
報告を「面倒な義務」だと考えると、つらくなります。報告は、自分が手掛けた仕事に関する上司へのプレゼンだと位置づけましょう。報告時の印象がよくなれば、仕事の印象もよくなります。そのために、上司を仮想クライアントとして位置づけ、サービスという観点で以下のように、取り組みます。
*聞かれる前にタイミングよく
*適度に中間報告も
*「結論から言いますと」、「問題は2点です。1点目は」のようにまとめて
このようなことを意識して実践するだけで、上司は喜ぶものです。なお、報告のタイミングとして、ポイントになるのは、上司が出席する管理職の月例会議の3日前です。その頃になると、上司も会社への報告のため、ネタ集めをはじめます。
重要案件について、その頃に中間報告すると「ちょうど聞こうと思っていた。いいタイミングで報告してくれた」と喜ばれるでしょう。これらは、すべて、部下のプラス評価につながります。自分のためだと考え、よい報告をしましょう。
また、悪い報告も早くしたほうが自分のためです。「そのうちうまく収まるかもしれない」「今日は上司の機嫌が悪そうだから明日にしよう」と先延ばしにすると、自分がつらくなります。報告して責められたとしても、それは過去になっていきます。一方で、言わずに悶々としていたら、それは明日も続いてしまいます。さっさと言って、気楽になりましょう。
上司と部下にとって、報告は「お互い様」です。相手に求めるだけでなく、互いによくしていきましょう。
[2012年11月7日掲載の日経Bizアカデミーの記事を再構成]
1960年東京生まれ。早稲田大学卒業後、住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て、大手人材開発会社に転職。トップセールスマンとなり、営業マネージャー、経営企画室マネージャー、システムソリューション部門責任者を歴任後、独立。現在は、コンサルタントとして、公開セミナー、個別企業の研修に出講しており、これまで指導したビジネスパーソンは1万7000人を超える。
「上司の言い分vs部下の言い分」記事一覧