マネーコラム

池上彰のやさしい経済学

経済学とは、そもそも何のための学問なのだろうか? 著者が解説~池上彰氏(1)

2012/4/20

 「お金はなぜお金なのか?」「資本主義は失業者を生み出す?」「産業の空洞化って何?」。経済学の基礎知識を身につければ、最新ニュースも驚くほどよくわかります。

 わかりやすい解説でおなじみの池上彰氏が2011年に京都造形芸術大学で客員教授として経済学の基礎講座を行いました。BSジャパンやテレビ東京で放送され話題となった同講義は、「池上彰のやさしい経済学」1巻・2巻として書籍に完全収録されています。

 「出世ナビ」チャンネルではそのエッセンスを10回に分けて連載した日経Bizアカデミーの記事を順次再公開します。講義は学生向けですが、経済のしくみについて理解を深めたいビジネスパーソンにもおすすめです。

経済の語源は中国語の「経世済民」

 「経済」という言葉は、明治以降に日本で生まれた、つくられた言葉です。それまで経済という言葉はありませんでした。明治維新で日本が鎖国を解くと、海外からいろいろな言葉が入ってきましたが、「エコノミー」という言葉もこのとき入ってきて、これを何と訳そうかということになりました。

 いろいろ考えた結果、中国に「経世済民」という言葉がある、じゃあこれを使おうかということになりました。

 経世というのは「世を治める」の意味です。「済民」は「民を救う」という意味です。世を治め民を救う、この4文字の言葉から「エコノミー」は「経済」と訳したらどうかということになり、そのまま経済という言葉として定着しました。

 実は「経済」とは別に、もうひとつ訳がありました。「理財」です。「理」というのは「ことわり」、理論ですね。「財」は財産。商品やお金と言ってもいいでしょう。お金の流れ方を調べるという意味で「理財」という訳もつくられたんですね。

 このように「経済」と「理財」という2つの言葉が生まれたのですが、いつしか「経済」を一般的に使うようになりました。いまでも年配の方には「理財」という言葉を使う人がいます。

 現在、経済学は「マクロ経済学」と「ミクロ経済学」、大雑把にこの2つの分け方で考えるようになっています。マクロ経済学は、たとえば景気が悪いときに政府はどんな対策をとればいいのだろうかという、大きな経済のメカニズムを考える学問です。

 一方、ミクロ経済学というのは、私たち消費者や家計がどのような消費行動をとるのか、また生産や雇用など企業がどのような行動をとるのか、細かいメカニズムや法則性を見つけて分析する学問です。

 この講義では、マクロとミクロの両方をとりあげますが、あまり難しい概念を使うことなく、みなさんに経済学的なものの見方を教養として身につけてもらう、そういう趣旨でお話をしていきます。

経済学とは「選択の学問」である
何かを選択することは、別の機会を捨てていることでもある

 経済学とは何か。それは、資源の最適配分を考える学問です。世の中のあらゆる資源に無限のものはありません。たとえば天然資源で言えば、鉄鉱石や石炭、あるいは石油や天然ガスなどを考えてみても、資源というのはみんな限られていますね。その限られている資源をどのように有効に使えば、私たちの暮らしが少しでもよくなるのだろうか。それを考えるのが経済学です。

 つまり、経済学というのは選択の学問と言っていいでしょう。あらゆる資源は必ず限られている、有限であるという「資源の希少性」という考え方があります。限られた資源をどう選択するのか、それが経済学と言えます。

 そして、何かを選択しているということは、それ以外のことを捨てていることになります。その捨てているもの、これを「機会費用」と言います。何かを選択することによって、別の貴重なチャンス、すなわち「機会」を捨てている、その費用を払っている、こういう考え方もできるのです。

 機会費用を企業の経済活動に当てはめて考えてみます。ある自動車会社が新しく生産ラインを作るとします。その生産ラインで、中型車を作るのか、小型車を作るのか、あるいは軽自動車か高級自動車か選択します。

 どれか1つを選ぶということは、それ以外の種類の自動車を作るチャンスを捨てるということです。ひょっとしたら、ほかの車種のほうが売れるかもしれない、そのチャンスを失うわけです。でもそのチャンスを失っても、選択した車種のほうが儲かるという計算があるから、それを選択したわけですよね。

 このように、企業経営者は常に無意識のうちに機会費用を考えているということです。ある意味、「捕らぬ狸の皮算用」みたいな、そんな感じがあります。失敗すると「隣の庭の芝生は青いな…」と思ったりもするわけですね。

なぜ高級ホテルのコーヒーの値段は高いのか?
~ものの値段は需要と供給で決まる

 「需要と供給」という言葉はみなさんも聞いたことがあると思います。欲しいという「需要」と、売りますという「供給」。これによって、ものの値段は決まっていきます。

 みなさんにひとつ、質問を出します。高級ホテルの喫茶コーナーに行ってコーヒーを注文すると、1杯1000円以上します。どうして高級ホテルのコーヒーの値段は高いのでしょうか。ドトールコーヒーだったら200円で飲めるのに、どうして帝国ホテルやホテルオークラでは1000円以上もするのでしょうか?

いけがみ・あきら ジャーナリスト。東京工業大学特命教授。1950年(昭25年)生まれ。73年にNHKに記者として入局。94年から11年間「週刊こどもニュース」担当。2005年に独立。主な著書に「池上彰のやさしい経済学」(日本経済新聞出版社)ほか多数。長野県出身。

生徒A 宿泊費が高いので、ホテル内で売っているものの単価が高くても客が支払うから。

 そもそも宿泊費が高いからコーヒー代を高くしても支払う。何で? そこで宿泊して近くのドトールに飲みに行けばいいじゃない?

生徒B その値段を払ってでも、そこでコーヒーを飲みたいという人がいるから。

 そのとおりですね。高級ホテルは都心の一等地にあって、そもそも土地代などのコストが高いからその値段なのだろうと考える人がよくいますが、高級ホテルから一歩外に出てみると、ドトールやスターバックスがあったりします。

 同じ一等地でも、そこでは安い値段で売っている。確かに地価も高いだろうけど、それがコストを引き上げていることにはなりません。

 ではなぜ高いのか? 高級ホテルの喫茶で雰囲気を楽しみながらコーヒーを飲む、その雰囲気を楽しむためであれば、高いお金を出してもかまわないという人が大勢いるから高い値段で成り立っているんです。需要と供給の話で言えば、高い値段でもそこで飲む人がいるから、高いコーヒーが供給されているということですね。

 このように、ものの値段は需要と供給でもっぱら決まります。経済学には、需要曲線供給曲線のグラフがあります。経済学というのは、とりあえずこのグラフの読み方、この概念を頭に入れれば、それでいいようなものです。

詳しいグラフの読み方については、書籍『池上彰のやさしい経済学 1しくみがわかる』で詳しく解説しています。ぜひ手に取ってご覧ください。書籍では、イラストや図解、用語解説が豊富に掲載されており、ひと目でわかる工夫が随所にされております。読むだけでなく、目で見て楽しく無理なく「経済」が学べる1冊です。

(イラスト:北村人)

 次回は、ズバリ「お金」について解説します。

[日経Bizアカデミー2012年4月20日付]

池上彰のやさしい経済学 (1) しくみがわかる (日経ビジネス人文庫)

著者 : 池上 彰
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 648円 (税込み)


池上彰のやさしい経済学 (2) ニュースがわかる (日経ビジネス人文庫)

著者 : 池上 彰
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 648円 (税込み)


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