ラップのMCバトル、人気再燃!
高校生大会や地上波放送
ラップのMCバトル人気が盛り上がりを見せている。MCバトルとは、DJに合わせてフリースタイルと呼ばれる即興のラップを行い、1対1で言葉をぶつけ合うバトルゲーム。どんなリズムに乗せて韻を踏むのか、相手の口撃をいかにうまく返すかなどが判定され勝者が決まる。2003年公開の映画『8 Mile』で、米国人ラッパー・エミネムがプレイして、日本でも広く知られるようになった。
日本のMCバトルの歴史を振り返ると、1999~01年のヒップホップの祭典「B BOY PARK」でKREVA(KICK THE CAN CREW)が3連覇を飾り、実質的に日本のトップとなったことがひとつの起点となっている。彼を倒さんとばかりにシーンが盛り上がり、様々なMCバトルイベントが開かれるようになった。
そんななか、12年に「高校生RAP選手権」という企画が、BSスカパー!(スカパーJSAT運営の無料チャンネル)の番組『BAZOOKA!!!』で始まった。参加資格を高校生とそれに準ずる年齢に限定して半年に1度開催され、今や一大会のエントリー人数は800人を超える。不良や引きこもり、ネットラッパーに女子高生など、個性ある若者たちによるそれぞれの生い立ちなどを全面にぶつけたバトルが評判となっている。番組プロデューサーの中村宏信氏は、「ラップは楽器などを買わなくても始められるので、若者との相性がいい。こういう大会もできたことで、さらに飛びつきやすくなったのではないか」と語る。
また高校生がラップを通して繰り広げる筋書きのないドラマは、ヒップホップファンだけでなく、幅広い層に受けるコンテンツとなっている。大会の規模は拡大の一途で、第3回からはイベント化し、最新の第9回大会は3600人収容の大阪南港ATCホールで開かれた。そして、次回8月30日に開催される第10回大会の会場には、日本武道館が決定している。
北川景子もファンと公言
2015年9月からは、地上波でもMCバトル番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)の放送がスタートした。ロール・プレイング・ゲーム的な要素を取り入れ、挑戦者の若手ラッパーがモンスターと呼ばれる一線級のラッパーを倒していくごとに賞金を獲得できる仕組み。モンスターラッパーには、般若、漢a.k.a.GAMI、R-指定、サイプレス上野などのトップフリースタイラーに加え、「高校生RAP選手権」で優勝経験を持つT-PABLOWと、豪華な面々が顔をそろえる。関東ローカルの深夜放送ではあるが、YouTubeの公式チャンネルにはバトルの模様がアップされていることもあり、ファンが急増。わずか半年でYouTubeの総再生回数は2600万回を超えている。
演出を手がけるテレビ朝日の岡田純一氏は「反響は大きく、一般の方に加えて芸能人からもファンだと声をかけられる機会が増えた」と言う。実際、女優の北川景子が交流サイト(SNS)に「毎週見てる」と書き込んで話題にもなった。審査員で出演中の日本語ラップのパイオニア、いとうせいこうは、「MCバトルは、ラップカルチャーの中でもスポーツに近いキャッチーな存在。相手の攻撃を歌って返すなんて競技は他にはない」と語る。
また最近では「芸人ラップ王座決定戦」などのように、お笑い芸人同士が競い合う、MCバトル大会も開催されており、新たな広がりを見せている。
「高校生RAP選手権」では審査員、『フリースタイルダンジョン』ではMCとオーガナイザーを務めるZeebraは、「MCバトルの裾野が広がり、才能ある若い子たちが続々と出てきている。世間でも話題になっているこのチャンスを生かし、ヒップホップシーン全体で盛り上げていきたい」と語る。
年齢やジャンルを飛び越え始めたMCバトルの快進撃は、この先も続きそうだ。
(ライター 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2016年5月号の記事を再構成]
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