今どきの二つ折り財布は「タフな革」が決め手
今買いたい財布&コインケース
きれいな状態が長持ちするから好印象
ビジネスシーンで財布をお披露目する機会はそう多くない。だからこそ目に触れると強く印象に残り、パーソナリティーをはかる判断材料にもなる。そう、財布を見ればその人の嗜好や性格まで見えてくるのだ。
前回「人気のファスナー長財布、今買うならL字でより薄く」では、トレンド感のあるファスナー長財布を紹介した。しかし定番の二つ折り財布の人気も根強く、いまだユーザーは多い。人気の理由は、使い勝手の良さにある。札、小銭、カードが入るオールインワン設計でコンパクト。休日は手ぶらで外出したいという人にとって、特にパンツの後ろポケットに入るサイズは大きな魅力であるに違いない。
しかし、この"後ろポケットに入れる"ことは、二つ折り財布のメリットでもあると同時に、デメリットでもある。財布をポケットに入れたまま座ることも多いため、どうしても財布が傷んでしまう。そのまま座ることが少ないとしても、肌身離さず持ち歩くので、カバンに入れておく長財布よりもやはり劣化は早くなる。革製品の場合、使用感や経年変化は味わいとして評価されることも多いが、それを好意的に見るか、「汚れている・傷んでいる」と捉えるかは人それぞれ。ことビジネスシーンで使用するなら、きれいな財布のほうが無難だと言わざるを得ない。
そこで今注目されているのが、エイジングしにくい革で作られた二つ折り財布だ。
エイジングしにくい革と聞いてもピンとこない人は、高級ブランドの財布を思い浮かべてほしい。エルメスやヴィトンといったメゾンブランドの財布は革製なのにあまり経年変化していないはず。もちろん使えば劣化していくが、革の味わいが増していくようなエイジングではない。できるだけ新品の状態をキープするような作りになっている。このようなハイブランドの商品は未使用の状態が最良と考えられているからだ。エイジングに抵抗がある女性を主なターゲットとしていることも大きな要因だろう。
今回は、革製にもかかわらず、きれいな状態が長持ちする二つ折り財布の注目作を紹介する。いずれもジャパンブランドで、ただエレガントなだけではない男心をくすぐる特徴を持つ。これらの細部を見ていくことで、二つ折り財布選びのポイントが見えてくるはずだ。
ハイブランドの財布を想起させる「ペッレ モルビダ」
著名ファッションディレクターの干場義雅氏が手がけるペッレ モルビダは、30代後半から40代の多くの男性に支持されている。伊勢丹や阪急メンズ館をはじめとする全国の百貨店、バーニーズ ニューヨークやビームスといった人気セレクトショップで取り扱いがあり、今もっとも勢いがあるブランドの一つといえるだろう。
今までのジャパンブランドにはない、「優雅な船旅に持って行きたくなるような上品で良質な製品」を展開。ハイブランドを想起させるエレガントなデザインながら手が届く適正価格で、メード・イン・ジャパンの高品質という点が魅力だ。
今回紹介する二つ折り財布も、ご覧の通りラグジュアリーな雰囲気が漂う。この上品さをキープするため、国内でなめした牛革に水シボ柄の型押しを施してある。細かなエンボスを入れることで革に傷が付きにくく、傷が付いても目立ちにくい作りになっている。また表面の凹凸により光の量感が生まれ、光沢のあるスタイリッシュな風合いも表現。さらに頭張りと呼ばれる表面のみに色付け作業を施すことで、ツートーンのような表情が出るように工夫されているのも特徴だ。
表革だけでなく内装にもこだわって作られている。カードスリットはデザイン性を追求し、一段一段丁寧に手作業でコバが塗ってあり、よく見るとフチ部分に念引きという職人技で溝が入っていることもわかる。これはデザインのアクセントとしてだけでなくフチを丈夫にするための工程で、卓越した技術が求められるものだ。
「この二つ折り財布はパンツのポケットにラクに収納できるサイズ感でのリクエストがあったため、企画しました。30代後半から40代のビジネスパーソンにご好評いただいていますが、掲載のトープカラーは女性の方にも購入されています」(ペッレ モルビダ 商品部)
モータースポーツ基準の素材を用いた「ノイインテレッセ」
モータースポーツ由来の機能美をレザープロダクトで表現するノイインテレッセ。そのためデザインもスポーティーな印象のものが豊富で、プロのレーシングドライバー&ライダーなどモータースポーツ関係者に愛用者が多いことでも知られている。
注目すべきは素材使い。シャッテンシリーズの表革は、同ブランドの代名詞ともいえるハイブリッドレザー"ファイバーキュア"を使用。これはレーシングカーのステアリングやシフトノブに採用されているイタリア・キオリーノ社製の高機能レザーで、牛床革にカーボン柄の樹脂フィルムを圧着して耐久性を高めたもの。
このハイブリッドレザーは自動車メーカー基準で作られた革素材のため、一般的な服飾雑貨に使用している革に比べて耐久性が非常に高い。うしろポケットに入れることの多い二つ折り財布にこそ最適な素材で、使い続けるうちに使用感は出るものの、いわゆる経年変化はほとんどしないという。もちろん傷も付きにくい。
また内装には、柔らかく味のある風合いの超はっ水レザーを採用。汗や水ぬれに強いので、ポケットに入れていても劣化しにくいのはうれしい。ブラック×レッドのカラーリングにも男心をくすぐられる。
「シャッテンシリーズは20代後半から50代の男性と幅広い年齢層に支持されています。表革がカーボンパターンなので、車好きやモータースポーツ好きの方のご購入が多いようです」(ノイインテレッセ 商品部)
剣道の防具に使われる革を取り入れた「イタダキ」
イタダキはファッションの最先端と伝統の職人が共存する東京・下町に拠点を置き、メード・イン・トーキョーを標榜する気鋭ブランド。昭和を代表する書道家・青木香流を祖父に持つ青木渉氏が2006年に創設。革新的な活動を残した祖父に感銘を受け、ファッションを通して日本伝統を残すとともに革新的なデザインアプローチを残していくという目標を持つ。
そんな同ブランドならではのプロダクトが、日本古来の素材である黒桟革(クロザンカワ)を使用したL字ファスナー付き二つ折り財布だ。革表面のシボに漆を施して仕上げる黒桟革は、古くは戦国時代の武将の鎧(よろい)などに極上物として用いられたもので、現在は剣道防具の胴胸の素材として受け継がれている。
このことからも、その強度は推して知るべし。青松葉とワラでいぶした革を1カ月以上積み重ねた後に、鉄のさび液に漬け込んでは乾燥するという作業を繰り返し、漆を表面に擦り込んで仕上げる希少革。幾重にもコーティングされた革は耐久性に富む。
表面のシボは型押しではなく革を作る工程の中で強調された天然もので、漆によって宝石のような輝きをたたえる。
内装にはドイツのタンナー、ペリンガー社のノブレッサカーフを採用。"高貴な革"という名を冠したこの革は、繊細で上品な印象を与える。表革に日本の伝統素材を用いながら、財布全体としては現代的でスタイリッシュに仕上げている点が同ブランドの真骨頂といえるだろう。
「ご購入される方は男女20代後半から上は限りがありません。二つ折り財布はどうしても男性的であったり、カジュアルなイメージが強く出たりするため、サイズ感とディテールにこだわり男女問わず使えるように製作しています」(イタダキ デザイナー)
タフな作りだが見た目は上品なものを選ぶ
以上、二つ折り財布の注目3アイテムを紹介したが、どれもタフな革を使ってはいるものの、財布全体の見た目は上品だったはず。スマートさを求めるビジネスパーソンは、やはり品格を犠牲にしてはならない。
繰り返しとなるが、経年変化による革の味わいは、見る人によってはただの劣化と捉えられることもある。そのため、きれいな状態をキープできるエイジングしにくいアイテムを選ぶのが今どきのチョイス。パンツの後ろポケットに入れるなど負荷のかかりやすい二つ折り財布こそ、タフ素材のメリットが生かされるだろう。
(ライター 津田昌宏)
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