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使わなきゃ損! 個人型DC iDeCo

米国の経験が示唆 個人型DC、法改正で急拡大も 編集委員 田村正之

 

2016/5/12

=PIXTA

 大きな税制優遇があり、老後の資産形成に不可欠な個人型確定拠出年金(DC)。現在国会で審議中の改正法案が成立すれば、来年からは対象が公務員や主婦にも広がり、国民全体が加入できるようになりそうだ。米国の類似の制度である個人退職勘定(IRA)も、1981年の対象者拡大が普及を一気に後押しした。海外の先行例から見た日本の個人型DCなど私的年金の行方を識者に聞いた。

■野村亜紀子・野村資本市場研究所主任研究員

野村亜紀子・野村資本市場研究所主任研究員

 ――日本の個人型DCと米国のIRAはどう違いますか。

 「米国のIRAは税制優遇を受けながら老後に向けて資産形成していく仕組みで、日本の個人型DCと似ています。中心であるトラディショナルIRAでは、掛け金が所得控除され、運用期間中は非課税です。これは日本の個人型DCと同じです。ただ受給時は通常と同じように課税されます。個人型DCは受給時も税制優遇があるので、全体としてはIRAよりさらに優遇が大きいといえます」

 ――今はIRAは米国の企業型DCである401kを上回る資産規模です。どうしてこれほど増えたのですか?

 「IRAの創設は1974年ですが、当初は職場に年金制度がない人と自営業者だけが対象だったこともあり、加入者数はそれほど伸びませんでした。しかし81年の法改正で、原則誰でも入れるようになってから認知度が上がり、普及が加速しました」

 「現時点で日本の個人型DCを活用できるのは、自営業者など第1号被保険者と、企業年金のない会社の会社員だけですが、改正法案が成立すれば来年から基本的にだれでも活用できるようになります。米国の例を考えると、日本の個人型DCも今後大きく拡大する可能性があります。今回の法改正は米国に35年も遅れることになりましたが、大きなチャンスです」

 「IRAの拡大が進んだ80年代の米国と今の日本は共通点があります。当時の米国は財源難から公的年金の持続性が非常に危惧されていた時期で、IRAのような自助努力の制度で備えなければならないという危機感が人々の間で高まっていました。今の日本の公的年金も、人々がその役割低下に危機感を抱いているという点で当時の米国と似ています。個人型DCはその意味でも普及が拡大していくかもしれません」

 ――IRAと比べた日本の個人型DCの制度上のさらなる改善点は。

 「60歳まで原則引き出せないのは厳しすぎると考えています。米国では引き出しは原則59.5歳からですが、その前でも10%のペナルティーを払えば引き出せます。最初の住宅購入など幾つかの例外的な要件に該当すれば、ペナルティーもなしで引き出せます。老後のための制度なので60歳まで引き出せないという日本の趣旨はもちろん正しいと思いますが、厳しすぎることが加入をためらわせている側面があります」

 「もう一つは加入対象年齢の引き上げ。日本は60歳までですが米国は70.5歳までです。どんどん高齢化が進み、なるべく長く働いてもらわなければならない時代。せめて公的年金の受給開始時期である65歳までは加入できるようにすべきではないでしょうか。もちろん、拠出限度額のさらなる引き上げも大事だと思います」

■杉田浩治・日本証券経済研究所特別嘱託調査員

杉田浩治・日本証券経済研究所特別嘱託調査員

 ――日本では保有金融資産の過半が現預金です。DCでの運用も元本確保型に偏っています。米国ではどうですか。

 「IRAも当初は今の日本と同じように預貯金での運用が中心でした。80年当時は銀行預金が80%を占めていたのです。しかしその後、米国の株価が長期上昇に転じたことに加え、企業型DCの投資教育によって運用の重要性が浸透したことなどから、株式組み入れファンドなど投資信託での運用の比率が高まっていきました。日本も今後そうした道筋をたどることが期待されます」

 「米国のIRAの仕組みで面白いのは、通常の拠出額年5500ドルに加え、50歳以降は年1000ドル上積みできること。資産形成の残り期間が少なくなってきたときに、いわば駆け込みで拠出額を増やせるのです。こうした仕組みは日本でも必要なのではないでしょうか」

 ――IRAに限らず、米国の私的年金全体の動きを教えてください。

 「確定給付型(DB)から、401kなど企業型DCやIRAなどDCへのシフトがどんどん進んでいて、すでに残高はDCがDBを上回っています。ただし課題もあります。401kなど企業年金にもIRAにも加入していない人が半数程度いることです」

 「そこでオバマ大統領は、企業年金でカバーしていない人全員をIRAに自動的に加入させる(原則は自動加入で、あえて希望した場合だけ脱退を選択できるというオプトアウト方式)法案を議会に提案しましたが、企業の事務負担が重いとして反対が多く、成立に至っていません。日本でも企業年金のない会社員は6割ほどに達し、その人たちの大半は個人型DCもやっていません。こうした課題は日米で似ています」

 ――英国やオーストラリアも年金を巡って変革が続いていますね。

 「英国では22歳以上の被用者全員をDC年金に自動加入させる(オプトアウト方式)制度が12年から始まり、大企業を皮切りに順次対象企業を拡大中です。他に企業年金を実施していない雇用主は、全従業員をDCに自動加入させたうえ、従業員給与の1%を自ら拠出し、従業員給与からの天引き分と合わせて最低2%を年金口座に納付することを義務付けています。この最低拠出率は段階的に引き上げられ、18年10月に最低8%になる予定です」

 「オーストラリアにはスーパーアニュエーションという私的年金が古くから存在していました。92年には政府は全雇用主に対し、全従業員を対象にスーパーアニュエーションへの拠出を義務付けました。当時の強制拠出率は給与の3%でしたが、徐々に引き上げられ、19年度には12%になる予定です」

 「このように世界各国で、いかに私的年金を拡充していくかという試みが、どんどん実施されつつあります。日本でも制度を今後もより良いものにしていく一方、個々人にとっての賢い使い方についても、さらなる教育と周知が重要だと思います」

老後貧乏にならないためのお金の法則

著者 : 田村 正之
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)

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