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おもてなしの原点「43センチ」 味の番人も兼ねる匠

久原本家の挑戦(2)

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NIKKEI STYLE

福岡県の小さなしょうゆ蔵から成長し、茅乃舎ブランドで知られるようになった久原本家グループ(福岡県久山町)。徹底した顧客本位主義の裏には、新興ブランドゆえの認知度の低さから悔しい思いをした歴史がある。苦労の時代を支えたのは、今もグループの総本店で店員として働くある女性。「おもてなしの匠(たくみ)」と社内で評されるまでになったその姿勢は、味の面でも妥協を許さなかった。

1990年、久原本家の前身である久原調味料は新規事業に打って出る。当時の調味料事業はしょうゆを使ったギョーザや海藻のタレなどを大手メーカーにOEM供給する程度。河辺哲司社長と縁のある福岡市の老舗百貨店、岩田屋(現岩田屋三越)社長から、新商品取り扱いの提案を受けた。「めんたいこをやりたい」。久原初の自社ブランド商品の誕生だ。

このめんたいこは「椒房庵(しょぼうあん)」ブランドで、現在も店舗売りでは福岡県限定で販売している。新ブランドの展開に合わせて入社したのが、今、おもてなしの匠と呼ばれる寺沢美代子さん(63)だ。福岡空港の土産物売り場の一角、岩田屋のめんたいこブースで販売を始めた。

「商品を置ける棚の幅はたった43センチ。自分が前に立ったら見えなくなるんだから」。お客が来ては右に左にと商品が隠れないように曲芸の日々だったと、寺沢さんは振り返る。不利なのはそれだけではない。椒房庵に割り振られた商品棚は、地元福岡の老舗料亭がつくる人気のめんたいこ商品の真横。飛ぶように売れる様子を隣で見ていた寺沢さんは羨望の目で見つめつつ、こう誓った。「いつか絶対に越えてやる」

「なんて読むかもわからないめんたいなんか、持って行けるわけなかろうもん」。現実は厳しかった。空港でめんたいこを買う顧客の大半は贈答品に使う。知名度のないブランドはハナから購入対象にはならなかった。寺沢さんの「負けたくない」という思いは募る一方。椒房庵はめんたいこの最後発でもあり、他社との違いを出す工夫をしていた。北海道産の良質なスケソウダラのたらこを使い、味を薄めに仕上げていた。「これは他とは違う味でおいしい」。自社商品を試食した寺沢さんは「食べてもらえばわかる」と、熱心に試食を勧めた。時はバブルまっただ中。「そんなに勧めるなら、ひとつ入れとけ」とついでに買っていく人もしばしばいたという。そんなお客の中から「ほかとは味が違う」とリピーターが育ってきた。

寺沢さんの熱意が及ぶのは店頭にとどまらなかった。工場に乗り込み、河辺社長に詰め寄ることがしばしばあった。「これがうちの味なら売るけどいいのか」「こんなの売ったら言葉じゃ『ありがとうございました』って言うけど、心の中では『申し訳ございません』って言うよ」。

椒房庵のめんたいこは味付けが薄い分、味が安定しなかったり、胆汁の黒い部分が残っていたりした。「お客さんがお土産として持って行くものなのに、中途半端な物は売れない」。寺沢さんの信念だった。「そんなこともあったなあ。ケンカした」。河辺社長も寺沢さんとの一件を遠い目をしながら思い出す。

自社商品の味に自信を持った寺沢さんは接客ノウハウの向上と顧客分析に力を注いだ。いつ、どれだけ売れたかを手書きのノートに書き留め、どのサイズの商品が売れるかを予測した。領収書に書かれた名前を覚え、再び来店してくれた時には名前で声がけするようにした。まとめ買いをしてくれた人の名前と特徴を小さな手帳に書きとめていたのだ。今でもリピーターとなった当時の客の名前がすらすらと出てくる。

ゆずや昆布、ワサビを使ったバリエーション商品の売れ行きも分析した。なぜ売れないのか、試食したのになぜ買わないのか、お客を追いかけて聞いたこともあった。「ゆずの香りがたりない」「わさびの風味がしない」。どれも耳に痛いクレームだったが、全てを聞いて工場に改善を提案した。寺沢さんの味へのこだわりは「自分が割引なしでも買いたいかどうか」と言い切る。ぶれない物差しができあがっていた。

容器にもこだわった。当初は見栄えがするたる型の容器を使っていたが、いくつも買うと飛行機に持ち込むのに邪魔になる。「たるじゃなくて箱がいい」と、また河辺社長に直訴。容器変更にはコストがかかるが「寺ちゃんがそこまで言うならば」と新容器の導入が決まった。新容器の採用後、販売数量を比べ、箱の方が売れる実績を示した。

顧客ニーズを探る取り組みは終わらない。中身を見せろと言われれば、売りものにならなくなるとわかっていても中身を見せた。「不安な気持ちでお土産にしてほしくない」からだ。購入客にお礼状を書くことも多いが、印刷ではなく手書きする。空港の売り場は1人で10年切り盛りした。その後、椒房庵から担当が変わっても店頭での基本姿勢は変わらない。今も久原本家の総本店(福岡県久山町)で販売の現場に立つ。

寺沢さんが身をもって示した久原本家の顧客第一主義は、今も脈々と受け継がれている。2月23日、東京・麹町にある東京オフィスの会議室、河辺社長の前に翌日開店する新店舗に立つ社員やパート、アルバイトが勢ぞろいしていた。河辺社長は講話の後に手をつなぎ円陣を組んで「明日から頑張ろう」と号令をかけた。社長講話が長引くのはいつものこと。ミーティングは予定時間を過ぎて3時間近くになっているのに20代のスタッフも含めて表情はなぜか生き生きとしている。

「あえて博多弁で語りかける。お客さんのために一生懸命やろうって」と、河辺社長は語る。真剣なまなざしが、若手に受け入れられるかも心配になる。ただ店員の表情を見る限り、感動している。不思議に思うと、「社長の私が一番不思議。ほんとに謎の宗教集団やね」と笑う。

流通業の現場では人手不足が叫ばれ、時給を上げて人材を確保するケースも多い。「時給は高い方がいいけど、それだけではだめ。生きがいや働きがいがないと、自分が必要とされていると思えないと」。河辺社長は社員、パート・アルバイトと一体感を持つ必要性を強調する。

「『今の時代に何言ってるの』と言われるかもしれないけど、仲間だ、家族だって意識が重要。それを求める人はいる」。大切にされれば、自分も人を大切にしようとする。入社式で新入社員に対し「我が家へようこそ」と語りかける。福岡で毎年1回開く経営方針説明会に一人でも多くの社員やパートが参加できるようにと、店舗の閑散期を調べ、決算期を変えてしまったほどだ。

茅乃舎や椒房庵でのおもてなしの工夫はまだ続く。ただ、黎明(れいめい)期に自分の思い入れがつまった商品を一生懸命売ってきた寺沢さんはときどき不安に思う。「今は商品を売ってない。ただ売れているだけ」。お客さんが商品を買ってくれることは当たり前ではない。寺沢さんは今日も総本店で、来店したお客の車が見えなくなるまで見送り続ける。

(西部支社編集部 川名如広)

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