若さの維持に抗酸化物質 摂取源トップは周知の飲料
日経BPヒット総合研究所 西沢邦浩
老化を進める要因は何か。
それをつきとめる手がかりとして、沖縄科学技術大学院大学の柳田充弘教授らは、健康な若者15人(平均29歳)、高齢者15人(平均81歳)の血液を採取し、その中に含まれる126の代謝物を解析、その結果を米科学アカデミー紀要で発表した[注1]。
すると、高齢者で低下していたのは、カルノシン、オフタルミン酸やNAD+といった、抗酸化に関わる代謝物とロイシン、イソロイシンなどの筋肉維持に必要なアミノ酸だった。
カルノシン、オフタルミン酸、NAD+……どれも聞き慣れない名前かもしれないが、カルノシンは長い距離を飛ぶ渡り鳥の胸肉に多い物質で、抗酸化力を持つとともに、今、疲労回復成分としても注目されているペプチド(イミダゾ―ル・ジペプチドとも呼ばれるアミノ酸の結合体)である。オフタルミン酸は、体内で作られる抗酸化物質グルタチオンが肝臓などで抗酸化に働くのに伴い生成される物質。また、NAD+はナイアシン(ビタミンB3)が体内で変化し、酸化還元に働いた後の形だ。
3成分とも健康長寿との関わりが研究されている注目の物質でもある。
「高齢者で減っているのは、抗酸化や身体活動性に関わる代謝物だった。たとえば、カルノシン量は若年と高齢者で3倍近い差があった。筋力の低下を防ぐためのたんぱく質をとるとともに、緑黄色野菜などから抗酸化物質をしっかり摂取する必要がある」(柳田教授)
柳田教授は、血液からその人の老化度がわかる指標の構築を目指して、さらに研究を進める予定だ。
老化と生活習慣病の予防に抗酸化物質を
若々しさを保つのに欠かせない「抗酸化力」についておさらいしてみよう。
ヒトは空気から酸素を取り込み、生命活動に必要なエネルギーを生み出しているが、使われなかった酸素の一部は「活性酸素」に変わる。これが多すぎる状態になると、遺伝子や脂質、体の組織までが酸化し、老化や生活習慣病といった疾病の原因になる。
体の酸化を進めるものはほかにも、紫外線、大気汚染、喫煙、飲酒など様々。こうした酸化の害から身を守るために、私たちの体の中では先に挙げたグルタチオンや尿酸といった抗酸化物質が生成され、活性酸素を消去したり、酸化の害を受けた組織の修復を間接的に助けたりしているわけだ。
しかし、この防衛システムは加齢とともにパワーダウンしていくため、食品などから抗酸化物質をとって補強する必要がある。ビタミンCやE、緑黄色野菜の色素成分カロチノイドや植物に含まれる色素・苦み・渋みなどの成分であるポリフェノールが代表的な抗酸化物質だ。
また、抗酸化物質を十分にとることのメリットも多くの研究で実証されつつある。
たとえば、「β-カロチンやルテインなどカロチノイドの血中濃度が高い人たちは低い人たちに比べうつになるリスクが6割近く低い」、「ポリフェノールの一種であるフラボノイド類の摂取量が多いほど体重が増えにくい」といった、抗酸化物質の摂取が心身の良好な状態維持に役立つとする報告は多い[注2]。
以下に、なかでも主に植物から摂取するポリフェノールが私たちを老化の害から守り、寿命を伸ばす可能性を指摘した研究をいくつか紹介する。
まずは、加齢に伴い進行するおそれがあり、健康寿命を短くする要因であるフレイル(筋力や心身の活力が低下した状態)の予防に働くとする報告から。
65歳以上の高齢者のデータ811人分を解析したイタリアの研究で、体の中を通り尿に排出されるポリフェノール量が最も多い群は最も少ない群に比べ、フレイルになるリスクが6割以上低かった[注3]。
また、やはりイタリアで65歳以上の男女807人を12年間追跡した研究によると、最も多くポリフェノールを含んだ食事をしている群は、少ない人たちに比べて、死亡率が約3割低かった[注4]。
心血管疾患リスクが高い55~80歳のスペイン人7447人を約5年間追跡した研究でも、高ポリフェノール摂取群は低摂取群に比べ、37%死亡率が低くなっている[注5]。
抗酸化物質をしっかりとるかとらないかで生まれる差は想像以上に大きいといえそうだ。
野菜や果物がなかなかとれないなら、せめて意識してコーヒーを
カロチノイドやポリフェノールといった抗酸化物質の主な摂取源として、通常真っ先に挙がるのはカラフルな緑黄色野菜や果物だが、残念ながら日本人の野菜・果物の摂取量は多いとはいえない。
やや古いデータだが、日本人の一人当たり野菜消費量は、先に挙げたポリフェノール摂取量と死亡率の研究が行われたイタリアやスペインより3割以上少なく、果物に至ってはイタリアの約3分の1、スペインの約2分の1しか食べていない。
これでは抗酸化物質が十分にとれているとは考えにくい。
一方、抗酸化物質の摂取源は主に飲料だとする統計もある。
21~56歳までの109人の1週間分の食事内容を分析した研究によると、日本人のポリフェノール源の約半分を占めるのはコーヒーだというのだ。1位のコーヒーが47%、2位の緑茶が16.4%で、野菜とジャガイモを合わせて4%、果物はたった1.4%の寄与率にとどまっていた[注6]。
これは野菜や果物の摂取量が少ない日本人ならではの現象ではないかと疑ったが、必ずしもそういうわけでもなさそうだ。
45~60歳までの4942人のフランス人がそれぞれ6日分以上の食事日記をつけ、その内容を見たところ、総ポリフェノール摂取量中、寄与率が1位なのは日本と同様コーヒーで44%、2位の紅茶が9%という結果になった[注7]。
洋の東西を問わず、コーヒーや常飲する飲料類は抗酸化物質の摂取源としてかなり大きな比重を占めるようだ。
そして、米国人約20万人分のデータを分析したところ、1日3~5杯のコーヒーを飲む人は、飲まない人に比べて死亡するリスクが15%低いという結果も発表された。ノンカフェインコーヒーでも同様の傾向がみられるため、これはコーヒーに含まれるポリフェノールの影響だと考えられている[注8]。
若さ維持のためには、野菜や果物をたっぷりとりたい。しかし、なかなか日々の食生活でそれが難しいという人は、寝覚めや休憩時間に、1日何回かコーヒーを楽しもうではないか。
もちろん、ノンカフェインコーヒーでない場合、寝る前の一杯は避けよう。
[注2] Br J Nutr. 2013 May;109(9):1714-29.
BMJ. 2016 Jan 28;352:i17.
[注3] J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Sep;70(9):1141-7.
[注4] J. Nutr. September 1, 2013 vol. 143 no. 9 1445-1450.
[注5] BMC Medicine 2014, 12:77.
[注6] J Nutr Sci. 2014 Oct 22;3:e48.
[注7] Am J Clin Nutr. 2011 Jun;93(6):1220-8.
[注8] Circulation. 2015 Dec 15;132(24):2305-15.
日経BPヒット総合研究所 主席研究員・日経BP社ビズライフ局プロデューサー。小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。
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