オスもおだてりゃ…(上)遺伝子をつなぐ話
旭山動物園のある旭山はエゾヤマザクラの名所です。旭川の桜の見ごろは例年5月10日前後ですが、最近は5月の初旬頃です。冬期開園が終わり夏期開園の始まるまで3週間くらい閉園期間があります。閉園中は少し骨休みができますねと言われるのですが、実は一年で一番忙しい期間です。
冬期間は降雪により十分に掃除ができず雪が解けることで大量の落葉があるのでその掃除に始まり、積雪により傷んだ獣舎や舗装の補修、開園中はごまかしながら使っていた設備関係の補修、改修、飼育員による手書き看板の全面書き換え、動物舎の遊具の新設などなど、全員休み無しで夏期開園を迎えます。
■いかにして子孫を残すのか
さて本題に入りましょう。動物には群れをつくる、単独で暮らすなどさまざまな生活形態がありますが、どの動物も自分のための暮らし方ではなく、いかに子を育み次世代にバトンをつなぐか、のための暮らし方です。そしていかに自分の子孫(遺伝子)を残せるのかが大きなポイントになります。
社会性のある動物のオスがなぜその群れの中で高い順位を目指すのか? 「オスは生むことができない」のでメスを獲得し交尾する権利を得るためと考えられています。メスはより強いオスの子を宿す方が、子の生存確率も上がるので争いに勝ち残ったオスが群れを率いてくれる方が都合がいいことになります。
群れの構成メンバーは血縁でつながった母系集団の場合が多く、ニホンジカ、ニホンザル、ゾウやライオンがそうです。生まれたオスもメスも群れにとどまっていては近親交配のリスクが高くなるから、どちらかが群れを出なくてはいけないのです。多くの場合オスの子は成長すると群れを出て行くことになります。生きものにオスとメスが生まれた時からの掟(おきて)なのです。

ライオンはプライドという群れをつくります。たてがみの立派な少数のオスと複数のメス、それとそのオスの子供たち。狩りはもっぱらメスの仕事でオスは縄張りのパトロールです。
縄張りはすなわち獲物となる動物の確保につながります。群れの中のオスの子は兄弟や異母兄弟で2歳くらいになると群れを追い出されます。この若いオス同士の結束は強く、自分たちで狩りをし成長し、別のプライドのオスに闘争を挑みプライドを乗っ取ります。
プライドを乗っ取ると、そのときの子を殺してしまいます。メスは子がいなくなるとホルモンのバランスが変わりすぐに発情がきて、新たなオスと交尾をし子を産みます。オスはメスと我が子を守るために縄張りの維持、拡大を図り新たな挑戦者と戦うことになります。
■オスがいくら多くても次代につながらない
もちろん若いうちに成獣のオスに殺されたり、獲物も少ない過酷な環境に追いやられ命を失う個体も多いのです。飼育下では20年程度の寿命がありますが、野生下のオスは10歳を超えることはまれなのです。結果的に子殺しに遭うとはいえメスは自分の遺伝子をより多く残すことができます。
チンパンジーもハーレム型の社会を形成しますがメスの子は成長すると群れを出ていき、別の群れに迎え入れられます。生まれた時はオスメスの性比は1対1なのですが、成獣の性比は1対3程度になります。
つまりオスはハーレムのメスを獲得するために他の群れのオスとも戦いハーレム内の若いオスとも戦い、時には群れを追い出され死んでいるのです。ハーレムを持つオスの権力は絶大なのですが、一方でメスに無視をされると一瞬で存在の意味をなくし、無気力になり生きる場をなくしてしまうこともあります。

ほ乳類の場合オスの方が立派な体格をしていて、メスに対して威張っているように見えますが、実はオスははかない命なのです。オスはたくさんいても次代につなげません。「生めるメス」に実は支配されているのかもしれません。
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