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2時間の派遣社員向け無料キャリアコンサルティング講座を担当するリクルートスタッフィングの中居るみ子氏(4月13日、東京都中央区)

2時間の派遣社員向け無料キャリアコンサルティング講座を担当するリクルートスタッフィングの中居るみ子氏(4月13日、東京都中央区)

国会論争を経て成立した改正労働者派遣法が、2015年9月末に施行されて半年が過ぎた。大多数の派遣社員が3年で職場を変えなければならなくなるなど、改正内容は多岐にわたる。派遣社員から見て利点は、派遣元による教育訓練やキャリアコンサルティングの義務化だ。訓練の中身や派遣社員の受け止め方を探った。

インフラ産業に派遣社員として勤めて8年になる50代の女性、Aさんは「教育訓練について会社からまだ連絡がない」と不安を感じている。表計算ソフトなどを自分で勉強してきたが「機会があれば正式に学びたい」と考えているからだ。

Aさんは3カ月ごとに派遣会社と労働契約を反復更新してきたが、派遣法改正後初の更新期だった昨年末、担当者に「今回から3年で契約は終わりかもしれない」と告げられた。担当者は長く働いているAさんを「無期雇用にして派遣を続けられるようにすることなど、色々考えている」という。Aさんは「派遣先が私の技能を3年後も必要とするかどうかで今後が決まる」と危機感を抱く。このため教育訓練の機会がどうなるか、落ち着かない日々が続く。

改正では専門26業務を廃止し「派遣は専門職である」という派遣法制定以来の大原則があいまいになった。一方、勤続可能期間の3年限定で「派遣は臨時的一時的な雇用」との側面が強調された。とはいえ派遣社員にとって自分の職能や技能がカギであり、それがなければ再派遣も転職もままならない。

では、職能教育に誰が責任を持つのか? 従来ほとんど無視してきたこの問いに対し、改正法は「派遣会社に段階的かつ体系的な教育訓練を行う義務がある」と明らかな答えをだした。具体的にいうと、厚生労働省は派遣業への許可要件として、毎年おおむね8時間、有給・無料で教育することを定めた。

教育する義務について派遣業各社はまだ、準備段階にある。約4万5千人の実働者を抱えるリクルートスタッフィング(東京・中央)の研修センターマネジャー、湊恭美子さんは「入社時研修など、法改正で求められる研修の一部は始めているものもある。でも教育本体についてはeラーニングコンテンツを大急ぎで開発しており、夏ごろから順次稼働させたい。近く派遣社員に内容を伝えるつもりだ」と話す。

湊さんによると同社は派遣初心者、経験2~5年の中堅、5年以上のベテランの3層に向けたコンテンツを作っている。初心者向けのコミュニケーション術から上級OAスキルまで数十種ある。派遣社員から見た場合、帰宅後、自分のパソコンで8時間分のeラーニングを受け、後日、時間分の賃金が支払われる形になりそうだ。

ただ複雑な職能教育のために8時間というのは中途半端だ。同社は8時間分以外に、広範な専門教育コンテンツを市場の半分ほどの金額で派遣社員に提供する考えだという。貿易実務、簿記、表計算ソフトなどが考えられる。

業界団体の一般社団法人日本人材派遣協会は約6000万円かけて570社強の会員企業向けに、独自の「JASSAキャリアカレッジ」を作成中だ。副会長で東京海上日動キャリアサービス社長の上月和夫さんは「全国の会員に聞いたところ、中堅以下の派遣会社は3年で24時間提供しなければならない教育をどうするかで大変苦しんでいた。それなら思い切って会員向けに自前のコンテンツを作ろうと考えた」と説明する。

協会のコンテンツは派遣社員を3層に分ける点などが前述の企業の例と似ているが、会員共通であるため基本的な内容のようだ。「30コンテンツから始めるが、100くらいまで拡大したい」(上月さん)。パソコンやスマートフォンで受講でき、会員企業のコストは受講者1人30日あたりの利用で100円だという。

改正法の教育訓練の主目的は職能を上げることだが、派遣社員に「派遣からの卒業」を促すという第2の目的がある。日本人材派遣協会のコンテンツには「就職活動アクションプラン」や「雇われ続ける力」の講座がある。さらに改正法は、希望者にキャリアコンサルティングすることを派遣会社の義務と定める。狙いは労働力移動を促し、正社員にすることで、派遣会社は法の意図に沿ってコンテンツを作っているといえる。

ただ、派遣会社にも派遣社員の正社員化を進めたい事情がある。労働契約法18条という別の法律により、通算5年を超えて同じ派遣会社に所属し続けた派遣社員には、無期雇用に転換する選択肢が与えられる。だが弱小の派遣会社は、転換者を抱えきれない。

改正法では、教育訓練が不備な派遣会社には営業自体を許可しない。派遣社員はこうした業界淘汰の傾向を見極めながら、望む教育内容を持った派遣会社を選ぶ知恵が必要だ。(礒哲司)

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